この記事のポイント
- リンパ浮腫は完治が難しいですが、適切なケアで進行を抑え症状を軽くできます
- スキンケア・圧迫療法・用手的リンパドレナージ・圧迫下の運動療法が柱です
- 「採血や血圧測定がリンパ浮腫の原因になる」という科学的根拠はありません
- 腕や脚の太さを定期的に測ることが、早期発見の手がかりになります
リンパ浮腫とは
リンパ浮腫は、リンパ液の流れが滞ることで組織に余分な水分やタンパク質がたまり、むくみが生じる慢性疾患です。日本では主に、がん治療(乳がん・子宮がん・前立腺がんなど)でリンパ節を切除した後に発症する続発性リンパ浮腫が多くみられます。
国内の患者数について信頼できる全国推計は見当たらないため、この記事では数値を挙げません。ただし、リンパ節郭清を受けた方や放射線治療を受けた方に一定の割合で生じること、治療の直後だけでなく数年経ってから発症することもあることは、国立がん研究センターの解説でも示されています。
症状は進行に伴って、(軽度)腕や脚を高く上げるとむくみが戻る →(中等度)上げても戻らず、皮膚を押した凹みがはっきりする →(重度)関節が曲げづらくなり、皮膚が硬くなる、と変化します。一度発症すると完治は難しいとされますが、圧迫療法を柱としたケアにより、進行を抑え症状を軽くすることが可能です。
OTは、リンパ浮腫患者の日常生活における動作指導や自助具の提案、心理面のサポートを担います。
リンパ浮腫とは、リンパ液の流れが悪くなることで、腕や脚がむくむ状態です。がんの手術でリンパ節を取った後に起きることが多く、乳がんや子宮がんの治療後にみられることがあります。
完全に治すことは難しいですが、毎日のセルフケアでむくみをコントロールすることができます。「付き合っていく病気」という意識を持ち、適切なケアを続けることが大切です。
ケアの4本柱
リンパ浮腫の管理は、以下の4つを組み合わせて行います。このうちスキンケアと日常の圧迫着用は本人が担う部分が大きく、用手的リンパドレナージと圧迫下の運動療法は医師の指示のもとで組み立てる治療です。
1. スキンケア
リンパ浮腫が起こっている皮膚は傷つきやすく、傷ができると感染や炎症を起こしやすい状態です。とくに蜂窩織炎(ほうかしきえん)は、リンパ浮腫が起こったり悪化したりするきっかけにもなります。皮膚が赤くなって熱さや痛みを感じたときは、その部分を冷やしてなるべく動かさず、早めに医療機関を受診してください。
- 保湿: 毎日の保湿クリームで皮膚のバリア機能を守る
- 傷の予防: 虫刺され、日焼け、ひっかき傷を防ぐ
- 清潔: やさしく洗い、しっかり乾燥させる
- 爪の手入れ: 深爪を避け、清潔に保つ
2. 圧迫療法
リンパ浮腫管理の最も重要な柱です。
- 弾性着衣(弾性スリーブ・弾性ストッキング): 日中に着用し、リンパ液の逆流を防ぐ
- 弾性包帯: 集中的な排液期(治療期)に使用する多層包帯法
- 圧迫圧は医師やリンパ浮腫セラピストの指示に従う
- 弾性着衣は使用とともに弾力が低下するため定期的な交換が必要。交換時期は製品と使用状況で異なるので、処方した医師・セラピストに確認する
- リンパ節郭清後に医師の指示で購入した弾性着衣・弾性包帯は、療養費を申請することで費用の一部が払い戻される場合がある
3. 用手的リンパドレナージ
用手的リンパドレナージは、専門的な教育を受けた医療者が医師の指示を受けて行う医療的なマッサージであり、美容目的のリンパマッサージや一般のマッサージとは目的も手技も異なります。患者さん自身が行うセルフケアとして取り入れる場合は、必ず担当医やリンパ浮腫セラピストから直接指導を受けてから行うよう促してください。
- 皮膚に手のひらを密着させ、やさしくストレッチするように行う(強く揉むのは目的が異なる)
- 手技・部位・時間は個々の病態によって異なるため、指導された内容を守る
- 皮膚の発赤・熱感・痛みなど蜂窩織炎が疑われる状態では行わず、受診を優先する
- 市販のマッサージ機でリンパ浮腫の治療を行うことはできない
4. 運動療法
- 治療として行う圧迫下の運動療法(弾性着衣や弾性包帯で圧迫したうえで筋力トレーニング等を行う)が基本。圧迫の方法・強さ・運動の種類・時間は医師の指示による
- リンパ浮腫がある場合でも、筋力トレーニングや有酸素運動によってむくみが軽減することがわかってきている。ただし勧められる運動内容は浮腫の程度・がんの進行度・全身状態で異なる
- 予防面では、長時間のデスクワークでこまめに立ち上がる、首回し・肩回し・腹式呼吸を取り入れるなど、日常的に体を動かすことが役立つ
- 乳がん術後の漸増的レジスタンス運動は、リンパ浮腫の発症リスクを下げることがメタ分析で報告されている(11 RCT・1,450名、リスク比0.68)
リンパ浮腫のケアには4つの柱があります。ご自宅で続けられるものと、医療者の指導が必要なものがあります。
