この記事のポイント
- 高齢の方と話すコツは5つ。正面から、低めにゆっくり短く、待つ、名前で呼び敬語で、確認する
- 前提は「聞こえ」です。日本の調査では、加齢による難聴は60代の男性で54.2%、70代で79.0%にのぼり、補聴器を持っている人は難聴を自覚する人の15.6%です
- 幼児語のような話し方(エルダースピーク)は、認知症のある方の介護への拒否を増やすことが研究で示されています(Shaw・Williams ほか、2022年)。親しみは、名前と敬語で伝えます
- 2022年の推計では高齢者の12.3%(約443万人)が認知症、15.5%が軽度認知障害です。否定しない、言い争わない、気持ちに合わせる、が基本です
- この「気をつけること」は、作業療法士の仕事の入口そのものです
「気をつけること」を聞いてくれてうれしい理由
「高齢の方と喋る時に気を付けることはなんですか」。職場体験やボランティアの前に、この質問をしてくれる高校生がいます。作業療法士(OT: Occupational Therapist)としては、いちばんうれしい質問です。相手を尊重しようとしている人にしか出てこない問いだからです。
作業療法士は、毎日高齢の方と話します。その経験から、この記事では5つのコツと、やってはいけないこと、認知症のある方との話し方を整理します。どれも特別な技術ではなく、聞こえの前提を知ることと、相手を大人として扱うことに尽きます。
職場体験・ボランティア・実習で高齢の方と接する前に、家庭で確認しておきたい会話の基本を整理します。根拠として、加齢性難聴の頻度、幼児語での話しかけ(エルダースピーク)に関する研究、認知症の有病率推計を示します。家庭の祖父母との会話にもそのまま使える内容です。
まず、聞こえの前提を知る
高齢の方との会話がうまくいかない原因の多くは、話し方の前に「聞こえ」にあります。
60代男性の難聴該当率(WHO新分類)
70代男性の難聴該当率
難聴を自覚する人のうち補聴器を持つ人
日本の地域在住者を対象にした調査では、WHOの新しい分類で難聴に該当する人は、60代で男性54.2%・女性36.4%、70代で男性79.0%・女性72.1%、80代では男女とも9割を超えていました。一方、難聴を自覚している人のうち補聴器を持っている人は15.6%です。つまり、あなたが話す相手の多くは、聞こえにくさを抱えたまま、補聴器なしで会話していると考えたほうが実態に近いのです。
加齢による難聴は、一般に高い音から聞き取りにくくなります。大声を出すと声が高くなって、かえって聞き取りにくくなることがあります。だから「大きく」ではなく「低めに、ゆっくり、短く、正面から」が基本になります。聞こえと社会参加の関係は難聴と社会参加に詳しく書いています。
日本の地域在住者を対象とした調査(NILS-LSA第7次調査、40〜91歳2,325人)では、WHO新分類による難聴該当率は60代男性54.2%・女性36.4%、70代男性79.0%・女性72.1%、80代男性96.0%・女性90.4%でした(Uchida ほか、2025年)。日本補聴器工業会の JapanTrak 2025 では、難聴を自覚する人の補聴器所有率は15.6%です。
会話の相手の多くが補聴器なしで聞こえにくさを抱えている前提で、「低めに・ゆっくり・短く・正面から・静かな場所で」を基本にしてください。
話し方の5つのコツ
1. 正面から、顔を見せて
横や後ろから話しかけると、聞こえないうえに驚かせます。目の高さを合わせ、口の動きが見える位置で。マスクをしているときは、いつもより意識して正面に立ちます
2. 低めに、ゆっくり、短く
大声より低めの声。一文を短く、一度に一つのことを。「お茶を飲みますか、それとも先にトイレに行きますか」は二つの質問です。一つずつ聞きます
3. 待つ
答えが返ってくるまで、思っているより長く待ちます。聞き取る時間、考える時間、言葉にする時間がそれぞれ要ります。沈黙を埋めようとして次の質問をかぶせないこと
4. 名前で呼び、敬語で話す
「おばあちゃん」「〜ちゃん」ではなく「〇〇さん」。幼児語のような話し方は、親しみのつもりでも尊厳を損ないます。アメリカの病院での研究(2022年)では、認知症のある方の介護への拒否を増やすことが示されています
5. 分かったふりをしない
