この記事のポイント
- 成年後見制度は、判断能力が不十分な方の財産管理や契約行為を法的に守る制度です
- 法定後見には後見・保佐・補助の3類型があり、本人の判断能力に応じて家庭裁判所が決定します
- 任意後見制度を使えば、判断能力があるうちに自分で後見人を選んでおくことができます
- 申立てから後見開始までおおむね2〜4か月かかるため、早めの準備が大切です
- 作業療法士は生活能力の評価や意思決定支援を通じて、制度活用を裏側からサポートします
はじめに──認知症が進むと「契約」や「お金」の問題が出てくる
認知症の症状が進むと、ご本人が日常生活で困る場面が増えていきます。食事や着替えといった身の回りのことだけでなく、お金の管理や契約に関わる問題が深刻になることも少なくありません。
たとえば、以下のようなケースがあります。
- 同じ商品を何度も購入してしまい、高額な請求が届く
- 訪問販売や電話勧誘で不要な契約を結んでしまう
- 預貯金の引き出しや振り込みが自分でできなくなる
- 介護サービスの契約を結ぶ必要があるのに、本人の判断能力が不十分で手続きが進まない
こうした場面で、ご本人の権利と財産を守るために用意されているのが「成年後見制度」です。この記事では、制度の仕組み、申立ての流れ、費用の目安、そして作業療法士の視点からの活用ポイントをわかりやすく解説します。なお、こうした手続きと仕事の両立に悩んでいる方は、介護離職を防ぐための制度と工夫も参考にしてください。
認知症が進むと、お金の管理や契約に関わる困りごとが増えてきます。
- 同じものを何度も買ってしまう
- 訪問販売で不要なものを契約してしまう
- 預金の引き出しや手続きがひとりでできなくなる
- 介護サービスの契約をしたいのに、ご本人の判断能力が不足していて進められない
こうした場面でご本人の権利と財産を法的に守るのが「成年後見制度」です。この記事では、制度の基本と手続きの流れをやさしく解説します。認知症のご本人への日々のかかわり方については、認知症の家族への接し方の工夫もあわせてご覧ください。
成年後見制度とは
成年後見制度とは、認知症・知的障害・精神障害などによって判断能力が不十分な方を、法律面と生活面で保護し支援する制度です。2000年(平成12年)の民法改正により、従来の「禁治産・準禁治産制度」に代わって導入されました。
制度の目的は大きく2つあります。
財産管理の支援
預貯金の管理、不動産の売却、保険の手続きなど、本人に代わって財産に関する法律行為を行います
身上監護の支援
介護サービスの契約、施設への入所手続き、医療に関する契約など、生活に必要な法律行為を支援します
成年後見制度は大きく「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つに分かれます。
成年後見制度は、認知症や障害などで判断能力が不十分になった方を法的に守る制度です。
主に2つのことを支援します。
財産管理:預貯金の管理、不動産の手続き、保険の管理など
生活の契約:介護サービスの契約、施設入所の手続きなど
制度は「法定後見」(判断力が低下した後に裁判所が後見人を選ぶ)と「任意後見」(元気なうちに自分で後見人を決めておく)の2種類があります。
法定後見の3類型──後見・保佐・補助の違い
法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて3つの類型に分かれています。家庭裁判所が本人の状態を審理した上で、いずれの類型に該当するかを決定します。
| 項目 | 後見 | 保佐 | 補助 |
|---|---|---|---|
| 対象となる方 | 判断能力が欠けているのが通常の方 | 判断能力が著しく不十分な方 | 判断能力が不十分な方 |
| 認知症の程度(目安) | 重度 | 中等度 | 軽度 |
| 支援する人の名称 | 成年後見人 | 保佐人 | 補助人 |
| 代理権 | 財産に関するすべての法律行為 | 申立ての範囲内で家庭裁判所が定める | 申立ての範囲内で家庭裁判所が定める |
| 同意権・取消権 | 日用品の購入以外のすべての法律行為 | 民法13条1項に定める重要な行為 | 申立ての範囲内で家庭裁判所が定める |
| 本人の同意 | 不要 | 不要(代理権付与には必要) | 必要 |
3類型の使い分けのポイント
迷ったときは、まず地域包括支援センターや家庭裁判所に相談しましょう。医師の診断書をもとに家庭裁判所が最終的に判断するため、ご家族が類型を決める必要はありません。
後見・保佐・補助の違いは?
