この記事のポイント
- 在宅ワークの疲労は「仕事量」だけでなく作業環境に大きく左右されます
- 椅子・デスク・モニター・照明・温度の5つを整えるだけで、体への負担は大幅に減ります
- 作業療法士は「環境調整」の専門家であり、自宅の限られたスペースでも改善できます
- オン・オフの切り替えを「儀式」として仕組み化することが、心の疲れの予防につながります
- マイクロブレイクと作業バランスの意識が、長期的な疲労の蓄積を防ぎます
はじめに──在宅ワークは「楽」ではない
コロナ禍を経て、在宅ワーク(テレワーク・リモートワーク)は多くの方にとって日常の働き方になりました。通勤時間がなくなり、自分のペースで仕事ができる一方で、「なぜかオフィスにいたときより疲れる」と感じている方は少なくありません。
日本労働組合総連合会(連合)が新型コロナ流行初期の2020年6月に行った「テレワークに関する調査2020」(同年4月以降にテレワークを行った18〜65歳の会社員等1,000名)では、テレワークのデメリットとして「勤務時間とそれ以外の時間の区別がつけづらい」(44.9%)が最も多く、「運動不足になる」(38.8%)が続きました。通常の勤務よりも長時間労働になることがあったと答えた人も51.5%にのぼります。自宅という本来リラックスする場所で働くことには、オフィスとは異なる環境面の課題が数多く隠れています。
作業療法士(OT)は、人が日常で行うあらゆる活動を「作業(occupation)」と捉え、その作業がうまくいくよう環境を整える専門家です。この記事では、在宅ワークの疲労の原因を分析し、作業療法の視点から自宅オフィスの整え方をお伝えします。作業療法という仕事そのものについては作業療法とは何かで詳しく解説しています。
在宅ワークは通勤がなくて楽に見えますが、「なぜかオフィスにいたときより疲れる」と感じている方は少なくありません。
その原因の多くは、自宅の作業環境にあります。作業療法士は環境調整の専門家です。この記事では、ご家族と一緒に見直せるポイントをお伝えします。
在宅ワークで疲れる3つの原因
在宅ワークの疲労は、主に3つの要因から生じます。
1. 作業環境の問題
オフィスでは、デスクの高さ、椅子の調整、照明、空調などが一定の基準で整えられています。しかし自宅では、ダイニングテーブルやソファ、ローテーブルなど仕事用に設計されていない家具を使っているケースが大半です。
適切でない環境で長時間作業を続けると、肩こり、腰痛、眼精疲労、頭痛などの身体症状が現れやすくなります。
2. 姿勢の崩れ
オフィスでは、無意識に周囲の目があることで姿勢が保たれやすい面がありますが、自宅では誰の目も気にしません。ソファに座ったまま、ベッドの上で、床に座って――楽な姿勢が必ずしも体に良い姿勢ではないのです。
特に、ノートパソコンのみで作業している場合、画面が低い位置にあるため自然と首が前に突き出し、いわゆる「ストレートネック」の原因となります。
3. オン・オフの境界の曖昧さ
オフィスに通勤する場合、「家を出る」「職場に着く」という物理的な移動がオンとオフの切り替えスイッチになっていました。在宅ワークではこのスイッチがなくなるため、「いつ仕事が始まり、いつ終わるのか」が曖昧になりがちです。
仕事と生活の空間が同じであることで、夜になっても仕事のことが頭から離れない、休日でもパソコンが目に入ると仕事モードになる、といった心理的な疲労が蓄積していきます。
作業療法では、この状態を「作業バランスの崩れ」と捉えます。仕事という「生産活動」が生活の他の領域(休息・余暇・セルフケア)を侵食している状態です。
なぜ在宅ワークは疲れるの?
