この記事のポイント
- 視覚認知障害とは、目は見えているのに脳の損傷により物の形・位置・意味を正しく認識できない状態です
- 形態認知障害、空間認知障害、物体失認など多様なタイプがあり、日常生活に大きな影響を及ぼします
- 作業療法士は評価に基づいて、回復を促すトレーニングと代償戦略の獲得を支援します
視覚認知障害とは
視覚認知障害とは、視力や視野には大きな問題がないにもかかわらず、脳の損傷により視覚情報を正しく処理できなくなった状態を指します。
視覚情報の処理は、大きく2つの経路で行われます。
- 腹側経路(「何か」経路): 後頭葉から側頭葉へ向かい、物体の形・色・意味を認識する
- 背側経路(「どこ」経路): 後頭葉から頭頂葉へ向かい、物体の位置・方向・動きを認識する
これらの経路のどこが損傷されるかによって、現れる症状が異なります。OTは、どのタイプの視覚認知障害がどの生活場面に影響しているかを分析し、介入計画を立案します。作業療法士がどのような専門職なのかは作業療法とは何かを解説した記事で詳しく紹介しています。
視覚認知障害とは、目は見えているのに、脳の損傷により物の形や位置を正しく理解できなくなる状態です。
たとえば、目の前にあるコップが「コップだ」とわからなくなったり、物の位置関係がつかめなくなったりします。
これは目の問題ではなく、脳の問題です。脳卒中や頭部外傷の後に起こることが多く、高次脳機能障害の一種です。脳卒中の発症直後から始まるリハビリの様子は脳卒中の急性期に作業療法士が行うことで紹介しています。
視覚認知障害の種類
1. 形態認知障害
物体の形を正しく認識することが困難になります。
- 形態弁別障害: 似た形の区別ができない(例: 丸と楕円の弁別困難)
- 図と地の弁別障害: 背景から対象を切り出すことが困難(例: 模様のある食器の上の食べ物が見つけられない)
- 形の恒常性の障害: 角度や大きさが変わると同じ物だと認識できない
2. 空間認知障害
空間的な位置関係や方向の認識が困難になります。
- 位置関係の認知障害: 物と物の上下・左右・前後関係がわからない
- 距離の認知障害: 対象までの距離を正しく判断できない
- 地誌的障害: 慣れた場所でも道に迷う
- 構成障害: 図形の模写や積み木の構成ができない
3. 物体失認(視覚失認)
視覚を通じて物体を認識することが困難になります。
- 統覚型視覚失認: 物体の全体像を把握できない(部分は見えるが統合できない)
- 連合型視覚失認: 形は見えているが、それが何であるか(意味)がわからない
- 相貌失認: 顔を見ても誰かわからない
4. その他の視覚認知障害
- 色彩失認: 色の識別や色名の対応が困難
- 同時失認: 複数の対象を同時に認識できない
- 視覚性注意障害: 視覚的な注意の集中や配分が困難
視覚認知障害にはいくつかの種類があります。
形がわからなくなるタイプ
- 似た形の区別がつかない
- 柄のある食器の上の食べ物を見つけにくい
- 角度が変わると同じ物だとわからない
位置や方向がわからなくなるタイプ
- 物の上下・左右がわかりにくい
- 距離がつかめず、物を取りそこなう
- 慣れた場所でも道に迷う
物が何かわからなくなるタイプ
- 物の形は見えているが、それが何か(名前や使い方)がわからない
- 人の顔を見ても誰だかわからない
ヒント
ご本人は「見えている」と感じているため、自分の障害に気づきにくいことがあります。「なぜできないのか」がわからず、困惑していることも多いのです。
評価方法
標準化された検査
- VPTA(標準視知覚検査): 日本で広く使用される視覚認知の標準化検査
- BIT(行動性無視検査): 半側空間無視を含む視空間認知の評価
- ROCFT(Rey複雑図形検査): 視覚構成能力と視覚記憶の評価
- コース立方体組み合わせテスト: 空間認知と構成能力の評価
- TMT(Trail Making Test): 視覚探索と注意の切り替えの評価
生活場面での観察評価
標準化検査と併せて、実際の生活場面での観察が不可欠です。
- 食事場面: 食器や食材の認識、箸・スプーンの操作
- 更衣場面: 衣服の表裏・前後の判別、ボタンの位置合わせ
- 移動場面: 障害物の回避、目的地への到達
- 家事場面: 道具の選択、手順の遂行
検査結果と生活場面の観察を統合し、どの視覚認知機能の障害がどの生活活動に影響しているかを明確にすることがOT評価の核心です。食事や更衣といった生活活動の評価の枠組みについてはADLとIADLの違いと評価方法で詳しく解説しています。
作業療法士は、以下のような方法で視覚認知障害を評価します。
