この記事のポイント
- 在宅酸素療法(HOT)は「行動を制限するもの」ではなく、活動範囲を広げるための治療です
- 入浴・外出・旅行も工夫次第で安全に楽しめます
- 機器の正しい取り扱いと、日常動作の息切れを減らすコツを知ることが大切です
在宅酸素療法(HOT)とは
在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy: HOT)は、慢性呼吸不全の患者さんが自宅で酸素を吸入しながら生活する治療法です。日本では16万人を上回る方がHOTを利用していると推定されており(2017年の推計)、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、間質性肺炎、肺結核後遺症などが主な対象疾患です。
HOTの目的は、低酸素血症を改善し、生命予後の改善と生活の質(QOL)の向上を図ることにあります。酸素濃縮器や携帯用酸素ボンベを用いて、医師が処方した流量の酸素を吸入します。
OTは、HOT導入後の患者さんが日常生活を安全かつ効率的に送れるよう、動作指導・環境調整・活動の段階づけを行う専門家です。
在宅酸素療法(HOT)は、肺の病気などで血液中の酸素が不足しやすい方が、自宅で酸素を吸いながら生活する治療法です。日本では16万人を上回る方が利用していると推定されています(2017年の推計)。
「酸素をつけて生活する」と聞くと不安に感じるかもしれませんが、HOTは行動を制限するものではなく、むしろ活動範囲を広げるための治療です。
作業療法士(OT)は、酸素を使いながらの日常生活を安全に送るための工夫を一緒に考えてくれます。
HOTで使用する主な機器
酸素濃縮器(設置型)
室内の空気から酸素を濃縮して供給する装置です。電源が必要ですが、酸素の補充が不要で24時間連続使用が可能です。最近の機種は小型・静音化が進んでいます。
携帯用酸素ボンベ
外出時に使用する小型のボンベです。カートに載せて引いたり、ショルダーバッグに入れて持ち運びます。使用時間は流量により異なりますが、呼吸同調器を使うことで2〜3倍長持ちさせることができます。
液体酸素
設置型の親器から携帯用の子器に液体酸素を充填して使用します。ボンベより軽量で長時間使用できますが、定期的な補充が必要です。
HOTで使う機器は主に2種類あります。
- 酸素濃縮器(家に置く機械): 部屋の空気から酸素を濃くして届けてくれます。電源につないで使います
- 携帯用酸素ボンベ: 外出時に使う小さなボンベです。カートで引いたりバッグに入れて持ち運びます
最近の機器はとてもコンパクトで静かになっています。見た目が気になる方もいますが、使い慣れると「お守り」のような安心感があるとおっしゃる方も多いです。
日常生活の工夫 ── 息切れを減らす動作のコツ
HOT利用者の日常生活指導では、エネルギー保存技法(energy conservation)が基本となります。以下に主な生活場面ごとのポイントを示します。
入浴
入浴は全身の酸素消費量が増加する活動であり、最もSpO₂が低下しやすい場面の一つです。
- 入浴前に酸素流量を医師の指示に従って一時的に増量する(事前に主治医と相談)
- 脱衣所と浴室の温度差を減らす(ヒートショック予防)
- シャワーチェアを使用し、座って洗体する
- 洗髪時は腕を上げる時間を短くする(上肢挙上は呼吸補助筋の活動を妨げる)
- 湯船に浸かる場合は半身浴にし、長湯を避ける
- 入浴後はバスローブを活用し、体を拭く動作を省力化する
家事動作
- 口すぼめ呼吸を動作に合わせて行う(力を入れるときに吐く)
- 重い物を持つときは息を止めない(バルサルバ手技の回避)
- 掃除機がけはロボット掃除機の導入を検討する
- 調理は座って行う(キッチンチェアの活用)
- 動作を分割して休憩を挟む(ペーシング)
着替え
- 座った状態で着替える
- かぶりの服より前開きの服を選ぶ
- 靴下はソックスエイドを使用する
- 息切れが強い日は簡単な服装にする
酸素を使いながらの生活で一番大切なのは、息切れを減らす動作のコツを知ることです。
入浴の工夫
入浴は体力を使う活動なので、特に工夫が必要です。
- シャワーチェア(お風呂用の椅子)を使い、座って体を洗う
- 脱衣所と浴室の温度差をなくす
- 湯船に浸かるなら半身浴で短時間に
- 入浴後はバスローブを使うと、体を拭く手間が減ります
家事の工夫
- 力を入れるときに口をすぼめてゆっくり息を吐く(口すぼめ呼吸)
- 掃除はロボット掃除機に任せる
- 料理は椅子に座って行う
- 一度に全部やらず、休憩を挟みながら少しずつ
口をすぼめて(ろうそくを吹き消すように)ゆっくり息を吐く呼吸法です。息切れを感じたときにこの呼吸をすると楽になります。「吸う:吐く=1:2」のリズムを意識してみてください。家事や着替えなど、日常の動作に組み合わせて使うのがコツです。
外出を楽しむために
HOT導入後、外出を避けるようになる患者さんは少なくありません。しかし、外出は身体機能の維持、社会参加、精神的健康に重要です。OTは外出に関する以下のような支援を行います。
外出前の準備
- 携帯用ボンベの残量確認と予備の準備
- 外出先のバリアフリー情報の事前確認
- 休憩ポイントを計画に組み込む
- 天候(気温、湿度)を考慮した外出計画
移動の工夫
- 酸素カートはキャリーバッグ型にすると目立ちにくい
- 長距離はタクシーや公共交通機関を利用する
- 歩行ペースを落とす(急がない)
- 坂道や階段では一段ごとに口すぼめ呼吸を意識する