ご本人の判断能力の程度に応じて、3つの段階に分かれます。
後見:判断能力がほとんどない重度の方が対象。後見人がほぼすべての契約を代行します。
保佐:判断能力が大きく低下した中等度の方が対象。重要な契約には保佐人の同意が必要です。
補助:判断能力がやや不十分な軽度の方が対象。特定の行為のみ補助人が支援します。
どの類型になるかは、医師の診断書をもとに家庭裁判所が決めます。ご家族が判断する必要はありませんので安心してください。
任意後見制度との違い
法定後見制度は判断能力が低下した「後」に家庭裁判所が後見人を選ぶのに対して、任意後見制度は判断能力が十分ある「うちに」本人が自ら後見人を選んでおく制度です。
| 項目 | 法定後見 | 任意後見 |
|---|---|---|
| 利用するタイミング | 判断能力が低下した後 | 判断能力があるうちに契約 |
| 後見人の選び方 | 家庭裁判所が選任 | 本人が信頼できる人を選ぶ |
| 契約の方法 | 家庭裁判所への申立て | 公正証書で任意後見契約を締結 |
| 効力の発生 | 審判の確定時 | 判断能力が低下し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時 |
| 取消権 | あり | なし |
「将来、自分の判断力が衰えたとき、誰にどんなことを頼みたいか」を元気なうちに決めておけるのが任意後見制度の最大のメリットです。
認知症の診断を受けた初期段階であれば、まだ任意後見契約を結べる場合があります。「うちの親はまだ大丈夫」と思っているうちこそ、任意後見を検討する良いタイミングです。
「任意後見」とは?
任意後見は、ご本人の判断力がしっかりしているうちに、将来の後見人を自分で決めておく制度です。公証役場で契約書を作成します。
認知症の初期段階であれば、まだ任意後見の契約が可能な場合があります。「まだ大丈夫」と思えるうちが、検討するよいタイミングです。
申立ての流れ
法定後見制度を利用するには、家庭裁判所への申立てが必要です。おおまかな流れは以下の通りです。
相談・情報収集
- 1地域包括支援センターや家庭裁判所に相談する
- 2本人の状況を整理する(判断能力の程度、財産状況、生活上の困りごと)
書類の準備
- 3申立書を作成する
- 4医師の診断書を取得する(家庭裁判所所定の書式)
- 5本人の財産目録・収支状況報告書を作成する
- 6戸籍謄本・住民票などの必要書類をそろえる
家庭裁判所に申立て
- 7本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立書を提出する
- 8申立て手数料(収入印紙)を納める
審理
- 9家庭裁判所の調査官が本人・申立人・後見人候補者から事情を聴取する
- 10必要に応じて本人の判断能力について鑑定が行われる(省略される場合もあり)
審判
- 11家庭裁判所が後見等の開始を決定する
- 12成年後見人(保佐人・補助人)を選任する
- 13審判書が届き、不服がなければ2週間で確定
後見の開始
- 14法務局に後見の登記がされる
- 15後見人が財産の調査・管理を開始する
- 16家庭裁判所に定期的に報告する義務が発生する
申立てにかかる期間
申立てから審判まで、おおむね2〜4か月が目安です。ただし、鑑定が必要な場合はさらに時間がかかることがあります。緊急性がある場合は、家庭裁判所に相談することで迅速に対応してもらえる場合もあります。
申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、市区町村長などです。身寄りのない方については、市区町村長が申立てを行う「市長申立て」の仕組みもあります。
手続きの流れは?
