この記事のポイント
- 作業療法の職域は、厚生労働省の通知で例示されたADL訓練・IADL訓練・就労支援(職業関連活動の訓練)・住環境の適応訓練・発達障害/高次脳機能障害のリハビリテーションの5分野が中心です
- 近年は地域包括ケア・産業保健・災害リハビリテーション・司法領域など、新しい活躍の場が広がっています
- 急性期病院から行政まで勤務先7タイプごとに、求められるスキルとキャリアの方向性が異なります
作業療法の職域(業務範囲)とは
作業療法の職域とは、作業療法士が専門性を発揮して活動する業務範囲のことです。日本の作業療法の職域は、行政が把握しているものだけでなく、実際にはさらに広い範囲に及んでいます。
ここでは、厚生労働省が2010年に発出した通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」(医政発0430第1号)で「作業療法の範囲」として例示された業務をベースに、作業療法の主要な職域と近年広がりを見せている新たな活躍の場を紹介します(出典: 厚生労働省 医政局長通知, 2010年)。
進路を考える高校生向けに、8つの職場を「行き先案内」として組み直した記事は病院だけじゃない ── OTが働く場所にあります。
作業療法士は、病気やケガ、障害のある方の「毎日の暮らし」を支えるリハビリの専門家です。「職域」というのは、作業療法士が活動している仕事の範囲のことです。
リハビリと聞くと、歩く練習や筋力トレーニングを思い浮かべる方が多いかもしれません。作業療法士が得意とするのは、食事や着替え、家事、仕事といった生活そのものに直結した練習やサポートです。
例えば「退院したあと、料理ができるか不安」「子どもの手先の不器用さが気になる」「仕事に戻れるか心配」──そんな暮らしの困りごとが、作業療法士に相談できるテーマです。この記事では、作業療法士がどんなことを手伝ってくれるのか、どんな場所で会えるのかをやさしくご紹介します。
主要な5つの職域
1. 日常生活活動(ADL)訓練
作業療法の最も基本的な職域が日常生活活動(ADL: Activities of Daily Living)の訓練です。
ADLとは、人が毎日の生活を送る上で基本となる活動のことで、具体的には以下が含まれます。
移動
車いす操作、歩行補助具の使用方法
食事
自助具を使った食事動作、嚥下に配慮した食事環境の調整
排泄
トイレ動作の自立支援、排泄管理
入浴
安全な入浴方法、入浴補助具の選定
更衣
片手での着替え、装具の着脱
整容
歯磨き、洗顔、髪のセットなど
作業療法士は、対象者の残存能力を最大限に活かしながら、これらの動作の自立度を高める訓練を行います。必要に応じて自助具の作成や選定も行います。
2. 手段的日常生活活動(IADL)訓練
ADLよりも複雑な生活行為を手段的日常生活活動(IADL: Instrumental Activities of Daily Living)といいます。
IADLには以下のような活動が含まれます。
家事全般
掃除、洗濯、料理
買い物
商品の選択、金銭管理
外出
公共交通機関の利用、自動車運転の評価
服薬管理
薬の管理と正確な服用
電話・通信機器の操作
スマートフォンやパソコンの利用
社会生活を送る上で欠かせないこれらの活動を、対象者が再び行えるよう支援します。特に在宅復帰を目指す方にとって、IADL訓練は非常に重要です。
3. 職業関連活動の訓練(就労支援)
働くことを目標とする方に対しては、就労に向けたリハビリテーションを行います。
- 作業耐久性の向上 — 一日の活動に耐えられる体力と持久力の獲得
- 作業手順の習得 — 新しい仕事の手順を段階的に習得する訓練
- 就労環境への適応 — 職場の物理的環境や人間関係への適応支援
- ストレスマネジメント — 就労に伴う精神的負担への対処法
- 職場環境の調整 — 雇用主への合理的配慮の提案
近年は就労移行支援事業所や就労継続支援事業所で作業療法士が活躍するケースも増えています。就労移行支援は一般企業への雇用が見込まれる方への訓練・求職活動支援、就労継続支援は一般企業での就労が困難な方への就労機会の提供を行う障害福祉サービスです(出典: 厚生労働省「障害者の就労支援対策の状況」)。精神障害や発達障害のある方の就労支援において、作業療法士の専門性が高く評価されています。
4. 住環境の適応訓練
退院後の生活を見据えた住環境の適応訓練も、作業療法の重要な職域です。
- 退院前訪問指導 — 実際の自宅を訪問し、必要な環境調整を評価
- 住宅改修のアドバイス — 手すりの設置、段差解消、動線の改善
- 福祉用具の選定 — ベッド、車いす、入浴補助具などの選定と適合
- 家族指導 — 介助方法や環境の使い方を家族に指導
住環境の調整は、対象者が安全かつ自立的に自宅で暮らすために不可欠です。介護保険制度の住宅改修費支給(手すりの取付けや段差の解消などが対象で、支給限度基準額は20万円)や福祉用具貸与制度と連携して支援を行います(出典: 厚生労働省「介護保険における住宅改修」)。
5. 発達障害・高次脳機能障害のリハビリテーション
発達障害や高次脳機能障害に対するリハビリテーションも、作業療法の重要な専門領域です。
発達障害への支援
- 感覚統合療法 — 感覚の受け取りや処理に困難がある子どもへの専門的アプローチ
- 微細運動の発達支援 — 手先の不器用さへの介入
- 社会性の発達支援 — 集団活動を通じた対人スキルの育成
- 学習支援 — 書字や読みの困難さへの対応
高次脳機能障害への支援
- 注意障害のリハビリテーション — 集中力の改善訓練
- 記憶障害への対応 — 代償手段(メモ、スケジュール管理)の獲得