- 検査: 図形の模写、パズル、絵の識別などのテスト
- 生活場面の観察: 食事、着替え、移動などの実際の場面で困っていることを確認
検査の結果だけでなく、実際の生活でどんなことに困っているかを丁寧に確認することが大切にされています。
トレーニングアプローチ
回復的アプローチ
損傷された機能自体の回復を促すアプローチです。
- 形態認知訓練: 図形の弁別、パズル、間違い探し、図と地の弁別課題
- 空間認知訓練: 積み木の構成、地図の読み取り、方向定位の練習
- 物体認知訓練: 物の絵のマッチング、カテゴリー分類、物の特徴の言語化
代償的アプローチ
障害された機能を他の感覚や方略で補うアプローチです。
- 言語的手がかりの活用: 物の特徴を言葉で確認する(「丸い、持ち手がある、温かい → コップ」)
- 触覚的手がかりの活用: 触って形を確認する習慣をつける
- 環境の単純化: 視覚情報を減らし、認識しやすくする(柄のない食器を使う、棚の物を減らす)
- ラベリング: 文字ラベルや色分けシールを活用する
- ルーティン化: 物の置き場所を固定し、手順を定型化する
活動ベースのアプローチ
実際の生活活動の中でトレーニングを行うアプローチです。
- 調理活動: 食材の識別、道具の選択、手順の遂行を通じて複合的な視覚認知を訓練
- 手工芸: 形の識別、空間構成、手順の遂行を訓練
- 園芸: 植物の識別、空間配置の計画を訓練
OTの強みは、これらのアプローチを個々の生活目標に結びつけて実施できる点にあります。机上の訓練だけでなく、実際の生活場面での般化を常に意識した介入が求められます。
「直す」練習
- パズルや間違い探し: 形を見分ける力を鍛えます
- 積み木やブロック: 空間をとらえる力を練習します
- 物の絵合わせ: 物を認識する力を高めます
「補う」工夫
- 触って確認する: 見てわからなくても、触ると「コップだ」とわかることがあります
- 言葉で確認する: 「丸くて持ち手がある → コップ」と、特徴を言葉にすると認識しやすくなります
- 物の置き場所を決める: いつも同じ場所に同じ物を置くことで、迷わなくなります
- 柄のない食器を使う: シンプルな食器の方が料理を認識しやすくなります
日常生活の中での練習
作業療法士は、料理や手芸などの実際の活動の中で練習を行います。テストのような練習だけでなく、生活に直結した訓練を大切にしています。
物の置き場所を変えないようにしてください。「いつもの場所にいつもの物がある」ことが、ご本人の安心と自立につながります。また、柄の多い食器より無地の食器の方が認識しやすくなります。
日常生活での代償戦略
食事場面
- 無地でコントラストの強い食器を使用する
- 食器の数を減らし、配置をパターン化する
- 食材を切り分けて形を統一する
更衣場面
- 衣服にタグや目印をつけて表裏・前後を区別する
- 組み合わせをセットにして保管する
- 着る順番を言語化して手順を定着させる
移動場面
- 経路を言語的に記憶する(「右に曲がって、3つ目のドアが目的地」)
- ランドマークを活用する(色や形で目印を覚える)
- スマートフォンのナビゲーションを利用する
金銭管理
- 紙幣を種類別にファイリングする
- キャッシュレス決済を活用する
日常で使える工夫
- 着替え: 服にタグで印をつけて前後を区別する。組み合わせをセットにして保管する
- 移動: 「右に曲がって3つ目のドア」のように、道順を言葉で覚える
- 食事: 無地でシンプルな食器を使う。お皿の数を減らす
- 買い物: キャッシュレス決済を活用する
視覚認知障害へのOT介入は、回復的アプローチと代償的アプローチを組み合わせ、個々の生活ニーズに応じたオーダーメイドのプログラムを提供することが重要です。標準化検査による客観的評価と生活場面の観察を統合し、エビデンスに基づいた効果的な介入を展開していきましょう。
視覚認知障害についてのまとめ
- 視覚認知障害は目の問題ではなく、脳の損傷により「見えているのに認識できない」状態です
- 形がわからない、位置がつかめない、物が何かわからないなど、さまざまなタイプがあります
- パズルや間違い探しなどの練習と、触って確認する・物の置き場所を決めるなどの工夫を組み合わせます
- ご家族は物の置き場所を変えない、柄のない食器を使うなどの環境調整で支援できます
- 作業療法士は、実際の生活場面でのリハビリを大切にし、日常生活の自立をサポートします
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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