この記事のポイント
ADL(日常生活動作)とIADL(手段的日常生活動作)は、どちらも「生活の自立度」を表す指標ですが、対象となる動作の複雑さや求められる能力が異なります。ADLは食事・入浴・着替えなど身体的な基本動作、IADLは料理・買い物・金銭管理など判断力を伴う複雑な動作です。この記事では、2つの違いを具体的な例を交えてわかりやすく解説します。
ADLとIADL、ひとことで言うと
ADLは「身体を整える動作」、IADLは「暮らしを回す動作」です。
- ADL=食事、入浴、着替え、トイレなど、毎日の基本的な動作
- IADL=料理、買い物、お金の管理、お薬の管理など、考える力が必要な動作
ADLが「身の回りのこと」なら、IADLは「身の回りの"その先"にあること」とイメージするとわかりやすいです。
具体的な項目の違い
| 分類 | ADL(基本的日常生活動作) | IADL(手段的日常生活動作) |
|---|---|---|
| 食に関すること | 食べ物を口に運ぶ、噛む、飲み込む | 献立を考える、食材を買う、調理する |
| 身だしなみ | 着替える、歯を磨く、顔を洗う | 季節に合った服を選ぶ、クリーニングに出す |
| 清潔 | 入浴する、身体を洗う | 浴室を掃除する、洗剤を補充する |
| 排泄 | トイレで用を足す、後始末をする | トイレットペーパーを買い足す |
| 移動 | 歩く、車いすで移動する | バスに乗る、時刻表を読む、切符を買う |
| 健康管理 | (該当なし) | 薬を正しく飲む、通院の予約をする |
| お金 | (該当なし) | 家計を管理する、ATMを使う、請求書を払う |
| コミュニケーション | (該当なし) | 電話をかける、メールを送る |
このように、ADLは主に体の力が中心ですが、IADLは体の力に加えて考える力(判断・計画・記憶)が大きく関わります。
求められる能力の違い
ADLに必要な力
ADLに必要なのは、主に体を動かす力です。筋力やバランス、関節の動きなどが土台になります。
多くのADL動作は体が覚えている動きなので、意識しなくてもある程度は自動的にできます。
IADLに必要な力
IADLには体の力だけでなく、考える力が必要です。
- 計画する力 ― 料理の手順を組み立てる
- 判断する力 ― 何を買うか決める
- 覚えておく力 ― お薬の飲み方やバスの時刻を覚える
- 同時に気を配る力 ― 鍋を見ながら野菜を切る
つまり、IADLは「考えながら行う動作」が多いのが特徴です。
低下する順番が違う
加齢や認知症による低下の場合
一般的に、IADLのほうが先にできなくなります。
たとえば認知症の初期には、着替えや食事はまだできるのに、次のような変化が現れます。
- 料理の味付けがおかしくなる
- 同じ食材を何度も買ってくる
- お薬の飲み忘れが増える
ADLが難しくなるのは、もっと進行してからです。だからこそ、IADLの変化は認知症の早期発見の大切な手がかりになります。
- 冷蔵庫に同じ食材がいくつもないか
- 料理の味が以前と変わっていないか
- お薬が飲み残しになっていないか
脳卒中や骨折など急性期の場合
一方、脳卒中や骨折のように急に身体機能が低下する場合は、ADLとIADLが同時に、あるいはADLが先に影響を受けることがあります。
例えば脳卒中で片麻痺になった場合、着替え(ADL)も料理(IADL)も同時に困難になります。
回復の場合
リハビリテーションによる回復は、低下とは逆の順序をたどることが多いです。
まず食事や着替えなどの基本的な動作(ADL)が先に良くなり、その後に買い物や調理などのIADLが回復へと進みます。リハビリでは、この回復の段階に合わせて目標を立てていきます。
評価方法の違い
ADLの主な評価ツール
| ツール名 | 特徴 |
|---|---|
| FIM | 18の項目を7段階で評価。日本のリハビリ病院で最もよく使われています |
| BI(バーセルインデックス) | 10の項目を100点満点で評価。世界中で広く使われています |
IADLの主な評価ツール
| ツール名 | 特徴 |
|---|---|
| ロートンIADL尺度 | 電話・買い物・調理など8つの項目で評価します |
| FAI | 過去数か月で「実際にしているか」を15項目で確認します |
評価の視点の違い
ADLの評価は「できるかどうか」が中心です。一方、IADLの評価では「実際の暮らしの中でやっているか」「安全にできるか」という視点も加わります。
たとえば、病院では調理ができても、自宅で毎日安全に続けられるかは別の話です。IADLの評価では、こうした暮らしの実態が大切にされます。
リハビリでの扱いの違い
ADLのリハビリ
ADLのリハビリは目標がわかりやすいのが特徴です。「一人でトイレに行ける」「自分で食事ができる」など、はっきりしたゴールに向けて繰り返し練習します。自助具や環境の調整も大切な方法です。
IADLのリハビリ
IADLのリハビリは、その方の暮らしに合わせた練習になります。病院のキッチンでの調理練習や、実際のスーパーでの買い物練習など、できるだけ本番に近い場面で行います。
また、「できないことを道具で補う」工夫も大切です。お薬カレンダーや買い物リスト、ネットスーパーなどを組み合わせて暮らしを整えます。
目標設定の違い
ADLの目標は「自分でできるようになる」が中心ですが、IADLの目標は暮らし方によって変わります。
一人暮らしなら調理や買い物の自立が大切ですが、ご家族と一緒に暮らしているなら、お薬やお金の管理のほうが優先されることもあります。作業療法士が、ご本人の暮らしと希望に合わせて目標を一緒に考えます。
ご家族に知っておいてほしいこと
ADLとIADLの両方に目を向ける
入院中は「食事ができるようになった」「歩けるようになった」などADLの回復が目につきやすいです。
しかし退院後の暮らしでは、IADLの自立度が「一人で暮らせるか」を左右します。退院が近づいたら、作業療法士に「買い物は一人でできますか?」「お薬の管理はどうしたらいいですか?」と聞いてみてください。
「できること」と「していること」は違う
病院で「できる」ことと、自宅で「している」ことは違うことがあります。
たとえば訓練では調理ができても、家では「面倒だからやらない」ということも。これは体の問題ではなく、やる気や環境の問題かもしれません。
「できるのにしていない」状態が続くと、その力自体が落ちてしまうことがあります。ご本人がIADLを続けられる環境を整えることが大切です。
- 完璧を求めず、ご本人のペースで取り組めるようにする
- 「やって」ではなく「一緒にやろう」と声をかける
- 危険がなければ見守って任せることも大切です
変化のサインを見逃さない
先述のとおり、IADLの低下は認知症の初期サインになることがあります。以下のような変化に気づいたら、早めに専門家に相談してください。
- 料理のレパートリーが減った、味付けが変わった
- 同じものを何度も買ってくる
- 請求書の支払いを忘れるようになった
- 薬の飲み忘れや飲みすぎが増えた
- バスや電車の乗り方に迷うようになった
- 季節に合わない服を着ている
こうした変化は「年のせい」で片づけず、かかりつけ医や地域包括支援センターに相談することをおすすめします。
まとめ:ADLとIADLは「暮らしの両輪」
ADLは「身体を整える基本の動作」、IADLは「暮らしを回す応用の動作」。この2つが揃って、自分らしい暮らしが成り立ちます。
退院後の暮らしではIADLの自立がとても大切です。ADLだけでなくIADLにも目を配り、変化に早く気づくことが、ご本人の暮らしを守る力になります。気になることがあれば、担当の作業療法士に気軽に相談してください。
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