この記事のポイント
- 手のスプリント(装具)とは、手の関節を保護・矯正し失われた機能を補うためにOTが一人ひとりの手に合わせて作製する装具のことで、静的・動的・静的進行性の3種類があります
- 3種類は目的と回復段階で使い分けられ、骨折・腱損傷・関節リウマチ・末梢神経損傷・熱傷などが主な適応です
- スプリントは「つけて終わり」ではなく、装着時間の遵守や皮膚チェック、日常生活との両立を前提に設計・調整することが重要
はじめに── 手のスプリントとは何か
手の骨折や腱の損傷、関節リウマチなどで手の機能が損なわれたとき、OTが作製する道具のひとつがスプリント(splint)です。日本語では「装具」とも呼ばれますが、特に手の領域では「スプリント」という用語が広く使われています。
スプリントの役割は大きく分けて3つあります。
保護する
損傷した組織や術後の構造を安全な位置に保ち、治癒を促進します
矯正する
拘縮や変形を防ぎ、関節の可動域を改善・維持します
機能を補う
失われた筋力や運動機能を外部から補い、日常動作を可能にします
スプリントは単なる固定具ではなく、治癒と生活をつなぐ「橋」である
— Jacobs & Austin, 2003, Orthotic Intervention for the Hand and Upper Extremity
スプリントとは、手のケガや病気のときに作業療法士が手に合わせて作る装具です。
スプリントには3つの役割があります。
- 守る:ケガや手術後の部分を安全な位置に保つ
- 治す:固くなった関節を少しずつ動かせるようにする
- 助ける:弱った筋力を補い、日常の動作をしやすくする
スプリントの3つの種類
手のスプリントは、その力学的な仕組みによって大きく3つに分類されます。それぞれ目的と適応が異なるため、患者さんの状態に合わせて使い分けます。
| 種類 | 仕組み | 主な目的 | 代表的な適応 |
|---|---|---|---|
| 静的スプリント | 可動部分がなく、関節を一定の位置に固定 | 保護・安静・変形予防 | 骨折後の固定、腱修復術後の保護、関節リウマチの安静 |
| 動的スプリント | ゴムバンドやバネの弾性力で関節に持続的な力をかける | 可動域の改善、運動の補助 | 腱損傷後のリハビリ、屈筋腱損傷修復後のKleinert法、末梢神経麻痺 |
| 静的進行性スプリント | 関節を段階的に矯正位に保つ(弾性力ではなく非弾性の力) | 拘縮の改善 | 熱傷後の拘縮、外傷後の関節拘縮、術後の硬直 |
静的スプリント
静的スプリントは、関節を動かさずに一定の位置で固定するタイプです。最もシンプルな構造であり、スプリントの基本形とも言えます。
手首を中間位で固定する安静用手関節スプリント(resting hand splint)や、骨折後に指を保護する指用スプリントなどが代表例です。関節リウマチの夜間安静にもよく用いられます。
関節リウマチに対するスプリント・装具のコクラン・レビューでは、安静用スプリントの装着による疼痛や握力の有意な改善は確認されなかったものの、多くの患者が装着を好んだと報告されています(出典: Egan et al., Cochrane Database of Systematic Reviews, 2003)。効果の実感や装着感には個人差があるため、使用目的と装着スケジュールを個別に検討することが大切です。
動的スプリント
動的スプリントは、ゴムバンドやスプリングコイルなどの弾性素材を利用して、関節に持続的かつ低負荷の力をかけるタイプです。
代表的なものに、屈筋腱損傷の修復術後に用いるKleinert型動的スプリントがあります。手術で修復した腱に過度な負荷をかけずに、ゴムバンドの力で指を屈曲方向へ誘導し、患者自身が能動的に指を伸展することで腱の滑走を促します。
動的スプリントのポイント
動的スプリントでは、力の方向・大きさ・作用点が適切でないと、かえって組織を損傷するリスクがあります。そのため、作製後も定期的な調整が不可欠です。
静的進行性スプリント
静的進行性スプリント(static progressive splint)は、弾性力ではなく非弾性の力(面ファスナーやターンバックルなど)を使って、関節を段階的に矯正位に保持するタイプです。
動的スプリントが「常に力をかけ続ける」のに対し、静的進行性スプリントは「到達した位置で保持する」のが特徴です。組織のクリープ(持続的な力による軟部組織の伸長)を利用して、段階的に可動域を広げていきます。
