この記事のポイント
- 作業療法士に必要なのは、体力そのものより体の使い方と道具です。ただし領域によって身体の負担は大きく違います
- 急性期・回復期・介護施設・訪問では起き上がりや移乗の介助があり、日本の理学療法士1,479人の調査では過去1年の腰痛が女性74.3%・男性69.9%と、看護・介護職並みでした
- 精神科や発達支援では介助は少なく、動き回る持久力や「気持ちの体力」が前に出ます
- 厚生労働省の指針は、人力での抱え上げを原則行わず、リフトなどの福祉用具を使うよう求めています。体力で解決する仕事ではなく、技術と環境で守る仕事です
「体力が必要ですか」への短い答え
高校生から「体力が必要ですか」と聞かれることがよくあります。短く答えると、「体力より、体の使い方と道具。ただし、どこで働くかで話が変わる」です。
作業療法士(OT: Occupational Therapist)の仕事には、ベッドから起き上がる人を支える、車いすに移る人を介助する、といった体を使う場面があります。一方で、精神科のデイケアや子どもの発達支援では、介助はほとんどなく、代わりに1日中動き回る持久力が要ります。同じ資格でも、体の使い方は職場ごとにまったく違います。
この記事では、領域ごとの体の使い方、調査で分かっているリハビリ職の腰痛の実情、そして「体力で解決しない」ための仕組みを順に整理します。
「作業療法士は体力仕事なのか」は、保護者の方からもよく聞かれる質問です。結論から言えば、身体負担は勤務領域によって大きく異なり、介助のある領域では腰痛リスクが実在します。一方で、厚生労働省の指針と養成課程の教育により、力に頼らず技術と福祉用具で対応する仕組みが整えられています。
本記事では、領域別の身体負担、公表されている調査データ、指針の内容、見学時に確認したい設備を整理します。
領域別 ── 体をどう使うか
働く場所ごとに、1日の体の使い方を並べます。
急性期病院
ベッドのそばで、起き上がり・座る・立つの練習を支えます。1回20〜40分の関わりを1日に何人も。立ち仕事が中心で、体を支える場面がいちばん多い領域の一つです
回復期リハビリ病棟
歩く・入浴する・トイレに行く練習に付き添います。介助の量が多い時期で、体の使い方の技術がそのまま自分の体を守ります
介護施設・訪問
移乗や入浴の介助があります。訪問では移動に加えて、家の中で1人で介助する場面があり、道具と環境の工夫が要になります
精神科
介助はほとんどありません。集団活動を1日進める持久力と、相手のペースを待つ「気持ちの体力」が前に出ます
子どもの発達支援
床に座る、しゃがむ、子どもと一緒に走る、抱き上げる。介助とは違う種類の負担があり、2026年の研究では小児領域の作業療法士・理学療法士が最も身体的リスクにさらされていたと報告されています
行政・企業・養成校
デスクワークと会議が中心です。体の負担は小さく、企画や説明の仕事が増えます
つまり「作業療法士は体力仕事か」という問いには、領域を決めてからでないと答えられません。各領域の1日は病院だけじゃない ── OTが働く場所から、それぞれの記事に飛べます。発達支援の1日は作業療法士の1日 ── 発達支援の現場からに書きました。
| 領域 | 主な身体負担 | 特徴 |
|---|---|---|
| 急性期病院 | 起き上がり・座位・立位の介助、立ち仕事 | 1回20〜40分の介入を多数 |
| 回復期リハビリテーション病棟 | 歩行・入浴・排泄動作の介助 | 介助量が最も多い時期 |
| 介護施設・訪問 | 移乗・入浴介助、訪問時の移動 | 単独で介助する場面があり、道具と環境調整が重要 |
| 精神科 | 介助はほぼなし | 集団活動の運営、長時間の関わり |
| 子どもの発達支援 | 床上での活動、抱き上げ、走る | 2026年の観察研究で小児領域の身体的リスクが最大と報告 |
| 行政・企業・養成校 | デスクワーク中心 | 身体負担は小さい |
身体負担は領域で異なるため、お子さんが希望する領域を確認したうえで判断することをおすすめします。
データで見る、リハビリ職の体の負担
作業療法士だけを対象にした全国規模の調査は限られていますが、同じように患者さんの体を支える理学療法士の調査があります。
理学療法士(女性)の過去1年の腰痛
理学療法士(男性)の過去1年の腰痛
介護職の腰痛(老健35施設・936人)
保健衛生業の腰痛発生率(全業種平均比)