1. 相談する:地域包括支援センターや家庭裁判所に相談します。
2. 書類を準備する:医師の診断書、財産目録、申立書などを揃えます。
3. 家庭裁判所に申立てる:ご本人の住所地の家庭裁判所に書類を提出します。ご本人、配偶者、四親等内の親族が申立てできます。
4. 審理を受ける:裁判所の調査官が事情を聞き取ります。
5. 後見人が決まる:家庭裁判所が後見人を選任し、後見が開始されます。
申立てから開始まで2〜4か月かかります。困りごとが出てきたら、早めに相談を始めることをおすすめします。
費用の目安
成年後見制度を利用する際にかかる費用は、大きく「申立て時の費用」と「後見人への報酬」に分かれます。
| 費用項目 | 金額の目安 |
|---|---|
| 申立て手数料(収入印紙) | 800円〜 |
| 登記手数料(収入印紙) | 2,600円 |
| 郵便切手 | 3,000〜5,000円程度 |
| 医師の診断書 | 5,000〜10,000円程度 |
| 鑑定費用(必要な場合) | 50,000〜100,000円程度 |
| 司法書士・弁護士への依頼費用(任意) | 100,000〜200,000円程度 |
後見人への報酬は、家庭裁判所が本人の財産額や後見事務の内容に応じて決定します。親族が後見人になった場合は月額2〜6万円、専門職(弁護士・司法書士・社会福祉士)が後見人の場合は月額2〜6万円程度が一般的な目安です。
費用が払えない場合
経済的に余裕がない方には、法テラス(日本司法支援センター)の立替制度や、市区町村の成年後見制度利用支援事業による助成を受けられる場合があります。まずはお住まいの市区町村窓口に相談してみましょう。
費用はどのくらいかかるの?
申立て時にかかる費用は、数千円〜数万円程度(診断書代含む)です。専門家に手続きを依頼する場合は10〜20万円程度が追加されます。
後見人への報酬は月額2〜6万円程度が目安で、後見が続く限り発生します。
経済的に難しい場合は、法テラスの立替制度や市区町村の助成が使える場合があります。
制度の課題と注意点
成年後見制度は大切な制度ですが、いくつかの課題も指摘されています。制度を利用する前に知っておきたいポイントをまとめます。
本人の意思尊重と自己決定
成年後見制度は本人を「守る」ための制度ですが、一方で本人の行動や契約が制限される側面もあります。特に後見類型では、日用品の購入以外のすべての法律行為に取消権が及ぶため、本人の自由度が大きく制限されます。
2024年の民法改正の議論でも、「本人の意思を最大限尊重する」方向性が強く打ち出されています。後見人には、本人の意思や希望をできる限り確認し、それを尊重した上で支援を行うことが求められています。
報酬の継続的な負担
後見人への報酬は、後見が続く限り毎月発生します。認知症の場合、後見期間が10年以上に及ぶこともあり、累計すると大きな金額になる可能性があります。親族が後見人を務めることで報酬を抑えることもできますが、事務の負担は軽くありません。
一度始めると原則やめられない
法定後見は、本人の判断能力が回復しない限り、原則として終了しません。「とりあえず始めてみよう」という軽い気持ちで申立てるのではなく、他の方法(日常生活自立支援事業、家族信託など)も含めて比較検討することが大切です。
後見制度以外の選択肢も検討を
社会福祉協議会が行う「日常生活自立支援事業」は、後見制度ほど本人の自由を制限せずに、預貯金の管理や福祉サービスの利用手続きを支援してくれます。判断能力の低下が軽度な段階では、こちらのほうが適している場合もあります。
気をつけたいポイントは?
