この記事のポイント
- テレワークの不調は孤立・過重労働・運動不足の3つが主因で、仕事に偏った「作業バランスの崩れ」として整理できます。つながりを意図的に設計し直すことが対策の柱です
- 10項目のセルフチェックで、今のあなたのテレワーク環境を客観的に振り返ることができます
- 仕事と仕事以外の境界線を設け、余暇・休息を「先にスケジュールへ組み込む」ことが重要です
- 不調を感じたら一人で抱え込まず、産業医や相談窓口など専門家に相談しましょう
はじめに──テレワークの光と影
コロナ禍を機に急速に広まったテレワーク。通勤時間がなくなり、自分のペースで仕事ができるようになった方も多いのではないでしょうか。
しかし、テレワークが日常になって数年が経った今、「なんとなく元気が出ない」「人と会わない日が続いて不安になる」「仕事とプライベートの境界がなくなった」と感じている方が増えています。
総務省の調査では、テレワーク実施者の約3割が「職場の同僚・上司と気軽に相談できない」(32.9%)などコミュニケーション面の困りごとを挙げています(出典: 総務省 令和3年版情報通信白書, 2021年)。また、厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」でも、在宅勤務者のメンタルヘルスケアの重要性が明記されています(出典: 厚生労働省, 2021年)。
作業療法士(OT)は、人の「作業」――つまり日常のあらゆる活動――を通じて健康を支える専門家です。テレワークという新しい働き方がもたらすメンタルヘルスの課題を、作業バランスの視点から一緒に考えてみましょう。
在宅勤務をしているご家族が、最近「元気がない」「イライラしている」「休日も仕事のことばかり気にしている」と感じることはありませんか。
テレワークは便利な働き方ですが、人と会わない日が続くことで孤立しやすくなるという面もあります。この記事では、ご家族のテレワーク生活を見守るためのポイントをお伝えします。
テレワークがメンタルヘルスに与える影響
テレワークには多くのメリットがある一方で、メンタルヘルスに影響を及ぼすリスクも存在します。大きく3つの側面から見ていきます。
孤立感と社会的つながりの希薄化
オフィスでは、何気ない雑談、ランチの誘い、廊下ですれ違ったときの挨拶など、意図せず生まれる人との接点がありました。テレワークでは、これらの「インフォーマルなコミュニケーション」がほぼ失われます。
- 一人暮らしで、1日中誰とも直接話さない日がある
- 業務連絡はチャットだけで、雑談の機会がない
- カメラオフの会議が多く、相手の表情が見えない
- チームメンバーの様子が分からず、自分だけ取り残されている気がする
- 困ったことがあっても、気軽に相談できない
作業療法の観点からは、人との交流は「社会参加」という重要な作業領域です。社会参加が極端に減ると、自己肯定感の低下や抑うつ気分につながりやすくなります。
過重労働とオン・オフの境界崩壊
テレワークでは「通勤」という物理的な区切りがなくなります。その結果、「もう少しだけ」と仕事を続けてしまい、気づけば深夜まで働いていた、という経験はないでしょうか。
- 勤務時間外にもメールやチャットを確認してしまう
- 終業時間を決めていない、または守れない
- 休日にも仕事のことが頭から離れない
- 寝る直前までパソコンに向かっている
- 食事を摂りながら仕事をすることが多い
作業療法では、生活を「生産活動(仕事)」「セルフケア」「余暇」「休息」の4つの領域でとらえます。テレワークでは「生産活動」が膨張し、他の3つの領域を圧迫しやすい構造的な問題があるのです。ご自身の作業バランスをより詳しく確認したい方は、15項目でわかる作業バランスのセルフチェックも参考にしてください。
運動不足と身体的な影響
通勤がなくなると、1日の歩数が大幅に減少します。ある調査では、テレワークに切り替えた社員の1日の歩数が約3割(29%)減少したという結果も報告されています(出典: 筑波大学大学院 久野研究室・タニタ共同調査)。
- 肩こり・腰痛・頭痛の慢性化
- 睡眠の質の低下
- 気分の落ち込み(運動は気分の調節に大きく関わる)
- 体重増加と生活習慣病リスクの上昇
- 集中力の低下
身体を動かすことは、単に体力を維持するだけでなく、気分の安定や睡眠の質の向上にも大きく関わっています。テレワークでは意識的に体を動かす機会を作る必要があります。すでに寝つきの悪さや中途覚醒が気になっている方は、眠りの質を上げる7つの生活習慣もあわせてご覧ください。
テレワークには大きく3つのリスクがあります。
人と会わないことによる孤立感
オフィスでは自然にあった雑談やランチの誘いが、テレワークではなくなります。1日中誰とも直接話さない日が続くと、気持ちが沈みやすくなります。
仕事と生活の境界があいまいになる
通勤がないぶん、「もう少しだけ」と仕事を続けてしまいがちです。夜遅くまでパソコンに向かっている、休日も仕事が気になっているといった様子が見られたら注意が必要です。
運動不足
通勤がなくなると歩く量が大幅に減ります。体を動かさないことは、肩こりや腰痛だけでなく、気分の落ち込みや睡眠の悪化にもつながります。
セルフチェック──あなたのテレワーク環境は大丈夫?