2024年に発表された京都・滋賀の理学療法士1,479人の調査では、過去1年に腰痛があった人は女性74.3%・男性69.9%で、研究者は「看護師や介護職と同じくらい高い」と結論づけています。腰痛と関係していたのは、1日に手で施術する患者数、高さを変えられないベッド、介助の作業、仕事への不満やストレス、40歳以上、睡眠6時間未満でした。
海外のまとめ(2015〜2021年の20研究)でも、理学療法士の仕事に関係する筋骨格の不調は75.27%、うち腰痛が54.97%と報告されています。作業療法士と理学療法士を一緒に調べた2026年の観察研究では、外来リハビリの中でも小児領域が最も身体的リスクが高いという結果でした。
数字だけ見ると怖くなりますが、読み方が大事です。腰痛の原因として挙がったものの多くは、職場の環境と働き方で変えられるものです。高さを変えられるベッド、介助の道具、睡眠時間。「体力があれば防げる」ではなく「仕組みで防ぐ」ものだ、というのがこのデータの読み方です。
公表されている主な調査は次のとおりです。作業療法士単独の全国調査は限られるため、同様に患者の身体を扱う理学療法士と介護職のデータを参考値として示します。
| 調査 | 対象 | 結果 |
|---|---|---|
| Tsuji ほか(2024年、Journal of Occupational Health) | 京都・滋賀の理学療法士1,479人 | 過去1年の腰痛: 女性74.3%・男性69.9%。看護師・介護職と同程度。関連要因は1日の徒手施術患者数、固定高のベッド、介助作業、職務不満・ストレス、40歳以上、睡眠6時間未満 |
| Mahmood ほか(2025年、システマティックレビュー) | 2015〜2021年の20研究 | 理学療法士の業務関連筋骨格障害75.27%、腰痛54.97%、頸部痛36.16% |
| Alnaser ほか(2026年、Work) | 外来リハビリの作業療法士・理学療法士98人 | 中等度の身体的リスク。小児領域が最も高い |
| Abiko ほか(2024年) | 介護老人保健施設35施設の介護職936人 | 腰痛69.2% |
| 厚生労働省「保健衛生業における腰痛の予防」 | 社会福祉施設・医療保健業 | 腰痛発生率は全業種平均の2.5倍 |
関連要因の多くは職場環境(ベッドの高さ、福祉用具、介助回数)と生活習慣(睡眠)であり、施設の設備と方針によって負担が変わることを示しています。
体力より「体の使い方」と「道具」
厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」(2013年改訂)は、福祉・医療の介助作業について、全介助が必要な人にはリフトなどを積極的に使い、人力による抱え上げは原則として行わせないと定めています。座れる人にはスライディングボード、立てる人にはスタンディングマシーン、というように、人の状態に合わせて道具を選ぶ考え方です。介助する側の力に頼らない介護は「ノーリフティングケア」と呼ばれ、厚生労働省も普及を進めています。
作業療法士の養成校では、体の使い方(ボディメカニクス)と福祉用具の使い方を科目として学びます。力で持ち上げるのではなく、相手の動きを引き出して支えるのが技術です。うまい作業療法士ほど、見た目には力を使っていません。
腰痛の数字は「防げない」ではなく「対策が要る」と読む
リハビリ職の腰痛が多いのは事実ですが、調査で挙がった原因の多くは職場の環境と働き方で変えられるものです。就職先を選ぶときは、高さを変えられるベッドやリフトなどの福祉用具があるか、介助の方針が整っているかを見てください。体力で乗り切る職場ではなく、仕組みで守る職場を選ぶことが、長く働くための条件です。
厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」(2013年6月改訂)は、福祉・医療分野の介助作業について「全介助の必要な対象者には、リフト等を積極的に使用することとし、原則として人力による人の抱上げは行わせないこと」と定めています。座位保持が可能な場合はスライディングボード、立位保持が可能な場合はスタンディングマシーンの使用を検討するよう求めています。
養成課程ではボディメカニクスと福祉用具の使用法を学びます。見学時には、高さ調整できるベッドやリフト等の福祉用具の有無、ノーリフティングケアの方針、腰痛対策の教育の有無を確認すると、施設の姿勢がわかります。
高校生の「体力の心配」に答える
部活をしていないけど大丈夫?
