この記事のポイント
- 透析は「週3回の治療」ではなく「生活の一部」として捉えると、暮らし全体の見通しが立ちやすくなります
- シャントを守る日常動作の工夫と、活動のペース配分が大切です
- 透析をしながら仕事を続ける方も増えており、さまざまな支援制度があります
透析治療と暮らし
日本の透析患者数は約34万人(2024年末で337,414人)にのぼります。血液透析を受ける多くの方は、週3回・1回あたり4〜5時間の治療を医療機関で受けています。この時間的制約は、仕事・家事・趣味・社会参加などの日常生活全般に影響します。
OTは、透析患者の時間管理・活動のペース配分・生活リズムの再構築を支援する専門家です。透析を「生活を圧迫するもの」ではなく「生活の一部」として組み込むことで、QOLの維持・向上を図ります。
日本では約34万人(2024年末)の方が透析治療を受けています。多くの場合、週3回、1回4〜5時間を病院で過ごすことになります。
「透析の日は何もできない」と感じている方もいるかもしれません。しかし、時間の使い方を工夫することで、透析がある日もない日も自分らしく過ごすことは可能です。
作業療法士(OT)は、透析と暮らしを上手に両立するための工夫を一緒に考えてくれます。
透析スケジュールと生活設計
1週間の生活リズムをデザインする
透析患者の生活設計では、透析日と非透析日の活動バランスを考えることが重要です。
- 透析日: 治療+移動で6〜8時間。治療後は疲労感が強いことが多い
- 非透析日: 体調が比較的安定しており、活動に充てやすい
- 透析後の疲労には個人差があり、「透析後は休む日」「翌日から動く」など自分のパターンを把握する
OTは患者さんと一緒に1週間の活動スケジュールを作成し、やりたい活動をどの日に配置するかを検討します。
透析中の時間の活用
透析中の4〜5時間は拘束される時間ですが、有意義に過ごす工夫ができます。
- 読書、音楽鑑賞、動画視聴
- 片手でできる手芸や趣味活動
- 資格の勉強やオンライン学習
- 瞑想やリラクセーション
ただし、穿刺側の腕は動かせない制約があるため、活動の選択にはOTの助言が有用です。
1週間のスケジュールを「見える化」する
透析がある日とない日で、できることが変わるのは自然なことです。
- 透析の日: 治療と移動で6〜8時間。帰宅後はゆっくり休む
- 透析がない日: 体調がいいことが多いので、やりたいことはこの日に
- 自分なりの「透析後の回復パターン」を知っておくと計画が立てやすい
透析中の4〜5時間は「何もできない時間」ではありません。片手は自由に使えるので、読書、音楽、動画、ゲーム、勉強など、楽しめることはたくさんあります。「透析の時間=自分だけの趣味の時間」と捉えると、気持ちが楽になる方もいます。
シャントを守る日常動作
シャント(内シャント)は透析患者の「命綱」であり、日常生活における保護が不可欠です。
シャント管理の基本
- シャント側の腕で重い物を持たない(目安: 3kg以上)
- シャント側で血圧測定・採血をしない
- シャント側の腕を体の下にして寝ない
- きつい腕時計やブレスレットは避ける
- 毎日シャント音(スリル)を確認する習慣をつける
日常動作の工夫
- 買い物袋は非シャント側で持つか、リュックを使用する
- 料理で重い鍋を持つときは両手を使う
- 入浴時はシャント部を強くこすらない
- 転倒予防(シャント部の打撲は出血リスクが高い)
シャントは透析を行うための大切な血管です。日常生活の中でシャントを守ることがとても重要です。
シャントのある腕で気をつけること
- 重い物を持たない(3kg以上は避ける)
- 血圧を測らない、採血しない
- 寝るときに下にしない
- きつい腕時計やアクセサリーをしない
毎日の確認
シャントには「ザーザー」という音や振動があります。毎日触れて確認する習慣をつけましょう。音や振動が弱くなったり止まったりしたら、すぐに病院に連絡してください。
活動と運動の工夫
透析患者は筋力低下や倦怠感により活動量が減少しやすく、サルコペニア(筋肉量の減少)やフレイルのリスクが高まります。適度な運動は、透析効率の向上、心血管リスクの軽減、QOLの改善に寄与します。
推奨される運動
- ウォーキング: 非透析日に30分程度から
- 軽い筋力トレーニング: 自重を使ったスクワット、かかと上げなど
- 透析中の運動: エルゴメーター(自転車こぎ)を導入している施設もある
- ストレッチ: 特に下肢のこむら返り予防に有効
