この記事のポイント
- 介護・看護を理由とする離職者は1年間で約10.6万人(総務省の調査による。うち約8万人が女性)
- 介護休業(93日・3回分割)、介護休暇(年5日・時間単位)など法律で守られた制度がある
- OTの視点で住環境を調整すれば、介護負担そのものを減らすことができる
「仕事を辞めるしかない」と思い込んでいませんか
家族の介護が必要になったとき、「仕事を辞めて介護に専念しなければ」と考える方は少なくありません。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』(総務省「就業構造基本調査」に基づく)によれば、家族の介護・看護を理由とした離職者数は令和3年10月〜令和4年9月の1年間で約10.6万人でした。そのうち女性が約8万人で、全体の75.3%を占めています。
注意したいのは、離職しても負担は減っていないという点です。厚生労働省の委託調査(平成24年度、離職者n=994)では、離職後に負担が「非常に増した」「増した」と答えた人が、経済面で74.9%、精神面で64.9%、肉体面で56.6%にのぼりました。同じ調査で、離職時に「仕事を続けたかった」と答えた人は男女とも5割強でした。
OTは、介護を受ける方の生活機能だけでなく、介護する側の生活全体を見渡し、仕事と介護を両立するための環境調整を提案できる専門家です。
家族の介護が必要になったとき、「仕事を辞めるしかない」と思い込んでいませんか。
介護や看護を理由に仕事を辞める人は、1年間で約10.6万人います(内閣府『令和7年版高齢社会白書』)。そのうち約8万人が女性です。
でも、仕事を辞めれば楽になるとは限りません。厚生労働省の調査(離職した994人が回答)では、辞めたあとに負担が「増した」と答えた人が経済面で74.9%、精神面で64.9%、肉体面で56.6%でした。そして辞めた人の5割強が、本当は「仕事を続けたかった」と答えています。
作業療法士(OT)は、介護を受ける方だけでなく、介護する側の生活全体を見渡して、仕事と介護を両立するための工夫を一緒に考えてくれる専門家です。作業療法士がどんな専門家なのかは作業療法とは何をするリハビリなのかで詳しく解説しています。
介護離職後のリスク
厚生労働省の委託調査(平成24年度「仕事と介護の両立に関する実態把握のための調査研究事業」、離職者994人)では、離職後に負担が「非常に増した」「増した」と答えた割合は精神面で64.9%、経済面で74.9%でした。仕事を辞めても介護の負担が減るとは限りません。「辞めない選択肢」をまず検討してください。なお同調査では、離職者のうち再就職していない人は24.5%で、離職前と同じく正社員で再就職した人も49.8%いました。再就職が不可能というわけではありませんが、辞める前に制度を使い切ることが先です。
法律で守られている ── 知っておきたい両立支援制度
介護休業制度
育児・介護休業法により、労働者は対象家族1人につき通算93日の介護休業を取得できます。2017年の法改正で3回まで分割取得が可能になり、介護の状況に応じた柔軟な活用ができるようになりました。
- 対象: 要介護状態にある対象家族を介護する労働者(雇用期間の条件あり)
- 期間: 通算93日まで、3回を上限に分割取得可能
- 給付: 雇用保険から介護休業給付金(休業開始時賃金日額の67%)が支給される
- 申請: 休業開始日の2週間前までに事業主に書面で申出
介護休業は「介護に専念する期間」ではなく、介護の体制を整えるための期間と位置づけることが重要です。この期間にケアマネジャーと相談し、介護保険サービスの利用計画を立てましょう。
法律により、家族の介護のために最大93日間の休業を取ることができます。3回まで分割できるので、介護の状況に合わせて使えます。
- 期間: 家族1人につき合計93日まで
- 分割: 3回に分けて取得できる
- お金: 休業中は介護休業給付金(給与の約67%)が支給される
- 手続き: 休業の2週間前までに会社に申し出る
大切なのは、この93日を「介護に専念する期間」ではなく、「介護の体制を整える期間」として使うことです。ケアマネジャーとの相談やサービス手配に充てましょう。
介護休暇
介護休暇は、要介護状態の家族の世話をするために取得できる休暇です。
- 対象家族1人の場合: 年5日
- 対象家族2人以上の場合: 年10日
- 時間単位での取得が可能(2021年法改正)
- 通院の付き添い、ケアマネジャーとの面談、介護サービスの手続きなどに活用できる
介護休暇は有給か無給かは会社の規定によりますが、取得を理由とした不利益な取り扱いは法律で禁止されています。
介護休暇は、通院の付き添いやケアマネジャーとの面談などに使える短期の休暇です。
- 家族1人の介護なら年5日、2人以上なら年10日
- 1時間単位で取得できるので、午前中だけ休んで午後は出勤ということも可能
- 取得を理由に会社から不利益な扱いを受けることは法律で禁止されている
その他の柔軟な働き方
介護休業・介護休暇以外にも、法律で定められた支援措置があります。
- 選択的措置義務: 事業主は、利用開始から3年以上の期間内で2回以上、短時間勤務・フレックスタイム・時差出勤・介護サービス費用の助成のいずれかを利用できる措置を講じる義務があります