1. 環境の問題:ダイニングテーブルやソファなど、仕事用でない家具で作業していると体に負担がかかります。
2. 姿勢の崩れ:自宅では人の目がないので、つい楽な(体に悪い)姿勢になりがちです。
3. オン・オフの境界が曖昧:通勤がないため、「いつ仕事が始まりいつ終わるか」がわからなくなり、心の疲れが蓄積します。テレワーク経験者への2020年の調査でも、デメリットの1位は「勤務時間とそれ以外の時間の区別がつけづらい」(44.9%)でした。
ワークスペースの環境調整──5つのポイント
作業療法の基本的な考え方に「環境調整」があります。人を変えるのではなく、環境を変えることで作業がうまくいくようにする発想です。在宅ワークでも、環境を整えるだけで疲労は大きく変わります。
ポイント1:椅子
在宅ワークの疲労の最大の原因は、椅子にあると言っても過言ではありません。
理想的な椅子の条件は以下の通りです。
- 足の裏が床にしっかりつく高さに調整できる
- 座面の奥行きが、膝裏に圧迫感がない長さである
- 背もたれが腰(腰椎の前弯)を自然にサポートする
- ひじ掛けがあり、肩の力を抜いた状態で腕を置ける
ダイニングチェアを使っている方は、クッションやタオルで調整するだけでも変わります。座面が硬い場合は低反発クッションを敷く、腰のサポートが足りない場合は丸めたバスタオルを腰の後ろに当てる、足が床に届かない場合は足元に台を置く――こうした小さな工夫が大きな差を生みます。
ポイント2:デスク
デスクの高さは、椅子に座って肘を90度に曲げたとき、手のひらがデスクの天板に自然に触れる高さが理想的です。
デスクが高すぎると肩が上がり、低すぎると前かがみになります。高さ調整ができないテーブルの場合は、椅子の高さで調整し、足元に台を置いて対応しましょう。
また、デスクの上は作業に必要なものだけを置くようにします。生活用品が視界に入ると注意が分散し、集中力が低下します。作業療法では、これを「環境の構造化」と呼びます。作業に必要な情報だけが目に入る環境をつくることで、認知的な負担を減らすのです。注意が散りやすい方への環境の工夫については注意障害のある方の暮らしを整える作業療法の視点で詳しく解説しています。
ポイント3:モニター(画面の位置)
ノートパソコンのみで作業している方は、外部モニターの導入を強くおすすめします。それが難しい場合は、ノートパソコンスタンドで画面の高さを上げ、外付けキーボードとマウスを使う方法もあります。
画面の位置の目安は以下の通りです。
- 画面の上端が目の高さと同じか、やや下にある
- 画面との距離は40〜70cm(腕を伸ばして画面に指先がちょうど届くくらい)
- 画面の角度はやや上向き(10〜20度)にして、首を下げずに見られるようにする
頭は体の中でも重い部位で、前に傾ければ傾けるほど、首や肩の筋肉が支えるべき負担は大きくなります。画面の位置を上げて首を下げずに見られるようにすることが、首と肩の疲労の軽減につながります。
ポイント4:照明
照明は見落とされがちですが、眼精疲労と集中力に大きく影響します。
- 自然光を活用する:デスクは窓の横に配置するのが理想的です。窓を正面にすると逆光でまぶしく、背面にすると画面に光が反射します
- 手元の明るさを確保する:部屋全体の照明だけでは手元が暗くなりがちです。デスクライトを併用しましょう
- 画面の輝度を調整する:周囲の明るさに合わせてディスプレイの輝度を変える習慣をつけましょう。暗い部屋で明るい画面を見続けると、目に大きな負担がかかります
ポイント5:温度と空気
自宅では自分で室温を管理する必要があります。
- 室温: 事務所衛生基準規則(第5条第3項)は、空気調和設備のある事務室について18℃以上28℃以下になるよう努めることを求めています。在宅でもこの範囲を目安にしましょう
- 湿度: 同じ規則で相対湿度40%以上70%以下が目安とされています。冬場はとくに乾燥しやすく、目の乾きや喉の不調につながります
- 換気を定期的に行いましょう。窓を開けて空気を入れ替えると、室内にこもった二酸化炭素やにおいが減り、気分の切り替えにもなります
環境を見直す5つのポイント
1. 椅子:ダイニングチェアでも、腰にタオルを当てる、足元に台を置くだけで改善します。
2. デスク:肘を90度に曲げたとき手がデスクに届く高さが理想。デスクの上は仕事に必要なものだけに。
3. モニター:ノートパソコンの画面は低すぎます。スタンドで上げるか、外付けモニターを導入しましょう。