注意点
- 透析直後の激しい運動は避ける(血圧変動リスク)
- シャント側の上肢に過度な負荷をかけない
- 体重増加が大きい日(透析間の水分貯留)は控えめに
- 運動前後の血圧確認を習慣にする
透析を受けていると疲れやすく、つい家にこもりがちになります。しかし、適度な運動は体力の維持にとても大切です。
おすすめの運動
- ウォーキング: 透析がない日に30分程度
- 軽い筋トレ: イスに座ってのかかと上げ、立ち上がり運動
- ストレッチ: 脚のつり(こむら返り)予防に効果的
運動するときの注意
- 透析直後の激しい運動は避ける
- シャントのある腕に強い負荷をかけない
- 体調が悪いときは無理をしない
ご家族が「一緒に歩こう」と誘ってくれることが、ご本人の運動のきっかけになります。近所を10分歩くだけでも十分です。季節の変化を感じながら歩くことで、気分転換にもなります。
食事と水分管理
透析患者の食事管理は、カリウム・リン・塩分・水分の制限が基本です。OTは栄養士と連携し、食事制限の中でも楽しく食べる工夫を提案します。
- 調理の工夫: 野菜は茹でこぼしてカリウムを減らす、だしを活かして減塩する
- 外食の選び方: メニュー選びのポイント(麺類の汁は残す、漬物は避けるなど)
- 自助具: 握力低下がある場合の調理道具の工夫
透析を受けている方の食事には、塩分・カリウム・リン・水分に注意が必要です。ただし制限ばかりでは食事の楽しみがなくなってしまいます。
- 野菜は茹でこぼすとカリウムが減ります
- だしを活かすことで塩分を減らしても味が物足りなくなりにくい
- 外食では麺類の汁を残す、漬物を避けるなどの工夫を
食事について不安があれば、病院の栄養士さんに相談できます。
仕事との両立
透析患者の約3割が就労しているとされます。週3回の通院治療は就労に大きな制約を与えますが、職場の理解と制度の活用により、仕事を続けることは十分可能です。
就労継続のための工夫
- 夜間透析: 日中に仕事をし、夕方〜夜に透析を受ける
- 在宅透析(腹膜透析): 通院回数が減り、時間の自由度が高まる
- 職場との調整: 通院日の勤務時間短縮、テレワークの活用
- 障害者手帳の取得: 透析患者は身体障害者手帳1級に該当(税控除、交通費割引等)
利用できる制度
- 障害年金(透析導入で原則2級以上)
- 自立支援医療(医療費の自己負担軽減)
- 高額療養費制度(特定疾病療養受療証で月額1〜2万円に軽減)
- 障害者雇用枠での就労
OTは患者さんの職務内容を分析し、透析スケジュールと仕事の両立プランを一緒に作成します。
「透析を始めたら仕事を辞めなければならない」と思っていませんか? 実は透析を受けながら仕事を続けている方はたくさんいます。
仕事を続ける工夫
- 夜間透析: 仕事の後に透析を受けられる施設もあります
- テレワーク: 在宅勤務ができると通院日の負担が減ります
- 職場への相談: 通院日の勤務時間の調整ができないか相談してみましょう
使える制度
- 身体障害者手帳: 透析を受けている方は1級の手帳がもらえます。税金の控除や交通費の割引があります
- 障害年金: 生活を支える年金を受け取れる可能性があります
- 医療費の軽減: 特定疾病の認定で、月の医療費上限が1〜2万円になります
障害者手帳や障害年金は、申請しないともらえません。透析を始めたら早めに、病院のソーシャルワーカーさんに相談してみてください。利用できる制度を一通り教えてもらえます。
透析患者の支援において、OTは「透析以外の時間をどう過ごすか」に焦点を当てます。シャント管理の指導、活動のペース配分、就労支援、自助具の提案など、透析と暮らしの両立を多角的にサポートすることが、OTの役割です。
まとめ ── 透析がある暮らしでも自分らしく
- 透析は生活の一部。1週間のスケジュールを「見える化」すると過ごしやすくなります
- シャントは透析の命綱。日常動作の中で守る工夫を習慣にしましょう
- 適度な運動は体力維持に大切。透析がない日のウォーキングから始めてみてください
- 透析をしながら仕事を続けることは可能です。使える制度を調べてみましょう
- 困ったことがあれば主治医やソーシャルワーカー、作業療法士に相談してください
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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