- 所定外労働の免除: 残業の免除を、介護終了まで何回でも請求できます
- 時間外労働の制限: 時間外労働を1か月24時間・1年150時間を超えないよう請求できます(介護終了まで何回でも)
- 深夜業の制限: 午後10時から午前5時までの就業の制限を請求できます
- テレワーク: 令和6年(2024年)改正育児・介護休業法により、家族を介護する労働者がテレワークを選択できるようにすることが事業主の努力義務となりました(令和7年4月1日施行)
これらの制度は介護休業とは別に利用できます。会社の人事部や総務部に確認し、使える制度を整理しておきましょう。
2025年4月から事業主の義務が増えています
令和6年改正により、事業主には次の義務が加わりました。支援を「待つ」のではなく、制度上あなたに情報が届くようになっています。
- 労働者が家族の介護に直面した旨を申し出たときに、両立支援制度等について個別に周知し、利用の意向を確認すること
- 介護に直面する前の早い段階(40歳等)で両立支援制度等の情報を提供すること
- 研修や相談窓口の設置など、雇用環境を整備すること
あわせて、介護休暇について勤続6か月未満の労働者を労使協定で除外する仕組みは廃止されました。
休業・休暇以外にも、働き方を調整する制度があります。
- 短時間勤務など: 短時間勤務・フレックスタイム・時差出勤・介護費用の助成のうちいずれかを、3年以上の期間内で2回以上使えるよう会社が用意することになっています
- フレックスタイム: 出退勤の時間を柔軟に変えられる
- 残業の免除: 残業をしなくてよいように会社に申請できる
- テレワーク: 在宅勤務を選べるようにすることが、2025年4月から会社の努力義務になりました
これらは介護休業とは別に使える制度です。まずは会社の人事部に「介護に関する支援制度」を確認してみてください。
介護が必要になったら、できるだけ早く会社の人事部や上司に相談しましょう。「迷惑をかけたくない」と一人で抱え込むと、突然の離職につながりやすくなります。多くの企業が両立支援の制度を整えていますが、従業員が申し出なければ利用できません。
介護保険サービスを活用する
介護離職を防ぐうえで、介護保険サービスの活用は不可欠です。「自分がすべて介護しなければ」という思い込みを手放すことが、両立の第一歩になります。
仕事と介護の両立に特に有効なサービスを整理します。
- デイサービス(通所介護): 日中に施設で入浴・食事・リハビリなどを受けられる。仕事中の時間帯をカバーできる
- ショートステイ(短期入所): 数日〜2週間程度、施設に宿泊できる。出張や繁忙期に活用
- 訪問介護(ホームヘルプ): ヘルパーが自宅を訪問し、食事・入浴・排泄などの介助や、調理・掃除などの生活援助を行う
- 訪問リハビリテーション: OTや理学療法士が自宅を訪問し、生活動作の訓練や環境調整を行う
これらのサービスを組み合わせることで、仕事の時間帯に介護の空白をつくらない体制を構築できます。
「自分がすべてやらなきゃ」と思い込む必要はありません。介護保険サービスを上手に使えば、仕事をしながらでも介護は成り立ちます。
- デイサービス: 日中に施設で過ごしてもらえるので、仕事中の時間帯をカバーできる
- ショートステイ: 数日〜2週間、施設に泊まれるサービス。出張や繁忙期に便利
- 訪問介護: ヘルパーさんが自宅に来てくれるサービス。食事や入浴の介助、掃除や調理も
- 訪問リハビリ: OTなどが自宅に来て、生活動作の練習や家の環境調整を行ってくれる
これらを組み合わせれば、仕事の時間帯に介護の空白をつくらない体制がつくれます。介護者自身が意識的に休息を取る方法についてはレスパイトケアの種類と使い方で詳しく解説しています。
OTの視点 ── 環境調整で介護負担を減らす
介護離職の背景には、「介護に時間がかかりすぎて仕事との両立ができない」という問題があります。OTは介護そのものの負担を軽減する環境調整のプロフェッショナルです。
住宅改修で介護時間を短縮する
介護保険を利用した住宅改修(上限20万円、自己負担1〜3割)で、以下のような調整が可能です。
- 手すりの設置: トイレ・浴室・廊下に手すりをつけることで、移動の介助時間を削減
- 段差の解消: 室内の段差を解消し、転倒リスクと見守りの負担を軽減
- 引き戸への変更: 開き戸を引き戸に変えることで、車いすでも自立した移動が可能に
- 床材の変更: 滑りにくい床材にすることで転倒を予防
福祉用具で「一人でできる」を増やす
福祉用具のレンタル・購入も介護保険の対象です。
- ポータブルトイレ: 夜間のトイレ介助の負担を大幅に軽減
- 入浴補助具: シャワーチェア、浴槽内いす、すのこなどで入浴の安全性を確保
- 歩行器・杖: 適切な歩行補助具の選定で、移動の自立度を向上
- 介護用ベッド: 起き上がりや立ち上がりが楽になり、介助量が減る
OTが適切な福祉用具を選定し、使い方を指導することで、介護を受ける方の自立度が上がり、介護者の負担が減るという好循環が生まれます。
介護に時間がかかりすぎて仕事と両立できないと感じていませんか。OTは家の環境を整えることで、介護の手間そのものを減らす専門家です。
家の改修で介護が楽になる