- 遂行機能障害の支援 — 計画立案・実行の段階的訓練
- 社会復帰支援 — 復職・復学に向けた段階的プログラム
作業療法士のサポートは、大きく分けて次の5つです。
1. 毎日の基本動作の練習食事・着替え・入浴・トイレなど、毎日の基本になる動作をADLと呼びます。作業療法士は、今ある力をうまく使いながら、これらの動作を少しでも自分でできるように練習を手伝ってくれます。動作をしやすくする自助具という道具の選び方や作り方も相談できます。
2. 家事や買い物など、暮らしの応用動作の練習料理や掃除、買い物、お金の管理、バスや電車での外出など、少し複雑な生活の動作をIADLと呼びます。自宅での生活に戻るためにとても大切な練習で、退院後の暮らしを思い描きながら進めていきます。
3. 仕事に就くためのサポート働きたいという希望のある方には、就労支援を行います。一日働ける体力づくりや仕事の手順の練習だけでなく、働きやすい環境について職場と相談することまで、幅広く支えてくれます。
4. 自宅で安全に暮らすための環境づくり退院の前に自宅を訪問して、手すりの設置や段差の解消など、住まいの工夫を提案します。介護保険を使った住宅改修や福祉用具のレンタルについても相談できます。ご家族への介助方法のアドバイスも行います。
5. お子さんの発達支援・脳の障害へのリハビリ発達障害のあるお子さんへの手先の練習や集団活動の支援も、作業療法士の専門分野です。また、脳卒中や事故のあとに記憶力や集中力が低下する高次脳機能障害のある方には、メモやスケジュール帳を使う工夫など、生活しやすくなる方法を一緒に練習します。
広がる作業療法の活躍の場
従来の医療機関を中心とした職域に加え、近年は以下のような新しい分野でも作業療法士の活躍が広がっています。
地域包括ケアシステム
高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けられるよう、地域全体で支える仕組みの中で、作業療法士の役割が拡大しています。国は団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築を推進してきました(出典: 厚生労働省「地域包括ケアシステム」)。
産業保健・メンタルヘルス
企業の産業保健分野でも作業療法士の知見が活用されています。
災害リハビリテーション
災害時の避難所生活や復興期における作業療法士の支援活動も注目されています。
司法領域
矯正施設(刑務所・少年院)での社会復帰支援にも作業療法士が関わり始めています。
作業療法士が活躍しているのは、病院の中だけではありません。最近は、暮らしに身近な場所でも会えるようになってきました。
お住まいの地域でどんなサポートが受けられるかは、地域包括支援センターに問い合わせると教えてもらえます。
作業療法士の勤務先別の働き方
| 勤務先 | 特徴 | 求められるスキル |
|---|---|---|
| 急性期病院 | 発症直後からの早期介入 | リスク管理、多職種連携 |
| 回復期リハビリテーション病院 | 集中的なリハビリ | ADL評価・訓練、退院支援 |
| 精神科病院 | 精神疾患の回復支援 | 集団療法、心理的アプローチ |
| 介護老人保健施設 | 在宅復帰支援 | 生活機能評価、家族支援 |
| 訪問リハビリ | 自宅での個別支援 | 環境評価、自立支援 |
| 児童発達支援 | 子どもの発達支援 | 発達評価、遊びの分析 |
| 行政・保健センター | 地域保健活動 | 企画力、コミュニケーション |
作業療法士は、病院のほかにも、介護施設や訪問リハビリ、子どもの発達支援の教室など、さまざまな場所で働いています。生活の場が変わっても、その場に合ったサポートを受けられます。入院中だけでなく、退院後に「やっぱり困った」と感じたときも、かかりつけ医やケアマネジャーを通じてリハビリの相談ができます。
まとめ
この記事のポイントを振り返ります。
- 作業療法の主要職域はADL訓練・IADL訓練・就労支援・住環境調整・発達障害/高次脳機能障害リハビリテーションの5分野
- 地域包括ケア・産業保健・災害リハビリテーション・司法領域など、新しい活躍の場が着実に広がっている
- 勤務先によって求められるスキルが異なり、多様なキャリアパスがある
作業療法士の基本について知りたい方は作業療法とは?わかりやすく解説を、仕事内容については作業療法士ってどんな仕事?を、資格取得については作業療法士になるにはもあわせてご覧ください。
- 作業療法士は、食事や着替えの練習、家事や買い物の練習、仕事に就くためのサポート、住まいの環境づくり、お子さんや脳の障害のある方へのリハビリと、暮らし全体を幅広く支えてくれます
- 病院の中だけでなく、地域の教室や職場、ご自宅など、身近な場所でもサポートを受けられます
- 「こんなことも相談していいのかな」と迷ったら、まずは担当のリハビリスタッフや地域の相談窓口に聞いてみましょう
作業療法についてもっと知りたい方は、作業療法とは?わかりやすく解説もあわせてご覧ください。
- 困っている動作をメモしておきましょう。着替えやお風呂など「ここが大変」という場面を書き留めておくと、作業療法士に相談するとき、具体的なアドバイスをもらいやすくなります
- ご自宅の写真を撮っておきましょう。玄関・トイレ・浴室・階段などの写真があると、退院前の住まいづくりの相談がスムーズに進みます
- 地域の相談窓口を調べてみましょう。お住まいの市区町村の地域包括支援センターでは、介護予防教室やリハビリのサービスについて無料で相談できます
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
運営者プロフィールを見る →