この記事のポイント
- 日本人の平均睡眠時間はOECD加盟国で最短レベル。睡眠の問題は「個人の甘え」ではなく社会的な課題です
- 作業療法士は睡眠を「作業」のひとつと捉え、生活全体のバランスから改善を考えます
- 睡眠衛生指導の7つのポイントを実践するだけで、眠りの質は大きく変わります
- 日中の「活動量」と「活動の質」が夜の睡眠をつくるという作業療法独自の視点を紹介します
- 2週間以上の不眠が続く場合は、早めの受診が推奨されます
はじめに──眠れない夜は、あなただけではない
「なかなか寝つけない」「夜中に何度も目が覚める」「朝起きても疲れが取れない」──こうした睡眠のお悩みはとても多いものです。日本人の約5人に1人が、睡眠に何らかの問題を抱えているとされています。
眠れないのは「甘え」や「気の持ちよう」ではありません。生活習慣を見直すことで改善できる部分がたくさんあります。この記事では、ご家庭で取り組める具体的な方法をお伝えします。
作業療法士がなぜ睡眠に関わるのか
生活のバランスと睡眠のつながりは?
作業療法士は、生活を「活動」「休息」「睡眠」の3つに分けて考えます。この3つのバランスが崩れると、睡眠の質が下がりやすくなります。
たとえば、仕事や家事に追われて休息の時間がなかったり、夜遅くまでスマートフォンを見ていたりすると、体と脳が「眠る準備」に入れなくなってしまいます。
睡眠を改善するには、日中の過ごし方も一緒に見直すことが大切です。
睡眠の質を下げる生活習慣チェックリスト
今の生活習慣をチェックしてみましょう
以下に当てはまるものが多いほど、睡眠の質が下がっている可能性があります。
- 寝る直前までスマートフォンを見ている
- 布団の中でSNSやニュースをチェックしている
- 午後3時以降にコーヒーやお茶を飲んでいる
- 寝酒をしている
- 日中ほとんど体を動かしていない
- 休日に2時間以上の寝だめをしている
- 寝室が明るい、または暑すぎる・寒すぎる
3つ以上当てはまった方は、次の7つのポイントを試してみてください。
睡眠衛生指導の7つのポイント
眠りの質を上げる7つの習慣
1. 起きる時間を固定する:毎朝同じ時間に起きることが最も大切です。休日もズレは1時間以内にしましょう。
2. 朝の光を浴びる:起きたらカーテンを開けて日光を浴びましょう。曇りの日でも効果があります。
3. カフェインは午後2時までに:コーヒーやお茶のカフェインは体に5〜7時間残ります。午後は控えめにしましょう。
4. 寝る2時間前にお風呂に入る:38〜40度のぬるめのお湯に15〜20分。寝る直前の熱い風呂は逆効果です。
5. 寝酒をやめる:お酒は寝つきを良くしますが、睡眠の質を悪くします。ハーブティーやホットミルクに替えてみましょう。
6. 寝る1時間前からスマートフォンを控える:画面の光が脳を覚醒させます。読書や音楽に切り替えましょう。
7. 布団は眠るためだけの場所にする:布団の中でスマートフォンを見ない。20分眠れなければ、一度布団を出ましょう。
ヒント
全部を一度に始めなくて大丈夫です。まずは「起きる時間を固定する」と「朝の光を浴びる」の2つだけから試してみてください。
日中の「活動」が夜の睡眠をつくる──作業療法の視点
昼間の過ごし方が夜の眠りをつくります
「体は疲れていないのに、頭だけが冴えて眠れない」ということはありませんか。これは、頭の疲れと体の疲れのバランスが崩れていることが原因かもしれません。
日中に適度に体を動かすことで、夜に自然な眠気が訪れやすくなります。
散歩を取り入れる:朝や夕方に20〜30分歩くだけで十分です。ただし、寝る2時間前の激しい運動は避けましょう。
好きなことに取り組む:趣味、料理、園芸など、「楽しい」「やりがいがある」と感じる活動を日中に取り入れると、心地よい疲労感が生まれます。
昼寝は短めに:昼寝をする場合は15〜20分以内に。長すぎると夜の睡眠に影響します。
リラクセーション法──体の緊張をほどいて眠りへ導く
布団の中でできるリラックス法
筋弛緩法(きんしかんほう):体に力を入れてから一気に脱力する方法です。
- 両手をぎゅっと握って5秒間力を入れる
- 一気に力を抜いて、10〜15秒リラックスする
- 同じことを肩、顔、全身でも繰り返す
2〜3日続けると「力が抜けた感覚」がわかるようになり、寝る前の習慣にすると効果的です。
4-7-8呼吸法:鼻から4秒で息を吸い、7秒止めて、口から8秒かけてゆっくり吐きます。3〜4回繰り返すだけです。秒数が難しければ、「吸う時間より吐く時間を長くする」と覚えてください。
寝室の環境調整──光・温度・音・寝具
寝室の環境を整えましょう
光:寝室はできるだけ暗くしましょう。遮光カーテンがおすすめです。真っ暗が不安な方は、暖色系の足元灯を使いましょう。
温度:室温は16〜26度、湿度は50〜60%が目安です。冬は加湿器、夏はエアコンのタイマーを活用してください。
音:静かな環境が理想です。物音が気になる場合は、雨の音などの自然音を小さく流すと良いでしょう。テレビのつけっぱなしはおすすめできません。
枕:枕の高さが合っていないと、首や腰の痛みで目が覚めることがあります。仰向け寝の方は低め、横向き寝の方は高めの枕を選びましょう。
こんなときは受診しましょう
注意
以下のいずれかに当てはまる場合は、生活習慣の見直しだけでは改善が難しい可能性があります。かかりつけ医や睡眠専門外来への相談を検討してください。
- 2週間以上、ほぼ毎日眠れない状態が続いている
- 日中の眠気で仕事や日常生活に支障が出ている
- いびきが激しい、寝ている間に呼吸が止まっていると指摘された(睡眠時無呼吸症候群の可能性)
- 眠れないことへの不安や恐怖が強く、寝室に向かうだけで緊張する
- 足がむずむずして眠れない(むずむず脚症候群の可能性)
- 睡眠薬やアルコールに頼らないと眠れない状態になっている
不眠は、うつ病や不安障害、甲状腺の病気など、他の疾患のサインである場合もあります。「たかが不眠」と放置せず、早めの相談が大切です。
まとめ
- 眠れないのは「甘え」ではありません。生活習慣の見直しで改善できる部分がたくさんあります
- まずは「毎朝同じ時間に起きる」と「朝の光を浴びる」の2つから始めてみてください
- 日中に散歩や好きなことに取り組むと、夜の眠りの質が上がります
- 寝室の光・温度・音を整えるだけでも効果があります
- 2週間以上眠れない日が続くときは、早めに医療機関に相談しましょう
- 朝のカーテン開けを習慣にしましょう:起きたらまずカーテンを開けて日光を浴びる。これだけで体内時計が整い始めます
- 寝る前のリラックスタイムを作りましょう:スマートフォンを置いて、ハーブティーを飲んだり、好きな本を読んだりする時間を15分でも作ってみてください
- ご家族の睡眠の様子にも気を配りましょう:ご本人だけでなく、介護するご家族の睡眠も大切です。お互いの睡眠を守る工夫を一緒に考えましょう