4. 照明:窓の横にデスクを置き、手元にはデスクライトを。画面の明るさも周囲に合わせて調整を。
5. 温度と換気:事務所の基準では室温18〜28℃、湿度40〜70%が目安です。ときどき窓を開けて空気を入れ替えましょう。
オン・オフの切り替え術──「儀式」をつくる
作業療法では、日常の行動に意味のあるルーティン(儀式)を組み込むことで、心身の切り替えを促す手法を使います。在宅ワークでは、通勤という自然な切り替えがないからこそ、意識的に「儀式」をつくることが大切です。
仕事の始まりの儀式
- 着替える:パジャマのまま仕事を始めない。仕事用の服に着替える行為が、脳に「これから仕事モード」という信号を送ります
- ワークスペースに移動する:リビングとは別の場所に仕事用の空間がある場合は、そこに「出勤」します。別室がない場合でも、デスクの前に座ること自体を「出勤行為」と位置づけましょう
- 決まった準備をする:コーヒーを淹れる、デスクを拭く、今日のタスクを書き出す。この一連の動作がスイッチの役割を果たします
仕事の終わりの儀式
- パソコンを閉じる(またはシャットダウンする):スリープではなく、物理的に閉じることで「終了」を明確にします
- デスク周りを片付ける:仕事のものを視界から消すことで、生活空間への切り替えが進みます
- 着替える:仕事用の服からリラックスできる服に着替えます
- 短い散歩をする:10〜15分でも構いません。「帰宅の代わりの散歩」として外に出ることで、仕事と生活の区切りがつきます
空間の切り替え
別室が確保できない場合でも、「仕事ゾーン」と「生活ゾーン」を視覚的に区切る工夫ができます。
- パーテーションやカーテンで仕切る
- 仕事中だけデスクにマットを敷く
- 仕事用のデスクライトをつける/消すことでゾーンを切り替える
作業療法ではこれを「環境の手がかり(environmental cue)」と呼びます。環境に視覚的な手がかりを配置することで、脳が自然にモードを切り替えられるようになるのです。
オン・オフの切り替えを家族で支える
在宅ワークでは、仕事と生活の境界が曖昧になりがちです。ご家族として以下のことを意識してみてください。
仕事の始まりの儀式を応援する- 「着替えてから仕事を始める」「コーヒーを淹れてから始める」など、決まった準備をする習慣を一緒に作りましょう
- 「パソコンを閉じたら一緒に散歩に行く」「着替えたらご飯にしよう」など、終わりの合図を家族のイベントにすると切り替えがスムーズです
- 別室が無理でも、仕事が終わったらパソコンを視界から隠すだけでも効果があります
疲労予防の工夫──マイクロブレイクと作業バランス
マイクロブレイクとは
マイクロブレイクとは、1〜5分程度のごく短い休憩を、作業の合間にこまめに入れることです。長時間の連続作業は、集中力の低下だけでなく、筋骨格系の疲労や眼精疲労の蓄積にもつながります。
目安として、30分に1回は姿勢を変える、60分に1回は立ち上がることを意識しましょう。
マイクロブレイクでできること
短い休憩中に、以下のような動作を取り入れると効果的です。
- 目の休憩:窓の外の遠くの景色を20秒間見る(眼科領域で広く紹介されている「20-20-20ルール」──20分ごとに、20フィート(約6m)先を、20秒間見るという覚えやすい目安です)
- 首と肩のストレッチ:首をゆっくり左右に傾ける、肩を上げて脱力する
- 立ち上がって背伸びをする:両手を組んで天井に向かって伸びるだけでOKです
- 水を飲みに行く:水分補給と歩行を兼ねられます
- 深呼吸を3回する:4秒吸って、7秒止めて、8秒で吐く「4-7-8呼吸法」がおすすめです
ポイントは、「休憩する」と意識して休憩することです。スマートフォンを見たりSNSをチェックしたりするのは、目にも脳にも休憩になりません。
作業バランスを意識する
作業療法では、人の生活を「生産活動(仕事・家事)」「セルフケア(食事・入浴・身支度)」「余暇(趣味・楽しみ)」「休息(睡眠・リラックス)」の4つの領域で捉えます。
在宅ワークでは、仕事とプライベートの境界が曖昧になるため、「生産活動」が他の3つの領域を侵食しやすい構造にあります。
以下のセルフチェックで、今の作業バランスを確認してみましょう。
- 昼食をデスクで食べながら仕事をしていませんか?
- 始業前や終業後にもメールをチェックしていませんか?
- 1日の中に「仕事でも家事でもない、自分だけの時間」はありますか?
