この記事のポイント
- ALSは運動神経が徐々に障害される進行性の疾患ですが、感覚や知能は保たれます
- 進行の段階に応じて自助具・環境制御装置・コミュニケーション手段を導入し、「できること」を最大化します
- 作業療法士は本人だけでなく、介護するご家族の支援も大切にしています
ALSという病気を理解する
ALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis)は、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンが選択的に障害される進行性の神経変性疾患です。
日本の全国データ(2013年)では、有病率は人口10万人あたり9.9人、年間発症率は2.2人で、最も多い年齢層は70歳代です。男女比は約1.5:1でやや男性に多いとされています(2014年の報告)。
ALSの特徴
- 運動機能: 筋力低下、筋萎縮、線維束攣縮が進行する
- 感覚機能: 原則として保たれる(痛みや温度はわかる)
- 知的機能: 大部分の症例で保たれる(地域住民ベースの研究では13.8%が前頭側頭型認知症の基準を満たした。Phukan ら, 2012年)
- 眼球運動: 末期まで比較的保たれることが多い
- 膀胱直腸機能: 一般に保たれる
OTの役割は、進行する運動機能障害に対して先を見越した(anticipatory)介入を行い、各段階で最大限の活動参加を保障することです。作業療法士という職種の全体像については作業療法とは何かで詳しく解説しています。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、手足や全身の筋肉が徐々に動かなくなる病気です。
大切なポイントとして覚えておいていただきたいのは、以下の点です。
- 感覚は保たれます: 痛みや温度、触れられた感覚はわかります
- 頭ははっきりしています: 考える力や記憶は保たれます
- 目は動きます: 末期まで眼球の動きは比較的保たれます
つまり、体は動かなくなっても、頭の中は以前と変わらないのです。この理解がとても重要です。
進行段階に応じた作業療法支援
初期: 手足の筋力低下が始まった段階
この段階では、残存機能の活用と生活動作の効率化が中心になります。
- 自助具の導入: 握力低下に対してビルトアップハンドル(太柄)の箸・スプーン、ボタンエイド
- 上肢の省力化: 前腕支持型テーブル(BFO: Balanced Forearm Orthosis)の検討
- 住宅改修の計画: 手すりの設置、段差解消を早めに計画する
- 就労支援: 職場環境の調整、業務内容の見直し
ヒント
ALSでは「先手を打つ」介入が重要です。機能低下が起きてから対応するのではなく、次の段階を見据えた準備を始めることで、スムーズな移行が可能になります。
中期: 上肢機能の低下が進んだ段階
- 環境制御装置(ECS)の導入: スイッチ一つで照明、テレビ、エアコン、ナースコールを操作
- 電動車いすの導入: 操作方式の選定(ジョイスティック → ヘッドコントロール → 顎コントロール)
- IT機器の活用: 音声入力、スイッチ入力によるパソコン操作
- 食事の工夫: 食形態の調整、ポジショニングの最適化
後期: 四肢の運動機能が著しく低下した段階
- コミュニケーション支援: 透明文字盤、視線入力装置、意思伝達装置の導入
- 呼吸管理: 体位管理、排痰支援との連携
- QOLの維持: 趣味活動の形態変換(読書→オーディオブック、音楽鑑賞など)
- 介護者支援: 介護負担の軽減、レスパイトケアの調整
呼吸機能に配慮しながら「やりたいこと」を続ける工夫については、COPDの方の活動を支える作業療法の工夫も参考になります。
ALSの進行に合わせて、使える道具や工夫も変わっていきます。
初期: 手足が動かしにくくなったとき
- 太い柄の食器: 握力が弱くなっても持ちやすい
- ボタンエイド: ボタンの留め外しを助ける道具
- 手すりの設置: 早めに取り付けておくと安心です
- 仕事を続けるための職場環境の調整も相談できます
転倒リスクの高いお風呂まわりの安全対策については、入浴の自立を支える工夫で詳しく解説しています。
中期: 腕が上がりにくくなったとき
- 環境制御装置: スイッチ一つで照明、テレビ、エアコンを操作できます
- 電動車いす: 手での操作が難しくなったら、顎や頭で操作する方法もあります
- パソコン: 音声で操作する方法があります
後期: 体が動かしにくくなったとき
- 透明文字盤: 目の動きで文字を伝えます
- 視線入力装置: 目の動きだけでパソコンやタブレットを操作できます
- オーディオブック: 本が持てなくても読書を楽しめます
ALSでは、機能が低下してからではなく、「次の段階に備えて早めに準備する」ことが重要です。今は必要なくても、次の段階で使う道具や制度について、作業療法士と一緒に計画を立てておきましょう。
コミュニケーション支援
ALSにおけるコミュニケーション支援は、OTの最も重要な介入領域の一つです。
コミュニケーション手段の段階的導入
- 発話が可能な段階: 音声増幅器の活用、省エネルギーな発話パターンの指導