以下の10項目で、今のあなたのテレワーク生活を振り返ってみましょう。当てはまるものが多いほど、メンタルヘルスのリスクが高まっている可能性があります。
1日中、誰とも直接話さない日がある
チャットやメールだけのやりとりが続き、声を出す機会がほとんどない状態です
仕事の始まりと終わりの時間が曖昧になっている
だらだらと長時間パソコンに向かい、明確な終業のタイミングがありません
運動する機会が週に1回未満である
散歩やストレッチを含め、意識的に体を動かす習慣がない状態です
趣味や楽しみの時間がほとんどない
仕事以外の「自分のための活動」がなくなっていませんか
食事の時間が不規則、または食事を抜くことがある
食事は生活リズムの基本です。おろそかになっていないか確認しましょう
睡眠に問題を感じている(寝つきが悪い、途中で起きる等)
テレワークによる生活リズムの乱れは睡眠に直結します
困ったときに相談できる相手がいない、または相談しづらい
オフィスなら隣の席の同僚に聞けたことが、テレワークではハードルが上がります
仕事をしていないと罪悪感がある
在宅だからこそ「サボっていると思われないか」というプレッシャーを感じやすくなります
最近、笑うことが減った気がする
日常の中で自然に笑う機会が減っていませんか
外出する日が週に2日以下である
買い物や散歩を含め、家の外に出る頻度を振り返りましょう
5つ以上当てはまった方へ
すぐに深刻な問題があるとは限りませんが、生活のバランスが崩れ始めているサインかもしれません。この記事の後半で紹介する対策を参考にしつつ、つらさが続く場合は専門家への相談をご検討ください。
ご家族の様子で、以下のようなことはありませんか。
1日中、家から出ない日が増えた
買い物や散歩にも行かなくなっていませんか
食事の時間が不規則になっている
食べながら仕事をしたり、食事を抜いたりしていませんか
笑うことが減った
以前より表情が硬くなった、会話が少なくなったと感じませんか
夜遅くまで仕事をしている
パソコンを閉じる時間がどんどん遅くなっていませんか
趣味の時間がなくなった
以前楽しんでいたことをしなくなっていませんか
気になる項目がある場合は、「最近、調子はどう?」と声をかけてみてください。
社会的つながりを意図的に維持する
テレワークでの孤立を防ぐポイントは、「つながりを偶然に任せず、意図的に設計する」ことです。オフィスでは自然に生まれていた人との接点を、テレワークでは自分から作りにいく必要があります。
職場でのつながり
- 「雑談タイム」を設ける — 週1回、10〜15分だけ業務と関係のない話をするオンラインの場を作ります。チーム全体でなくても、2〜3人の少人数で十分です
- カメラをオンにする機会を増やす — すべての会議でなくてもかまいません。週に1回の定例会議だけでもカメラをオンにすると、相手の表情が見え、安心感が生まれます
- 「困りごと共有チャンネル」を作る — 業務の困りごとだけでなく、テレワークの悩みも共有できる場があると、同じ悩みを抱える仲間が見つかります
- 出社日を活用する — ハイブリッド勤務の場合、出社する日を同僚と合わせて、対面でのコミュニケーションを意識的に取りましょう
職場外でのつながり
- 定期的な外出の予定を入れる — カフェで仕事をする日を作る、ランチだけ外に食べに行くなど、小さな外出でも効果的です
- 地域の活動に参加する — 自治体の講座、スポーツクラブ、ボランティアなど。テレワークで職場のつながりが薄くなった分、地域のつながりが心の支えになります
- オンラインコミュニティに参加する — 同業者の勉強会や趣味のコミュニティなど。テレワークで培ったオンラインスキルを、つながりの維持にも活用しましょう