Schultz-Johnson(2002)は、静的進行性スプリントが他の治療アプローチで改善が得られない拘縮にも有効となり得る方法であり、患者満足度とコンプライアンスも高いと報告しています(出典: Schultz-Johnson, Journal of Hand Therapy, 2002)。また、PIP関節の伸展制限に対して動的・静的進行性・連続静的の3種類の装具を比較したランダム化比較試験では、3群間の効果に統計学的な有意差はなかったと報告されており(出典: Glasgow & Ballard, Hand Therapy, 2022)、拘縮の期間や生活スタイルに応じて適した方式を選択します。
スプリントには大きく3つの種類があります。
- 静的スプリント:関節を固定して守るタイプ。骨折後や関節リウマチの安静時に使います
- 動的スプリント:ゴムバンドの力で関節を少しずつ動かすタイプ。腱の手術後のリハビリに使います
- 静的進行性スプリント:固くなった関節を段階的に伸ばしていくタイプ
どのタイプを使うかは、ケガの種類や回復の段階によって作業療法士が判断します。
主な対象疾患
スプリントが適応となる主な疾患・状態を紹介します。
関節リウマチ患者のスプリント使用率
腱修復後のスプリント装着期間の目安
骨折・脱臼
中手骨骨折や指骨骨折では、術後または保存的治療の際に静的スプリントで固定します。固定期間中も隣接する関節の運動を妨げないよう設計することが、OTの腕の見せどころです。
腱損傷(屈筋腱・伸筋腱)
腱の修復術後は、修復した腱に過度な張力をかけずに早期から運動を開始するため、動的スプリントが用いられます。プロトコルに従った装着スケジュールの管理が極めて重要です。手のケガからの回復過程とリハビリの全体像についてはハンドセラピーの基本で詳しく解説しています。
関節リウマチ
関節リウマチでは、炎症期の安静と変形予防を目的として静的スプリントが使用されます。特に尺側偏位予防スプリントやスワンネック変形予防リングなど、関節リウマチ特有のスプリントがあります。
末梢神経損傷
橈骨神経麻痺による下垂手(drop hand)には手関節背屈を補助する動的スプリントを、正中神経麻痺による猿手(ape hand)には母指対立位を保持するスプリントを用います。筋力の回復に合わせて段階的にスプリントを変更していきます。
熱傷
熱傷後の瘢痕拘縮は、手の機能を大きく損なう合併症です。治癒過程の早期から抗拘縮位(anti-deformity position)を保持するスプリントを装着し、瘢痕が成熟するまで長期間にわたって使用します。
スプリントが使われる主な場面です。
- 骨折:手術後やギプスの代わりに手を固定・保護します
- 腱の手術後:修復した腱を守りながらリハビリを進めるために使います
- 関節リウマチ:炎症を抑え、変形の進行を防ぎます
- 神経の損傷:動かなくなった部分の機能を補います
作業療法士によるスプリント作製の流れ
OTがスプリントを作製する工程は、単に型を取って素材を成形するだけではありません。評価から生活場面での適合確認まで、一連の臨床推論を伴うプロセスです。
評価・目標設定
- 1医師の指示と診療情報を確認する
- 2手の関節可動域・筋力・感覚・浮腫を評価する
- 3患者の生活スタイルと使用場面を聴取する
- 4スプリントの種類と装着スケジュールを決定する
設計・作製
- 5型紙(パターン)を作成し、手に合わせて修正する
- 6熱可塑性プラスチック(低温熱可塑性素材)を加温して成形する
- 7ストラップやパッドを取りつけて装着感を調整する
- 8フィッティングを行い、圧迫点や不適合箇所がないか確認する
指導・フォローアップ
- 9装着方法と装着時間を患者に指導する
- 10皮膚トラブルの早期発見方法を説明する
- 11定期的に来院してもらい、フィットや効果を再評価する
- 12回復状況に応じてスプリントを修正または新しいものに変更する
評価のポイント
スプリント作製の出発点は、何のためにスプリントが必要かを明確にすることです。単に「固定する」のではなく、「この患者さんのこの時期に、この目的のために」という臨床推論が不可欠です。
関節可動域や筋力の測定に加えて、浮腫の程度、皮膚の状態、感覚障害の有無も重要な評価項目です。感覚障害がある場合、スプリントの圧迫による皮膚損傷のリスクが高まるため、素材の選択やパッドの配置に特別な配慮が必要になります。