- 発話が困難になった段階: 透明文字盤、50音表、口文字
- 上肢操作が困難な段階: スイッチ操作による意思伝達装置
- 随意運動が限られた段階: 視線入力装置、脳波インターフェース(BCI)の検討
意思伝達装置の選定
- 伝の心: スイッチ入力式の意思伝達装置。日常生活用具給付対象
- マイトビー: 視線入力による操作。インターネット閲覧やメール送受信も可能
- オリヒメアイ: 視線入力で分身ロボットを操作し、社会参加を実現
早期からの準備の重要性
コミュニケーション手段は、使えなくなってから導入するのでは遅すぎます。発話が可能な段階から複数の手段を練習し、スムーズに移行できるよう準備しておくことが重要です。
言葉が話しにくくなっても、気持ちや考えを伝える方法はたくさんあります。
段階に応じたコミュニケーション手段
- 声が小さくなったら: 音声を大きくする機器を使います
- 話すのが難しくなったら: 透明文字盤で、目の動きで文字を伝えます
- 手が動かしにくくなったら: 意思伝達装置で、スイッチ操作や視線入力で会話できます
大切なこと
コミュニケーション手段は、使えなくなってからではなく、まだ話せるうちから練習を始めることが重要です。早めに準備することで、スムーズに移行できます。
ヒント
意思伝達装置は、障害者総合支援法の「日常生活用具」として給付を受けられます。自己負担は原則1割です。お住まいの市区町村の障害福祉窓口に相談してください。
ご家族への支援
ALSの介護は長期にわたり、介護者の身体的・精神的負担は非常に大きくなります。OTは本人だけでなく、家族への支援も重要な役割です。
介護技術の指導
- 移乗・体位変換: 介護者の腰痛を予防する身体の使い方
- 吸引手技: 看護師との連携による安全な吸引方法の指導
- 福祉用具の活用: リフト、スライディングボードなどの導入
介護負担の軽減
- レスパイトケアの利用推進: ショートステイ、訪問看護の活用
- 社会資源の情報提供: 難病医療費助成制度、介護保険、障害者総合支援法
- 介護者の心理的サポート: 患者会・家族会への紹介、心理カウンセリングへのつなぎ
ALS患者会の活用
日本ALS協会をはじめとする患者会は、情報共有と精神的サポートの場として重要です。同じ経験を持つ家族とのつながりは、孤立を防ぐ大きな力になります。
介護するご家族の方へ
ALSの介護は長期にわたり、大変な負担がかかります。ご自身のことも大切にしてください。
- 一人で抱え込まない: 訪問看護、ヘルパー、ショートステイなどの制度を積極的に使ってください
- 介護の仕方を教わる: 体の向きを変える方法、移動の補助など、プロに正しい方法を教わることで、腰痛などを防げます
- 仲間とつながる: 日本ALS協会の患者会・家族会で、同じ経験を持つ方と話すことで気持ちが楽になります
使える制度
- 難病医療費助成制度: 医療費の自己負担が軽減されます
- 介護保険: 40歳以上の方はALSで介護保険が使えます
- 障害者総合支援法: 福祉用具や意思伝達装置の給付が受けられます
「自分が倒れたら」と不安になることもあるでしょう。だからこそ、レスパイト(休息)サービスを遠慮なく使ってください。介護者が元気でいることが、ご本人にとっても一番の安心材料です。
ALSの作業療法は、進行する機能障害に対して常に「先手を打つ」姿勢が求められます。本人の意思を尊重しながら、各段階で最大限の活動参加を実現するため、多職種チームと緊密に連携した包括的な支援を提供していくことが重要です。
- Doi Y, et al. Prevalence and incidence of amyotrophic lateral sclerosis in Japan. J Epidemiol. 2014;24(6):494-499(2013年の指定難病データ。有病率9.9/10万、発症率2.2/10万、70歳代が最多、男女比約1.5)
- Phukan J, et al. The syndrome of cognitive impairment in amyotrophic lateral sclerosis: a population-based study. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2012;83(1):102-108(13.8%がFTDの基準を満たす)
ALSの方とご家族へのまとめ
- ALSは体が動きにくくなる病気ですが、感覚や頭の働きは保たれます
- 進行の段階に合わせて自助具・環境制御装置・コミュニケーション手段を導入します
- 「先手を打つ」準備が大切。まだ使えなくても、次の段階に備えて早めに計画しましょう
- コミュニケーション手段は話せるうちから練習を始めることが重要です
- ご家族の介護負担を軽減する制度やサービスがあります。一人で抱え込まず活用してください
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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