聞き取れなかったら「もう一度お願いします」。相手の言葉を繰り返して確認する。分かったふりは、相手にはたいてい伝わっていて、そのあとの会話が薄くなります
5つの中でいちばん難しいのは「3. 待つ」です。若い人の会話のテンポは速く、沈黙が不安になります。でも、高齢の方との会話では沈黙は考えている時間です。相手が言葉を探しているときに待てるかどうかが、信頼されるかどうかの分かれ目になります。
| コツ | 具体的に | 理由 |
|---|---|---|
| 正面から顔を見せる | 目の高さを合わせ、口の動きが見える位置で | 聞こえの補助と、驚かせない配慮 |
| 低めに・ゆっくり・短く | 一文を短く、質問は一度に一つ | 加齢性難聴は高音から聞き取りにくい |
| 待つ | 答えが返るまで次の質問をかぶせない | 聞き取り・思考・発話にそれぞれ時間が要る |
| 名前で呼び敬語で話す | 「〇〇さん」。幼児語で話しかけない | エルダースピークは介護拒否を増やす研究がある |
| 分かったふりをしない | 聞き返す、繰り返して確認する | 相手に伝わり、以後の会話が薄くなる |
「待つ」が最も難しく、最も重要です。家庭で祖父母と話すときに、意識して沈黙を待つ練習ができます。
やってはいけないこと
幼児語で話しかけない(エルダースピーク)
「〜でちゅね」「えらいねー」のような、子どもに向けるような話し方をエルダースピークと呼びます。アメリカの病院で認知症のある入院患者と看護スタッフの会話を録音した研究(2022年)では、エルダースピークが介護への拒否につながることが示され、介護施設での先行研究と同じ結果でした。一方で2026年の総説は、ゆっくり短く話すなどの一部の工夫は理解を助ける面もあると指摘しています。つまり、話す速さや長さの工夫は良いが、子ども扱いの語彙と口調はやめる、というのが研究の示す線です。
ほかにも、作業療法士が新人のうちに注意されることを挙げておきます。
- 本人の代わりに答えない: 家族や職員に向かって「この方は〜ですよね」と話すと、本人が会話から外されます。本人に聞いてください
- 「〜してあげる」と言わない: 「お茶を入れてあげますね」より「お茶をお入れしますね」。小さな言葉が、上下関係を作ります
- 体に触る前に一言: 手を添える、肩に触れる前に「手を貸してもいいですか」。急に触られるのは、誰でも怖いものです
- 写真を撮らない、SNSに書かない: 職場体験で出会った方の顔・名前・施設名・特徴の組み合わせは個人情報です。作業療法士が現場で守っているのと同じルールです
エルダースピーク(幼児語のような話し方)については、アメリカの病院で認知症のある入院患者と看護スタッフの会話を分析した研究(Shaw・Williams ほか、2022年、Journal of the American Geriatrics Society)で、介護への拒否(rejection of care)の先行要因であることが示されています。2026年の総説(García、NPJ Dementia)は、話速や文の長さの調整など一部の要素は理解を助けると指摘しており、「子ども扱いの語彙・口調は避け、話速と長さの工夫は保つ」という整理が妥当です。
そのほか、本人の代わりに答えない、「〜してあげる」を避ける、身体接触の前に一言添える、写真撮影やSNS投稿をしない、を体験前に確認してください。
認知症のある方と話すとき
厚生労働省の2022年の推計では、高齢者の12.3%(約443万人)が認知症、15.5%(約559万人)が軽度認知障害(MCI)で、合わせると高齢者の約28%です。職場体験や施設のボランティアで話す相手が認知症であることは、珍しくありません。
基本は3つです。
- 否定しない: 「さっきも言いましたよ」「違いますよ」は、相手の不安を増やします。同じ話が繰り返されても、初めて聞くように応じます
- 訂正で言い争わない: 事実の正しさより、その場の気持ちを優先します。「息子が迎えに来る」と言われたら、「そうなんですね、楽しみですね」と気持ちに合わせます
- その人の得意な話題を選ぶ: 昔の仕事、育った土地、料理、趣味。長く覚えている記憶のほうが話しやすく、表情が変わります