一度始めると原則やめられない:後見が開始されると、ご本人の判断能力が回復しない限り続きます。慎重に検討しましょう。
費用が継続的にかかる:後見人への報酬は毎月発生します。長期間になると大きな金額になります。
ご本人の自由が制限される面がある:特に「後見」類型では、日用品以外の買い物に制限がかかります。
他の選択肢もある:社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業」は、後見制度ほど制限がなく、預貯金の管理などを手伝ってくれます。判断能力の低下が軽い段階では、こちらが適していることもあります。
作業療法士の視点──生活能力の評価と意思決定支援
作業療法士は成年後見人になるわけではありませんが、制度の利用を検討する場面で重要な役割を果たすことがあります。
生活能力の評価
作業療法士は、日常生活の場面で「この方が実際にどこまでできるのか」を専門的に評価します。
- 金銭管理能力:おつりの計算ができるか、ATMの操作ができるか、家計の収支を理解しているか
- 契約理解能力:書類の内容を理解できるか、署名の意味がわかるか
- 判断能力:複数の選択肢からメリット・デメリットを比較して選べるか
- 日常の意思決定:食事のメニューを選ぶ、買い物で商品を比較するなどの場面での判断力
こうした評価結果は、医師が診断書を作成する際の参考情報になりますし、家庭裁判所の審理でも生活実態を伝える資料として活用されることがあります。
意思決定支援
作業療法では、「本人が自分で決められることを最大限支える」という考え方を大切にしています。
たとえば、認知症の方であっても、日々の作業活動の中では自分の好みや希望を表現できることが多くあります。「何を食べたいか」「どこに行きたいか」「誰と過ごしたいか」──こうした小さな意思決定の積み重ねが、本人らしい生活の土台になります。
作業療法士が日々の関わりの中で把握した本人の価値観や生活習慣は、後見人が「本人の意思を尊重した支援」を行うための大切な情報になります。
多職種連携での役割
成年後見制度に関わる場面では、医師・弁護士・司法書士・社会福祉士・ケアマネジャーなど、多くの専門職が関わります。作業療法士は、その中で「生活の専門家」として以下のような情報を提供します。
- 本人の日常生活の自立度と、具体的にどのような支援が必要か
- 生活環境が本人の能力発揮にどう影響しているか
- 本人が表現している意思や好み、価値観
作業療法士はどう関わるの?
作業療法士は後見人にはなりませんが、ご本人の生活能力を専門的に評価することで制度の利用を裏からサポートします。
「お金の管理がどこまでできるか」「契約書の内容を理解できるか」といった評価は、医師の診断書作成にも役立ちます。
また、認知症があってもご本人の意思を大切にするのが作業療法の考え方です。日々のかかわりの中で見えてくるご本人の好みや価値観は、後見人が支援を行う上で大切な情報になります。
まとめ
- 成年後見制度は、判断能力が不十分な方の権利と財産を守る法的な仕組みです
- 法定後見には後見・保佐・補助の3類型があり、判断能力の程度に応じて家庭裁判所が決定します
- 任意後見制度を使えば、元気なうちに自分で信頼できる後見人を選んでおくことができます
- 申立てから開始まで2〜4か月が目安。早めの相談・準備が大切です
- 報酬負担や自由の制限といった課題も理解した上で、他の選択肢(日常生活自立支援事業・家族信託など)と比較検討しましょう
- 作業療法士は生活能力の評価と意思決定支援を通じて、ご本人の「できること」と「望んでいること」を多職種チームに伝える役割を担います
認知症の進行に備えて制度を知っておくことは、ご本人だけでなく家族の安心にもつながります。「まだ早い」と思うくらいのタイミングで、まずは地域包括支援センターや家庭裁判所の窓口に相談してみてください。
- 成年後見制度は、認知症などで判断能力が低下した方の権利と財産を守る制度です
- どの類型になるかは家庭裁判所が判断します。ご家族が決める必要はありません
- 任意後見は「まだ大丈夫」なうちに準備しておくのがポイントです
- 一度始めると原則やめられないので、他の選択肢と比較して慎重に検討しましょう
- 迷ったら地域包括支援センターにまず相談してください
離れて暮らす親御さんのお金や生活の様子が心配な方は、一人暮らしの親の「見守り」の仕組みづくりもあわせてご覧ください。
- 地域包括支援センターに「成年後見について相談したい」と電話してみましょう:無料で相談でき、地域の支援機関も紹介してもらえます
- ご家族で「もしも」の話をしておきましょう:まだ判断力があるうちに、将来のお金の管理や希望する暮らしについて話し合っておくと安心です
- 「日常生活自立支援事業」も調べてみましょう:社会福祉協議会が行うこの事業は、後見制度よりも手軽に預貯金管理のサポートを受けられます
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
運営者プロフィールを見る →