1. お肌のケア
むくんでいる腕や脚は感染症にかかりやすくなっています。
- 保湿クリームを毎日塗る
- 虫刺されや傷をできるだけ防ぐ
- 深爪に注意する
2. 圧迫する(弾性着衣)
弾性着衣は、むくみを抑えるための専用のサポーターのようなものです。
- 日中に着用し、リンパ液がたまるのを防ぎます
- サイズや圧迫の強さは医師の指示のもとで選んでもらうことが大切です
- 使っているうちに弾力が弱くなるので定期的に買い替えます。買い替えの目安は主治医やセラピストに確認しましょう
3. リンパドレナージ(専門的なマッサージ)
リンパ浮腫のマッサージは、専門の教育を受けた医療者が医師の指示を受けて行う医療的なもので、エステなどの「リンパマッサージ」とは別のものです。
- 自分で行う場合は、必ず先に医師やセラピストに教わってからにしてください
- 皮膚に手のひらを密着させ、やさしく伸ばすように行います(強く揉んではいけません)
- 皮膚が赤い・熱い・痛いときはマッサージをせず、早めに受診してください
- 市販のマッサージ機で治療することはできません
4. 運動
- 治療として行う運動は、弾性着衣や包帯で圧迫したうえで行います。やり方や強さは医師の指示に従ってください
- リンパ浮腫があっても、筋力トレーニングや有酸素運動でむくみが軽くなることがわかってきています
- 長く座り続けるときは、こまめに立ち上がったりストレッチしたりしましょう。首回し・肩回し・腹式呼吸も取り入れやすい方法です
リンパ節郭清を受けた後にリンパ浮腫が起こり、医師の指示で弾性着衣や弾性包帯を購入した場合は、「療養費」を申請することで購入費用の一部が払い戻されることがあります。支給の要件や上限額は加入している医療保険によって異なりますので、買う前に主治医と保険者(健康保険組合・協会けんぽ・市区町村など)に確認してください。
日常生活で気をつけること
上肢リンパ浮腫の場合
重要
「採血や血圧測定がリンパ浮腫の原因になる」という説明は広く流布していますが、国立がん研究センターは「採血や血圧測定がリンパ浮腫を起こす原因になるといった科学的根拠はありません」と明記しています。予防目的でこれらを一律に禁じる指導は、根拠を欠いたまま患者さんの不安と医療者の負担を増やします。ただし、すでにリンパ浮腫が起こっている腕での採血は控えるとされており、不安がある場合は事前に看護師へ相談するよう伝えてください。
- すでに浮腫のある腕での採血は控える。処置の前に事前相談を促す
- 重い荷物は健側で持つか、カートを使用する。腋窩リンパ節周囲を治療した側の腕を長時間締めつけない
- 台所仕事ではゴム手袋を着用し、火傷・切り傷を防ぐ
- 衣類・靴・指輪などは締めつけの強いものを避け、適度にゆとりのあるものを選ぶ
- 横になるときは、むくみのある腕を10〜15cm程度高くして休む
下肢リンパ浮腫の場合
- 長時間のデスクワークではこまめに立ち上がる・ストレッチする
- 靴下のゴムや靴など、締めつけの強いものを避ける
- 就寝時はクッション等で脚を10〜15cm程度高くする
- 足を組まない・正座を避けるといった工夫は、うっ滞や締めつけを避ける一般的な配慮として案内されることが多いものの、個別の効果を示した検証はありません。本人が続けやすい方法を一緒に選んでください
環境・季節への配慮
- 体重管理: 体重が増えるとリンパ浮腫が起こるリスクが高くなるとされており、これは公的な解説でも明示されている数少ない生活因子です
- 日焼け・虫刺され・やけどを避ける。野外作業時は長袖・手袋・防虫スプレー・日焼け止めで皮膚を保護する
- 暑さや飛行機搭乗を避けるようにという助言は臨床でよく行われますが、これらがリンパ浮腫を悪化させることを示す確かな根拠は確認できませんでした。本人の実感(暑い日に張りが強くなる等)を手がかりに個別に相談するのが現実的です
早期発見のための観察
- 腕や脚の太さを定期的に測り、治療前と比べて1cm以上太くなっている場合は担当医に相談する
- 測るタイミング・位置・姿勢を決めておく(例:毎月1回、入浴後に膝の上10cmを座って測る)
- 皮膚のしわが消える、指で押すと跡が残る、袖口や指輪の跡が残る、重さ・だるさを感じる、といった変化に注意する
腕がむくんでいる方へ
- むくんでいる腕での採血は控えましょう。不安があるときは、事前に看護師に相談してください
- なお「採血や血圧測定がリンパ浮腫の原因になる」という説明を見かけますが、国立がん研究センターはそうした科学的根拠はないとしています。過度に怖がる必要はありません
- 重い荷物は反対の手で持つか、カートを使う
- 台所仕事ではゴム手袋をつけて、やけど・切り傷を防ぐ
- 指輪や衣類は、締めつけの強いものを避けてゆとりのあるものを選ぶ