ただし、大事な注意があります。「この人は認知症かもしれない」と自分で決めつけないでください。聞こえにくいだけの人、疲れている人、あなたに緊張している人もいます。診断は医師の仕事で、あなたの仕事は目の前の人と丁寧に話すことです。認知症のある家族との接し方は認知症の家族への接し方に、ことばが出にくい失語症の方との会話は失語症の家族への接し方にまとめています。
厚生労働省の推計(2022年、4地域の悉皆調査にもとづく)では、高齢者の認知症有病率は12.3%(443.2万人)、軽度認知障害(MCI)は15.5%(558.5万人)で、合計約28%です。認知症のある方との会話の基本は、否定しない、訂正で言い争わない、本人の得意な話題を選ぶ、の3点です。
お子さんが「相手は認知症かもしれない」と決めつけないよう、診断は医師の役割であることを伝えてください。会話がうまくいかない理由は、聞こえ・疲労・緊張など認知症以外にも多くあります。
この「気をつけること」が、作業療法士の仕事の入口
ここまで書いてきたことは、そのまま作業療法士の仕事の最初の2つ、「情報を集める」と「評価する」です。正面から話しかけて、待って、確認する。その間に、作業療法士は相手の聞こえ、言葉の出方、表情、姿勢、手の動きを見ています。会話そのものが評価の一部なのです。
「待つ」「相手のペースに合わせる」は、相手が高齢の方でも、子どもでも同じです。発達支援の現場で作業療法士がどう待ち、どう観察するかは作業療法士の1日 ── 発達支援の現場からに書きました。新人の作業療法士が患者さんとの最初の会話をどう組み立てるかは患者さんとの最初の会話にあります(現役向けの記事です)。
高齢の方との会話が「苦にならない」と感じたなら、それは作業療法士に向いているのはどんな人?の6つの仕事のうち、最初の2つが向いているということです。
会話の基本は、作業療法士の業務である「情報収集」と「評価」の入口です。正面から話しかけ、待ち、確認する間に、聞こえ・発話・表情・姿勢・手の動きを観察しています。お子さんが職場体験でこの会話を「苦にならない」と感じたかどうかは、進路を考える材料の一つになります。
よくある質問
何を話せばいいか分かりません
質問より、まず自己紹介と「今日はよろしくお願いします」で十分です。そのあとは、相手の得意な話題を探します。昔の仕事、育った場所、好きだった料理。「教えてください」の姿勢で聞くと、話してもらえます。
聞き取れなかったときは
「すみません、もう一度お願いします」と正面から言います。それでも分からなければ、聞き取れた部分を繰り返して「〇〇ということですか」と確認します。分かったふりがいちばん良くありません。
同じ話を何度もされたら
初めて聞くように応じます。相手にとっては初めて話しているのと同じで、「さっき聞きました」は不安と恥ずかしさを与えます。
手を貸していいですか
一言添えてから。「お手伝いしてもいいですか」「手を貸しますね」。急に触られるのは誰でも怖いものです。職場体験では、介助そのものは職員に任せ、頼まれたことだけを行ってください。
体験前に家庭でできる準備は
祖父母や近所の高齢の方と話すときに、5つのコツ(正面・低めにゆっくり短く・待つ・名前と敬語・確認)を意識して練習することです。特に「待つ」を体験しておくと、現場で落ち着けます。
体験で困ったことがあったら
その場の職員に相談するよう伝えてください。介助や判断を本人が引き受ける必要はなく、頼まれたことだけを行うのが基本です。
まとめ
- 聞こえの前提から入り、顔を見せて低めの声で短く話し、答えを待ち、「〇〇さん」と敬語で呼び、分からなければ聞き返す。この5つで会話の質が変わります(難聴率は Uchida ほか 2025年のNILS-LSA調査、補聴器所有率は JapanTrak 2025 による)
- 幼児語で話しかけない。子ども扱いの口調は、認知症のある方が介護を拒む先行要因だと2022年の病院での研究が示しました。残すのは、話す速さと文の長さの工夫だけです
- 認知症のある方とは、否定しない・言い争わない・得意な話題を選ぶ。ただし「認知症かも」と自分で決めつけない
この会話が苦にならなかったら、作業療法士の仕事の入口はもう通っています。次は作業療法士に向いているのはどんな人?で、残りの仕事を見てみてください。
- 会話の基本は正面・低めにゆっくり短く・待つ・名前と敬語・確認の5点。難聴は60代男性54.2%・70代79.0%、補聴器所有は自覚者の15.6%(Uchida 2025、JapanTrak 2025)