素材の選択
現在のスプリント作製で主に使用されるのは、低温熱可塑性プラスチックです。60〜70℃のお湯で軟化し、手に直接当てて成形できるため、個別適合性に優れています。
| 素材の特性 | 特徴 | 適したスプリント |
|---|---|---|
| 高い形状記憶性 | 再加温すると元の形に戻りやすい | 修正が頻繁に必要なスプリント |
| 高いドレープ性 | 自重で手の形に沿いやすい | 複雑な形状のスプリント |
| 高い剛性 | 硬化後に強い支持力を持つ | しっかり固定したいスプリント |
| 穴あき加工 | 通気性があり蒸れにくい | 長時間装着するスプリント |
スプリントは既製品ではなく、作業療法士がご本人の手に合わせて一つひとつ作ります。
特殊なプラスチック素材をお湯で温めると柔らかくなり、手に当てて形を整えます。冷めると固くなり、ぴったりフィットしたスプリントができあがります。
回復が進むにつれて手の状態が変わるので、定期的に調整や作り直しが必要です。
スプリント使用上の注意点
スプリントは正しく使えば大きな効果をもたらしますが、不適切な使用は逆に問題を引き起こします。
スプリント使用時の注意
スプリントの装着中に強い痛みやしびれ、皮膚の発赤・水疱が生じた場合は、すぐにスプリントを外して担当のOTまたは医師に連絡してください。特に感覚障害がある方は、自分では気づきにくいため、装着後に毎回皮膚を目視で確認する習慣が大切です。
装着時間を守る
処方された時間を超えて装着すると、関節の硬直や皮膚トラブルの原因になります。逆に短すぎると十分な効果が得られません
清潔を保つ
スプリントの内面は汗や皮脂で汚れやすいため、定期的にぬるま湯と中性洗剤で洗浄してください。熱湯は変形の原因になります
自己判断で改造しない
ストラップの位置を変える、素材を削るなどの自己改造は、力の分散バランスを崩し怪我の原因になります
定期的なチェック
浮腫の変化や回復の進行に伴い、フィット感は変わります。少なくとも2週間に1回はOTによる確認を受けましょう
スプリントを正しく使うために、以下の点に気をつけてください。
- 装着時間を守る:長すぎても短すぎてもよくありません。指示された時間を守りましょう
- 清潔に保つ:ぬるま湯と中性洗剤で洗ってください。熱湯は使わないでください(変形します)
- 自分で改造しない:ストラップの位置を変えたり削ったりすると逆効果になります
- 皮膚をチェック:外したときに赤くなっている場所やしびれがないか確認してください
- 異変があればすぐ連絡:強い痛み、しびれ、水疱ができたらスプリントを外して病院に連絡してください
スプリントと日常生活の両立
スプリントを処方された患者さんにとって、最大の関心事のひとつが「スプリントをつけたまま生活できるのか」です。ここがOTの専門性が最も発揮される場面です。
生活場面に合わせた設計
OTは、患者さんの1日の生活パターンを把握した上でスプリントを設計します。たとえば、デスクワークが中心の方であれば、キーボード操作を妨げない形状にします。調理をする方であれば、水に強い素材や洗いやすい構造を採用します。
Skirven ら(2011)の「Rehabilitation of the Hand and Upper Extremity」では、スプリントのコンプライアンス(患者が指示通りに使用する度合い)が治療成績を大きく左右することが強調されています。つまり、生活に合わないスプリントは使われなくなり、効果も出ないのです。
装着スケジュールの個別化
スプリントの装着スケジュールは、疾患の種類・回復段階・生活スタイルに応じて個別に設定されます。
- 術後早期: 運動時以外は常時装着(保護が最優先)
- 回復期: 日中は外してリハビリを行い、夜間のみ装着
- 維持期: 負荷の高い作業時のみ装着(仕事中など)
このスケジュールは固定されたものではなく、回復の進行に合わせてOTが段階的に変更していきます。
心理的な側面への配慮
スプリントの装着は、外見上の変化を伴うため、特に若い方や対人関係の多い職業の方にとって心理的な抵抗感が生じることがあります。
OTは、スプリントの必要性を丁寧に説明するだけでなく、素材の色の選択や目立ちにくいデザインの工夫、装着が必要な場面とそうでない場面の整理など、患者さんが納得してスプリントを使い続けられるための支援を行います。