- 家族や友人との時間を大切にする — テレワークで通勤時間がなくなった分を、大切な人との時間に充てることで、孤立感を和らげることができます
作業療法の用語では、こうした人とのつながりを通じた活動を「社会参加」と呼びます。社会参加は、心の健康を支える土台のひとつです。テレワークだからこそ、意識して社会参加の機会を確保することが大切です。
家族にできるつながりづくりのサポート
テレワーク中のご家族の孤立を防ぐために、ご家庭でできることがあります。
- 一緒にご飯を食べる時間をつくる — 昼食や夕食を一緒に食べるだけでも、大切なつながりの時間になります
- 外出の機会を提案する — 「一緒に買い物に行こう」「散歩しない?」と声をかけてみてください
- 仕事以外の話をする時間を持つ — 趣味の話やニュースの話など、仕事とは関係のない会話が息抜きになります
作業バランスの見直し──OTの視点で生活を再設計する
作業療法士は、人の生活を4つの領域でとらえます。
| 領域 | 内容 | テレワークで起きやすい偏り |
|---|---|---|
| 生産活動 | 仕事、家事、育児 | 際限なく膨張しやすい |
| セルフケア | 食事、入浴、睡眠、身だしなみ | おろそかになりやすい |
| 余暇 | 趣味、楽しみ、人との交流 | 「仕事があるから」と後回しにしがち |
| 休息 | 何もしない時間、リラックス | 罪悪感から取りにくい |
テレワークでメンタルヘルスの不調を感じている方の多くは、「生産活動」が肥大化し、他の3つが圧迫されている状態にあります。以下のステップで、作業バランスを見直してみましょう。
ステップ1:1日の過ごし方を「見える化」する
24時間の活動を書き出す
起床から就寝まで、何にどれくらい時間を使っているかを1時間単位で記録します。スマートフォンのメモ機能で十分です
4つの領域に色分けする
生産活動=青、セルフケア=緑、余暇=黄、休息=オレンジなど、色を決めて分類します
バランスの偏りを確認する
1日の中で特定の色が極端に多い・少ない場合、作業バランスが崩れているサインです
ステップ2:境界線を作る
テレワークで最も重要なのは、仕事と仕事以外の「境界線」を物理的・時間的に設けることです。
- 仕事用のスペースを決める — できれば仕事専用の机や部屋を確保し、そこ以外では仕事をしないルールを作ります。難しい場合は、仕事が終わったらパソコンを片付けるだけでも効果的です
- 始業・終業の儀式を作る — 朝のコーヒーを淹れたら仕事開始、夕方のストレッチをしたら終業、というように「スイッチ」となる習慣を取り入れます
- 通勤の代わりの活動を設ける — 朝と夕方に10〜15分の散歩をする。これが通勤の代わりとなり、心と体のオン・オフを切り替える合図になります
- 通知設定を見直す — 終業後はメール・チャットの通知をオフにします。「見えないから気にならない」環境を作ることが大切です
ステップ3:余暇と休息を「予定」として組み込む
余暇や休息は、「時間が余ったらやる」ではなく、「先にスケジュールに入れる」ことがポイントです。
- ランチタイムは仕事と完全に切り離し、食事を味わう時間にする
- 午前・午後に各1回、5〜10分の休憩を「予定」として入れる
- 週に1回以上、趣味や楽しみの活動を行う
- 寝る前の30分はスマートフォンやパソコンから離れる時間にする
- 週末に「何もしない時間」を意識的に設ける
なお、起床・就寝時刻から乱れてしまっている場合は、生活リズムが崩れたときの立て直し方4ステップで紹介している手順から始めるのがおすすめです。
生活のバランスが偏っていませんか?