- エルダースピーク(幼児語での話しかけ)は介護拒否の先行要因(Shaw・Williams ほか 2022)。子ども扱いの語彙・口調を避ける
- 高齢者の12.3%が認知症、15.5%がMCI(厚生労働省 2022年推計)。否定しない・言い争わない・得意な話題を選ぶ。診断の決めつけはしない
- 家庭で「待つ」練習をする: 祖父母との会話で、答えが返るまで次の質問をかぶせない練習ができます
- 「〜ちゃん」「〜してあげる」を家庭でも見直す: 家族の高齢者に対する言葉遣いが、そのまま体験先での言葉遣いになります
- 写真・SNSのルールを確認する: 体験先で出会った方の顔・名前・施設名を撮らない、書かないことを事前に共有してください
- Uchida Y, et al. Can hearing screening criteria at general health checkups be an indirect indicator of frailty and cognitive deficit in the older population? - with prevalence estimates based on updated WHO hearing loss classification. Geriatrics and Gerontology International. 2025;25:504-510(PMID 39876659)
- 日本補聴器工業会「JapanTrak 2025 調査報告」(自己申告難聴者率・補聴器所有率)
- 厚生労働省「認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」(2022年有病率調査にもとづく推計)
- Shaw CA, Williams KN, et al. Elderspeak communication and pain severity as modifiable factors to rejection of care in hospital dementia care. Journal of the American Geriatrics Society. 2022(PMID 35642656)
- García AM. The two faces of elderspeak. NPJ Dementia. 2026(PMID 42465585)
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言や診断を構成するものではありません。認知症や難聴の判断は医師が行います。体験先では施設の職員の指示に従ってください。
よくある質問
- 高齢の方と話すときに気をつけることは何ですか?
- 5つあります。正面から顔を見せて話す、声は大きくするより低めにゆっくり短く、答えを待つ、名前で呼び敬語で話す(幼児語で話しかけない)、聞き取れなかったふりをせず確認する、です。加齢による難聴は60代の男性で半数超という調査があり、聞こえの前提から入るのが基本です。
- 高齢の方には大きな声で話したほうがいいですか?
- 大声より、低めの声でゆっくり、正面から、短く区切って話すほうが伝わります。加齢性難聴は高い音から聞き取りにくくなることが多く、大声にすると声が高くなって逆効果になることがあります。静かな場所を選ぶことも効果があります。
- 認知症の方と話すときはどうすればいいですか?
- 否定しない、訂正で言い争わない、その場の気持ちに合わせる、が基本です。2022年の推計では高齢者の12.3%(約443万人)が認知症、15.5%が軽度認知障害とされ、会話の相手が認知症であることは珍しくありません。ただし「この人は認知症かも」と自分で決めつけないでください。
- 「おばあちゃん」「〜ちゃん」と呼んでもいいですか?
- 名前で呼び、敬語で話してください。幼児語のような話し方(エルダースピーク)は、認知症のある方の介護への拒否を増やすことが研究で示されています。親しみのつもりでも、相手の尊厳を損なうことがあります。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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