最良のスプリントとは、患者が実際に使うスプリントである
— Fess & Gettle, 2005
なお、スプリント以外にも生活を支える用具は数多くあります。福祉用具全体の種類と選び方の考え方は福祉用具の選定ポイントで詳しく解説しています。
「スプリントをつけたまま生活できるの?」という不安はよくあります。作業療法士は、ご本人の生活に合わせてスプリントを設計します。
- パソコンを使う方にはキーボード操作を妨げない形に
- 料理をする方には水に強い素材で
- 回復に合わせて、装着する時間やタイミングを段階的に変えていきます
生活に合わないスプリントは使われなくなります。困っていることがあれば、遠慮なく作業療法士に伝えてください。
まとめ
- 手のスプリントには静的・動的・静的進行性の3種類があり、疾患の種類と回復段階に応じて使い分けます
- スプリント作製は型取りだけでなく、評価・設計・指導・フォローアップを含む一連の臨床プロセスです
- 装着時間の遵守や皮膚の管理など、正しい使用法を守ることで最大の効果が得られます
- 日常生活との両立を前提にした設計と、回復に合わせた段階的な調整がOTの専門性です
- スプリントの効果を最大化するカギは、患者さん自身が「使い続けたい」と思えるスプリントを提供することにあります
- スプリントはケガや病気の種類に合わせて、作業療法士が一人ひとりの手に合わせて作る装具です
- 指示された装着時間を守り、皮膚の状態をチェックすることが大切です
- 生活で困ることがあれば作業療法士に伝えてください。生活に合わせた調整をしてもらえます
- 熱湯で洗わない、自分で改造しないことを忘れずに
- スプリントの装着時間と外す時間のスケジュールを紙に書いて貼っておくと、忘れにくいです
- 外したときに皮膚が赤くなっていないか、毎回確認する習慣をつけましょう
- 洗うときはぬるま湯と中性洗剤で。熱湯は絶対に使わないでください
- Skirven TM, Osterman AL, Fedorczyk JM, Amadio PC. Rehabilitation of the Hand and Upper Extremity. 6th ed. Elsevier; 2011.
- Fess EE, Gettle KS, Philips CA, Janson JR. Hand and Upper Extremity Splinting: Principles and Methods. 3rd ed. Mosby; 2005.
- Glasgow C, Tooth LR, Fleming J. Mobilizing the stiff hand: combining theory and evidence to improve clinical outcomes. J Hand Ther. 2010;23(4):392-401.
- Egan M, Brosseau L, Farmer M, et al. Splints/orthoses in the treatment of rheumatoid arthritis. Cochrane Database Syst Rev. 2003;(1):CD004018.
- Schultz-Johnson K. Static progressive splinting. J Hand Ther. 2002;15(2):163-178.
- Glasgow C, Ballard E, et al. A prospective randomised comparative study of dynamic, static progressive and serial static proximal interphalangeal joint extension orthoses. Hand Therapy. 2022.
- Jacobs MA, Austin NM. Orthotic Intervention for the Hand and Upper Extremity: Splinting Principles and Process. Lippincott Williams & Wilkins; 2003.
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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