旅行
HOTを利用していても旅行は可能です。航空機の利用も、事前に航空会社に連絡すれば機内用酸素の手配ができます。
- 2週間前までに航空会社へ連絡(診断書が必要な場合あり)
- 宿泊先には酸素業者による機器の配送を手配できる
- 旅行計画書を作成し、主治医に確認してもらう
- 身体障害者手帳を持っている場合、交通費の割引制度が利用できる
「酸素をつけているから外出できない」と思っていませんか? 携帯用ボンベがあれば、買い物も散歩も旅行も楽しめます。
外出のポイント
- ボンベの残量を出発前に確認し、予備も用意する
- 休憩できる場所をあらかじめ調べておく
- 急がずゆっくりペースで歩く
- 最近はおしゃれな酸素カートもあり、見た目を気にせず外出できます
旅行も可能です
- 飛行機に乗るときは2週間前までに航空会社に連絡すれば、機内用の酸素を手配できます
- 宿泊先にも酸素機器を届けてもらえるサービスがあります
- 旅行の計画は主治医に相談しておくと安心です
最初は近所のコンビニやスーパーからスタートしてみてください。「10分だけ外に出てみよう」から始めるのがおすすめです。ご家族が一緒に歩いてくれるだけで、ご本人の安心感は大きく変わります。帰宅後の「楽しかったね」のひと言が、次の外出への意欲につながります。
機器の取り扱いと安全管理
火気に関する注意
酸素は支燃性(燃焼を助ける性質)があるため、火気の管理は最も重要な安全対策です。
- 酸素濃縮器やチューブの2m以内で火気を使用しない
- 喫煙は厳禁(本人だけでなく家族や来客も含む)
- ガスコンロの使用はIHクッキングヒーターへの変更を検討する
- 仏壇のろうそく・線香は電子式に替える
- 石油ストーブはエアコンやオイルヒーターに変更する
火災事故について
HOTに関連した火災事故は毎年報告されています。特に喫煙が原因の事故が多く、死亡例もあります。酸素使用中の喫煙は絶対にやめるよう、繰り返し指導が必要です。
日常のメンテナンス
- 加湿器の蒸留水は毎日交換する
- カニューレ(鼻のチューブ)は2週間ごとに交換
- 延長チューブはつまずかないよう壁沿いに配置する
- 停電対策として携帯用ボンベを常備する
火の元に注意してください
酸素には「火を大きくする性質」があるため、火気の管理がとても大切です。
- 酸素の機械やチューブの近くでたばこは絶対にNGです(ご家族も含めて)
- ガスコンロよりIHクッキングヒーターが安全です
- 仏壇のろうそくは電池式に替えましょう
- 石油ストーブは使わず、エアコンを使いましょう
喫煙は絶対にやめてください
酸素を使いながらの喫煙は、火災や重大な事故の原因になります。ご本人だけでなく、同居するご家族や来客の方も、酸素機器の近くでは喫煙しないでください。
毎日のお手入れ
- 加湿器の水は毎日新しくする
- 鼻のチューブ(カニューレ)は2週間ごとに交換
- 延長チューブは壁沿いに固定し、つまずかないようにする
- 停電に備えて携帯用ボンベを用意しておく
よくある質問(Q&A)
Q. 酸素をつけたまま寝ても大丈夫ですか?
はい、主治医の指示どおりの流量であれば、就寝中も酸素を使用して問題ありません。むしろ睡眠中は呼吸が浅くなりやすいため、夜間の酸素投与が重要な場合があります。チューブが体に巻きつかないよう、寝具やチューブの配置を工夫しましょう。
はい、大丈夫です。むしろ睡眠中は呼吸が浅くなりやすいので、寝ている間こそ酸素が大切な場合もあります。チューブが体に巻きつかないよう、寝る前に位置を確認してください。
Q. お風呂で酸素チューブは外すのですか?
カニューレを装着したまま入浴することが推奨されます。ただし、チューブが濡れると抵抗が増すため、シャワーが直接かからないよう工夫しましょう。浴室の外に酸素濃縮器を置き、ドアの隙間からチューブを通す方法が一般的です。入浴前に主治医から入浴時の酸素流量の指示を確認しておきましょう。
基本的にはつけたまま入浴します。チューブに直接シャワーがかからないよう注意してください。機械は浴室の外に置き、ドアの隙間からチューブを通します。入浴時の酸素の量については、主治医に確認しておくと安心です。
Q. 電気代はどのくらいかかりますか?
酸素濃縮器の電気代は月額おおよそ2,000〜4,000円程度です。機種や使用時間により異なります。なお、HOTの医療費には健康保険が適用され、自己負担額は1〜3割です。身体障害者手帳や高額療養費制度の利用で、さらに負担を軽減できる場合があります。
HOTは「行動を制限するもの」ではなく、低酸素状態を改善して活動範囲を広げるための治療です。OTは呼吸リハビリテーションの一員として、HOT利用者の日常生活全般を支援します。エネルギー保存技法の指導、環境調整、自助具の提案を通じて、患者さんが「やりたいこと」をあきらめずに済む方法を一緒に考えていきましょう。
まとめ ── 酸素を使いながらでも自分らしく
- HOTは活動を制限するものではなく、活動範囲を広げるための治療です
- 入浴はシャワーチェアを使い、座って行うのが安全です
- 外出や旅行も事前の準備をすれば十分に楽しめます
- 火気の管理(特に禁煙)は命に関わる最重要ポイントです
- 困ったことがあれば主治医や作業療法士に気軽に相談してください
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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