- 休日にも仕事のことが頭から離れないことはありませんか?
- 最近、趣味や楽しみの時間を取れていますか?
当てはまる項目が多いほど、作業バランスが崩れている可能性があります。「今日の仕事は○時まで」と決めて、その後は意識的に別の作業(余暇や休息)に切り替えることが大切です。
1日のタイムスケジュールを「設計」する
作業療法士は、対象者の生活を「設計」するという発想を持っています。在宅ワークでも、1日のスケジュールを意識的に設計することで、疲労の蓄積を防ぐことができます。
| 時間帯 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 始業前 | 着替え・朝食・軽い運動 | 仕事モードへの準備。散歩や体操を取り入れるとなお良い |
| 午前 | 集中作業 | 脳が最も活性化する時間帯。重要な仕事を入れる |
| 昼休み | 食事・休息 | デスクから離れて食事する。短い昼寝(15〜20分)も効果的 |
| 午後 | 会議・ルーチン作業 | 集中力が落ちやすい時間帯。対話的な業務を入れる |
| 終業後 | 散歩・着替え・趣味 | 「帰宅の儀式」を入れてモード切り替え |
| 夜 | リラックス・入浴・睡眠準備 | 画面を見る時間を減らし、休息モードへ移行する |
このように、作業の種類と強度を1日の中で意図的に配分することを、作業療法では「アクティビティ・ペーシング」と呼びます。がんばれるときに一気にやって疲れ果てるのではなく、適度なペースで続けられる配分を見つけることが、長期的な健康維持につながります。ペーシングの考え方は慢性疼痛に対する作業療法とペインマネジメントでも詳しく解説しています。
疲労を防ぐために家族でできること
休憩を促す声かけ:「30分経ったよ」「お茶飲まない?」と声をかけるだけで、座りっぱなしを防げます。
作業バランスのチェック:以下に当てはまる項目が多いと要注意です。
- 昼食をデスクで食べながら仕事をしている
- 終業後もメールをチェックしている
- 趣味や楽しみの時間が取れていない
「仕事は○時まで」を家族のルールにする:終業時間を決めて、その後は家族の時間にすることで、生活のバランスを保ちやすくなります。
まとめ
- 在宅ワークの疲労は「仕事の量」だけでなく、椅子・デスク・モニター・照明・温度といった環境要因に大きく左右されます
- ノートパソコンのみの作業は首と肩に大きな負担がかかるため、画面の高さを上げる工夫が最優先の環境調整です
- 通勤がない分、着替え・散歩・デスクの片付けといった「儀式」を意識的につくることで、オン・オフの切り替えが可能になります
- 30分に1回は姿勢を変え、60分に1回は立ち上がるマイクロブレイクの習慣が、疲労の蓄積を防ぎます
- 生活全体の作業バランス(生産活動・セルフケア・余暇・休息)を意識し、仕事が他の領域を侵食しない仕組みをつくることが大切です
在宅ワークの環境は、オフィスと違って誰かが整えてくれるものではありません。だからこそ、自分の体と生活に合った環境を、自分でデザインするという視点が必要です。作業療法士は「人と環境と作業の関係」を考える専門家です。もし疲労が慢性化している、体の不調が続いているという方は、お近くの作業療法士に相談してみてください。小さな環境の変化が、大きな疲労の軽減につながるかもしれません。
- 在宅ワークの疲れは環境を整えるだけで大きく改善できます
- 画面の高さを上げることが最優先の改善ポイントです
- 着替え・散歩など「儀式」でオン・オフを切り替えましょう
- 30分に1回の姿勢変更と休憩の声かけが効果的です
- 仕事の終了時間を決めて、生活のバランスを守りましょう
自宅の環境は、ご家族と一緒に見直すことで改善しやすくなります。小さな工夫が大きな変化を生みます。
- 在宅ワークの環境を一緒にチェックしましょう。椅子の高さ、モニターの位置、足元の状態を、ご家族の目で確認してあげると気づきが増えます
- 「帰宅の散歩」を家族の日課にしましょう。仕事が終わったら10分間の散歩に一緒に出かけると、仕事モードからの切り替えと家族のコミュニケーションの両方ができます
- 「○時以降はパソコンを閉じる」を家族のルールにしましょう。終業時間を家族が一緒に守ることで、仕事が生活を侵食するのを防げます
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
運営者プロフィールを見る →