大丈夫です。運動部の経験が受験資格や就職の条件になることはありません。必要な体の使い方は養成校で学びます
小柄でも患者さんを支えられる?
支えられます。相手の動きを引き出して支える技術と、リフトなどの道具を使うのが前提です。体格の差は技術と道具で埋めます
立ち仕事に耐えられるか不安
急性期や回復期は立ち仕事が中心です。最初は疲れますが、実習(22単位)で少しずつ慣れていきます。合わなければ、介助の少ない領域を選ぶ道もあります
体育が苦手
体育の成績は関係ありません。求められるのは運動能力ではなく、体の使い方を学ぶ姿勢です。向いているかどうかの考え方は別の記事にまとめています
日本作業療法士協会の会員は60.8%が女性で、平均年齢は37.4歳です(2024年度会員統計資料、2025年3月末)。力仕事の職業というより、技術と道具で体を守りながら長く働く職業と考えてください。「向いている人」を性格ではなく1日の仕事から考える方法は作業療法士に向いているのはどんな人?に書きました。
運動部の経験や体格は受験資格・就職の要件ではなく、身体の使い方は養成課程で学びます。日本作業療法士協会の会員は女性が60.8%、平均年齢37.4歳です(2024年度会員統計資料)。身体負担が心配な場合は、介助の少ない領域(精神科・発達支援・行政など)を含めて進路を検討できます。
よくある質問
作業療法士に夜勤はありますか
作業療法は診療時間内に行うため、一般に夜勤はありません。多くの職場で日中の勤務が中心です。土日の勤務の有無や勤務時間は職場ごとに違うので、見学のときに確認してください。
腰を痛めたら、続けられませんか
続けられます。介助の少ない領域(精神科・発達支援・行政など)に移る人もいれば、道具と環境を整えて同じ領域で働き続ける人もいます。免許は1つで、どの領域でも使えます。領域を変える考え方は作業療法士の転職ガイドにあります(現役向けの記事です)。
理学療法士と比べて、作業療法士の体の負担は軽いですか
一概には言えません。急性期や回復期では、作業療法士も起き上がりや移乗の介助をします。ただし作業療法士は手や道具、環境調整に関わる時間が長く、領域の幅も広いため、負担の小さい働き方を選びやすい面はあります。3職種の違いは作業療法士・理学療法士・言語聴覚士の違いにまとめています。
体力の心配が理由で、他の職種にしたほうがいいですか
体力の心配だけで決める必要はありません。この記事の領域別の表を見て、「介助の少ない領域でも、自分は作業療法士をやりたいか」を考えてみてください。答えが「やりたい」なら、体力は後からついてきます。
見学で確認したいことは
高さ調整できるベッド・リフト等の福祉用具の有無、ノーリフティングケアの方針、腰痛対策の教育、勤務時間と休日の実際の4点です。
身体負担の少ない領域はありますか
精神科、発達支援、行政・企業・養成校では介助がほとんどありません。ただし、発達支援では床上の活動や抱き上げなど別種の負担があり、2026年の研究では小児領域の身体的リスクが最も高いと報告されています。領域ごとの特徴を踏まえて検討してください。
まとめ
- 必要なのは体力より体の使い方と道具。ただし急性期・回復期・介護施設・訪問では介助があり、リハビリ職の腰痛は看護・介護職並み(理学療法士の調査で過去1年に約7割)というデータがあります
- 精神科や発達支援では介助は少なく、持久力や「気持ちの体力」が前に出ます。発達支援は床上の活動や抱き上げなど別の負担があります
- 厚生労働省の指針は人力での抱え上げを原則禁じ、福祉用具の使用を求めています。体力で乗り切る職場ではなく、仕組みで守る職場を選ぶことが長く働く条件です
領域ごとの1日を見て、自分の体の使い方を想像してみてください。病院だけじゃない ── OTが働く場所から各職場の記事に飛べます。
- 身体負担は領域で異なります。介助のある領域(急性期・回復期・介護施設・訪問)では、理学療法士の調査で過去1年の腰痛が約7割と看護・介護職並みでした
- 厚生労働省の指針は人力での抱え上げを原則禁じ、リフト等の福祉用具の使用を求めています。負担は施設の設備と方針で変わります
- 見学では福祉用具の有無、介助の方針、腰痛対策の教育、勤務時間を確認してください