作業バランスとは、仕事・食事や睡眠・趣味・休息のバランスのことです。テレワークでは仕事の時間が膨らみやすく、他の時間が圧迫されがちです。
ご家族の生活で以下の傾向が見られたら、バランスが崩れているサインかもしれません。
- 食事をおろそかにしている(食べながら仕事をしているなど)
- 趣味の時間がなくなった
- 休日もリラックスできていない
「仕事の終わりの時間を決める」「趣味の時間を先にスケジュールに入れる」だけでも、バランスの改善につながります。
困ったときの相談先
「なんだか調子が悪い」「孤立感がつらい」と感じたとき、一人で抱え込まないことが大切です。以下の相談先を知っておきましょう。
- 産業医・産業保健スタッフ — 勤務先に産業医がいる場合、テレワーク中の体調不良やメンタルヘルスの相談ができます。人事部門に問い合わせてみましょう
- 社内の相談窓口・EAP — EAP(従業員支援プログラム)を導入している企業では、外部の専門カウンセラーに無料で相談できます
- かかりつけ医 — 心身の不調が続く場合は、まずかかりつけ医に相談するのが安心です。必要に応じて専門医を紹介してもらえます
- 精神科・心療内科 — 不眠、強い不安感、意欲の低下などが2週間以上続く場合は、専門医への受診を検討しましょう
- 地域の保健センター — お住まいの市区町村の保健センターでは、メンタルヘルスに関する無料相談を受け付けています
- こころの健康相談統一ダイヤル — 電話番号 0570-064-556。都道府県の精神保健福祉センターにつながります
- よりそいホットライン — 電話番号 0120-279-338。24時間対応の無料電話相談です
「相談すること」も立派な作業です
作業療法では、助けを求めること自体がひとつの「作業」であり、その人の能力と勇気の表れと考えます。「こんなことで相談していいのかな」と迷う必要はありません。早めの相談が、回復を早めます。
ご家族の不調が続くときは、以下の相談先をお伝えください。
- かかりつけ医: まず身体の不調がないか相談できます
- こころの健康相談統一ダイヤル: 0570-064-556(都道府県の相談窓口につながります)
- よりそいホットライン: 0120-279-338(24時間対応の無料電話です)
「つらいなら相談してみたら?」と無理に勧めるよりも、「こういう窓口もあるみたいだよ」とさりげなく伝えるほうが、ご本人の負担になりにくいです。
まとめ
- テレワークは柔軟な働き方を可能にする一方で、孤立感・過重労働・運動不足というメンタルヘルスリスクを伴います
- 作業療法の視点では、テレワーク不調の多くは「作業バランスの崩れ」として理解できます
- 孤立を防ぐには、つながりを「偶然」ではなく「意図的」に設計することが重要です
- 1日の過ごし方を見える化し、仕事と仕事以外の境界線を設けましょう
- 余暇や休息は「時間が余ったら」ではなく、先にスケジュールに組み込むことがポイントです
- 不調を感じたら一人で抱え込まず、産業医・かかりつけ医・相談窓口を活用してください
テレワークは、うまく付き合えば生活の質を高める働き方です。しかし、それは「何もしなくても大丈夫」という意味ではありません。オフィスで自然に得られていた社会参加や身体活動、仕事と休息の切り替えを、テレワークでは自分で意識して組み立てる必要があります。
この記事が、あなたのテレワーク生活を振り返るきっかけになれば幸いです。小さな変化から始めてみてください。
テレワークで大切なのは、仕事と生活のバランスを意識することです。
- ご家族の様子に変化を感じたら、「最近どう?」と声をかけてみることが第一歩です
- 一緒にご飯を食べる、散歩に誘うなど、小さなつながりの時間をつくりましょう
- 不調が続く場合は、かかりつけ医や相談窓口の情報をさりげなく伝えてあげてください
在宅勤務だからこそ、家族の存在が大きな支えになります。
- 一緒に食事をとる時間を1日1回はつくりましょう。「ながら食べ」をやめるきっかけになります
- 「仕事の終わりに散歩しない?」と声をかけてみてください。通勤の代わりの気分転換になります
- 休日は仕事から離れる時間をつくることを、家族で一緒に意識してみましょう
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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