介護保険を使った住宅改修(上限20万円、自己負担は1〜3割)で、こんなことができます。
- 手すりの設置: トイレやお風呂に手すりをつけると、一人で移動できるようになることも
- 段差の解消: つまずきや転倒のリスクを減らせる
- 引き戸への変更: 車いすでも自分で出入りしやすくなる
福祉用具で「一人でできる」が増える
福祉用具を上手に使えば、ご本人が自分でできることが増え、介護者の負担が減ります。
- ポータブルトイレ: 夜中のトイレ介助が減る
- シャワーチェア: お風呂が安全になる
- 介護用ベッド: 起き上がりが楽になり、介助の手間が減る
「仕事があるので、介護に使える時間が限られている」とケアマネジャーに正直に伝えてください。仕事のスケジュールに合わせたサービスの組み合わせを一緒に考えてくれます。遠慮せず、あなたの生活状況を伝えることが最適なプランづくりの第一歩です。
「辞めない選択」のためのチェックリスト
介護離職を検討する前に、以下の項目を確認してください。
- 会社の介護休業・介護休暇制度の内容を人事部に確認したか
- 短時間勤務やフレックスタイム、テレワークの利用可能性を確認したか
- 地域包括支援センターまたはケアマネジャーに相談したか
- 介護保険の申請(要介護認定)を行ったか
- デイサービスやショートステイなどのサービスを検討したか
- OTなどの専門家に住環境の調整を相談したか
- きょうだいや親族と介護の分担について話し合ったか
- 経済面のシミュレーション(離職した場合の収入減)を行ったか
「辞めるしかない」と決める前に、次のことを確認してみてください。
- 会社の介護支援制度(休業・休暇・短時間勤務など)を人事部に聞いたか
- 地域包括支援センターに相談したか
- 介護保険の申請をしたか
- デイサービスやショートステイなどを検討したか
- 家族や親族と介護の分担について話し合ったか
- 退職した場合の収入について計算してみたか
すべてを試してからでも、退職の判断は遅くありません。一つずつ確認していきましょう。親と離れて暮らしながら介護と仕事を両立する方法は遠距離介護のコツと使える制度で紹介しています。
相談窓口一覧
困ったときは、一人で悩まずに相談してください。
| 相談先 | 内容 |
|---|---|
| 地域包括支援センター | 高齢者の暮らし全般の相談窓口。各市区町村に設置 |
| 介護支援専門員(ケアマネジャー) | 介護保険サービスの計画作成と調整 |
| 会社の人事部・総務部 | 介護休業・介護休暇など社内制度の確認 |
| ハローワーク | 介護休業給付金の手続き |
| よりそいホットライン | 0120-279-338(24時間無料。福島県からかける場合は 0120-279-226) |
介護離職は、介護を受ける方にとっても、介護する側にとっても、長期的にはマイナスの影響が大きいことがわかっています。仕事を続けることは、介護者自身の生活を守り、結果として介護の質を維持することにもつながります。
OTは、介護を受ける方の自立支援と環境調整を通じて、介護者の負担を減らし、仕事と介護の両立を支援します。「辞めるしかない」と思ったとき、まずは専門家に相談してみてください。
介護と仕事の両立 ― 大切なポイントのまとめ
- 介護離職は経済的・精神的リスクが大きい。「辞めない選択肢」をまず検討しましょう
- 介護休業(93日・3回分割)、介護休暇(年5日・時間単位)など法律で守られた制度があります
- デイサービスやショートステイを活用すれば、仕事中の介護の空白をカバーできます
- OTによる住環境の調整や福祉用具の活用で、介護の負担そのものを減らせます
- 地域包括支援センター、ケアマネジャー、会社の人事部に早めに相談してください
- 内閣府「令和7年版 高齢社会白書」第1章第2節2 健康・福祉(介護・看護を理由とした離職者数 約10.6万人、うち女性75.3%。総務省「就業構造基本調査」に基づく)
- 厚生労働省委託「平成24年度 仕事と介護の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」概要版(離職後に負担が増したと回答:精神面64.9%/肉体面56.6%/経済面74.9%、n=994)
- 厚生労働省「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律の概要」(令和6年改正。介護休業93日・3回分割、介護休暇年5日/10日・時間単位、選択的措置義務、テレワーク努力義務)
- 厚生労働省「育児・介護休業法について」(改正法の全文・指針・通達)
- ハローワークインターネットサービス「雇用継続給付:介護休業給付」(支給額は休業開始時賃金日額×支給日数×67%)
- 厚生労働省「介護サービス情報公表システム 介護保険の解説:サービスにかかる利用料」(住宅改修・福祉用具の自己負担)
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この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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