- 「どの領域に行きたいか」を先に聞く: 体力の話は領域を決めてからでないと答えが出ません。この記事の表を一緒に見てください
- 見学で設備と方針を確認する: 高さ調整できるベッド、リフト、ノーリフティングケアの方針。仕組みで体を守る職場かどうかの目安になります
- 体力を理由に止めない: 介助の少ない領域も含めて選択肢を広げるほうが、本人の判断材料になります
- Tsuji S, et al. Work-related musculoskeletal pain among physical therapists: a cross-sectional study in Kyoto and Shiga prefectures, Japan. Journal of Occupational Health. 2024(PMID 38802329)
- Mahmood T, et al. Frequency of work-related musculoskeletal disorders among physical therapists: a systematic review. Revista Brasileira de Medicina do Trabalho. 2025(PMID 41635637)
- Alnaser MZ, et al. Examination of occupational and physical therapists exposure to physical risk factors in outpatient rehabilitation settings. Work. 2026(PMID 41396793)
- Abiko T, et al. Occupational low back pain among Japanese caregivers: A large-scale cross-sectional study. Journal of Back and Musculoskeletal Rehabilitation. 2024(PMID 38968041)
- 厚生労働省「保健衛生業における腰痛の予防」(職場における腰痛予防対策指針 平成25年6月改訂の要点)
- 日本作業療法士協会「2024年度日本作業療法士協会会員統計資料」(2025年)
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言や進路の保証を構成するものではありません。調査データは対象・時期・方法により結果が異なります。最新の情報は各機関の公式サイトでご確認ください。
よくある質問
- 作業療法士に体力は必要ですか?
- 領域によります。急性期・回復期・介護施設・訪問では起き上がりや移乗の介助があり、リハビリ職の腰痛は看護・介護職と同じくらい多いという調査があります。精神科や発達支援では介助は少なく、動き回る持久力や気持ちの体力が前に出ます。どの領域でも、必要なのは力そのものより体の使い方と道具です。
- 作業療法士は腰痛になりやすいですか?
- 日本の理学療法士1,479人の調査では、過去1年間に腰痛があった人は女性74.3%・男性69.9%で、看護師や介護職と同程度でした。作業療法士だけの全国調査は限られますが、介助のある領域では同じ注意が必要です。厚生労働省の指針は、人力での抱え上げを原則行わず、リフトなどの福祉用具を使うよう求めています。
- 部活をしていなくても作業療法士になれますか?
- なれます。作業療法士の養成校では、体の使い方(ボディメカニクス)や福祉用具の使い方を科目として学びます。運動部の経験が受験資格や就職の条件になることはありません。
- 作業療法士に夜勤はありますか?
- 作業療法は診療時間内に行うため、一般に夜勤はありません。多くの職場で日中の勤務が中心です。勤務時間の詳細は職場ごとに異なるため、見学時に確認してください。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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