脚がむくんでいる方へ
- 長く座り続けるときは、こまめに立ち上がったり伸びをしたりする
- 寝るときはクッションで脚を10〜15cmほど高くする
- 靴下のゴムや靴など、締めつけの強いものは避ける
季節の注意
- 体重が増えるとリンパ浮腫が起こりやすくなります。バランスのよい食事と規則正しい生活を心がけましょう
- 日焼け・虫刺され・やけどに注意し、外で作業するときは長袖や手袋、日焼け止めで皮膚を守りましょう
- 暑い日やサウナ、飛行機の搭乗を避けるようにという話をよく聞きますが、これらがむくみを悪化させるという確かな根拠は見つかりませんでした。ご本人が「この日はつらい」と感じる場面を主治医に伝えて、個別に相談してみてください
注意
腕や脚の太さを定期的に測り、治療前と比べて1cm以上太くなっていたら担当医に相談してください。皮膚が赤くなって熱や痛みがあるときは蜂窩織炎の可能性があります。その部分を冷やしてなるべく動かさず、早めに受診してください。
リンパ浮腫とこころ
リンパ浮腫は外見の変化を伴うため、患者のボディイメージやQOLに大きな影響を与えます。がん治療後の患者さんは、がんとの闘いを終えた後にリンパ浮腫という新たな課題に直面し、心理的負担を感じることが少なくありません。
OTは、作業活動を通じて患者さんの自己効力感を高め、リンパ浮腫とともに「やりたいこと」を実現する方法を一緒に探します。セルフケアが生活の中に無理なく組み込まれるよう、一人ひとりのライフスタイルに合わせた提案を行います。
むくみによる見た目の変化は、ご本人の気持ちに大きく影響します。おしゃれが楽しめなくなったと感じたり、人目が気になったりすることもあります。
ご家族は「大変だね」と気持ちに寄り添う言葉をかけてください。日々のケアを一緒に行う(保湿を手伝う、弾性着衣を買いに行く、太さの測定に付き添うなど)ことも、大きな支えになります。なお、リンパドレナージを手伝う場合は、必ず先に医療者から一緒に指導を受けてください。
相談先
- リンパ浮腫外来: がん拠点病院を中心に設置が増えている
- リンパ浮腫セラピスト: 専門の研修を修了した医療従事者
- リンパ浮腫患者会: 同じ悩みを持つ方との情報交換
- 療養費の申請: 弾性着衣の費用補助について、主治医や医療ソーシャルワーカーに相談
- リンパ浮腫外来: がんの治療を受けた病院で相談できます
- リンパ浮腫患者会: 同じ悩みを持つ方と情報交換ができます
- 弾性着衣の費用: 健康保険の補助が受けられる場合があるので、主治医に聞いてみてください
リンパ浮腫は慢性疾患であり、生涯にわたるセルフケアが求められます。OTは患者さんのセルフケア能力を高めるとともに、日常生活における具体的な工夫を提案し、リンパ浮腫があっても「その人らしい暮らし」を実現するパートナーです。
まとめ ── むくみと上手に付き合うために
- リンパ浮腫のケアは「スキンケア・圧迫療法・用手的リンパドレナージ・圧迫下の運動療法」が柱です
- 弾性着衣は医師の指示のもとでサイズと圧迫圧を選び、弾力が落ちたら買い替えます
- リンパドレナージは医療者が行う医療的なマッサージです。自分で行うときは必ず先に指導を受けてください
- 「採血や血圧測定がリンパ浮腫の原因になる」という科学的根拠はありません。ただし、すでにむくんでいる腕での採血は控えます
- 腕や脚の太さを定期的に測り、治療前より1cm以上太くなったら担当医に相談してください
- 弾性着衣の費用は療養費として一部払い戻される場合があります。購入前に主治医に確認しましょう
- 国立がん研究センター がん情報サービス「リンパ浮腫」(2025年9月5日更新。症状の進行、圧迫療法・用手的リンパドレナージ・圧迫下の運動療法、採血と血圧測定に関する記載、療養費、早期発見の測定法)
- 日本リンパ浮腫学会編『リンパ浮腫診療ガイドライン 2024年版 第4版』金原出版, 2024年(上記がん情報サービスが挙げている参考資料。書籍のためオンライン版なし)
- Chen S, Wu S, Chen Y, Tan W. Progressive resistance exercise for preventing breast cancer-related lymphedema after breast cancer surgery: A systematic review and meta-analysis. Biomol Biomed. 2026(11 RCT・1,450名、RR 0.68, 95%CI 0.53-0.88)
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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