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片麻痺でも自分で着替えるには? ── 手順・便利グッズ・見守りのコツ

脳卒中後の片麻痺がある方の着替え(更衣動作)を、ご家族向けにわかりやすく解説。着脱の基本ルール、便利グッズ、見守りのコツを紹介します。

📅 2026年3月31日 更新読了目安 33分

この記事のポイント

  • 片麻痺の更衣動作の基本原則は「着患脱健」(着るときは麻痺側から、脱ぐときは健側から)
  • かぶり服・前開き服・ズボン・靴下それぞれに片手でできる具体的な手順がある
  • ボタンエイド・ソックスエイド・リーチャーなど自助具を活用すれば着替えの自立度が大きく上がる
  • 服の選び方を工夫するだけで着脱の難易度が格段に下がる
  • 家族の見守りは「手を出しすぎない」ことがご本人の自立と自信を守るカギになる

はじめに ── 着替えは「自分らしさ」を取り戻す第一歩

脳卒中のあと、片麻痺になったご家族が最初にぶつかる壁のひとつが着替えです。入院中は病衣で過ごしていても、退院が近づくと「自分の服を着たい」という気持ちが強くなる方がほとんどです。

着替えが自分でできるようになると、自信が生まれ、外出する意欲にもつながります。つまり、着替えの自立は暮らし全体を前向きにする第一歩なのです。

この記事では、作業療法士(OT)が実際に指導している片手でも着替えられるコツと、ご家族の見守りのポイントをわかりやすくお伝えします。

片麻痺の更衣動作 ── 基本原則「着患脱健」

片麻痺の着替えで一番大切なルールが「着患脱健(ちゃっかんだっけん)」です。

着患脱健とは

着るときは麻痺のある側から先に袖や裾を通し、脱ぐときは動く側から先に脱ぐという順番のルールです。

なぜこの順番なのでしょうか。着るとき、麻痺側の腕は自由に動きません。先に動くほうの手で麻痺側の袖を通してしまえば、あとは動くほうの腕を自分で通すだけです。逆にすると、とても難しくなります。

脱ぐときは逆です。まず動くほうの腕を先に抜き、自由になった手で麻痺側の袖を外します。

Tシャツでもシャツでもズボンでも、この順番は共通です。ご家族も一緒に覚えておくと、声かけがしやすくなります。

かぶり服(Tシャツ・トレーナー)の着脱手順

Tシャツやトレーナーなどの「かぶり服」は、前開きの服より少し難しめですが、手順を覚えれば片手でも着られます。

かぶり服を着る手順

1

準備

  1. 1服をひざの上に広げる
  2. 2首の穴が自分のほうを向くように置く
2

麻痺側の袖を通す

  1. 3動くほうの手で麻痺側の手首を持ち、袖に通す
  2. 4袖をひじの上までしっかり引き上げる
3

頭を通す

  1. 5動くほうの手で襟ぐりをつかみ、頭からかぶる
4

動くほうの袖を通す

  1. 6反対側の袖口を探して腕を通す
  2. 7全体を引き下ろして整える

うまくいかないときは

麻痺側の袖をひじの上まで十分に引き上げることがポイントです。ここが足りないと、頭を通すときに袖が引っかかります。

かぶり服を脱ぐ手順

脱ぐときは逆の順番です。まず背中側の裾を引き上げて頭を抜き、動くほうの腕を抜いてから、麻痺側の袖を外します。

前開き服(シャツ・カーディガン)の着脱手順

前開きの服(シャツやカーディガン)は、かぶり服より着脱がしやすいため、片麻痺の方には前開き服がおすすめです。

前開き服を着る手順

1

準備

  1. 1服をひざの上に広げる(裾を手前に向ける)
2

麻痺側の袖を通す

  1. 2動くほうの手で麻痺側の手を袖口に入れる
  2. 3袖を肩近くまで引き上げる
3

背中に回す

  1. 4反対側の身頃をつかみ、背中越しに送る
4

動くほうの袖を通す

  1. 5動くほうの腕を袖に通す
  2. 6ボタンやファスナーを留める

脱ぐときは、ボタンを外してから動くほうの腕を先に抜き、最後に麻痺側の袖を外します。

ズボン・靴下の着脱の工夫

ズボンの履き方

ズボンの着脱は座った状態で行うのが安全です。安定した椅子やベッドに腰かけて行います。

1

麻痺側の足を通す

  1. 1動くほうの手で麻痺側の足首を持ち、ひざの上に乗せる
  2. 2裾口に足を通し、ひざ下まで引き上げる
  3. 3足を床に戻す
2

動くほうの足を通す

  1. 4動くほうの足を裾口に通す
3

引き上げる

  1. 5立ち上がってウエストまで引き上げる
  2. 6立てない場合は、左右にお尻を浮かせながら少しずつ上げる

靴下の履き方

靴下は片手での着脱がいちばん難しい衣類です。足を組む姿勢にすると足先に手が届きやすくなります。それでも難しい場合は、後ほど紹介するソックスエイドという道具が役立ちます。

更衣動作を助ける便利な自助具

片手での着替えを助ける便利な道具(自助具)があります。作業療法士の現場でも実際に使われているものです。

ボタンエイド

先端にワイヤーの輪がついた棒状の道具で、片手でボタンの留め外しができます。費用は800円〜2,000円程度で、通販サイトでも購入できます。

ソックスエイド(靴下エイド)

プラスチック製の板に靴下をかぶせて床に置き、足を入れて紐を引っ張ると靴下が履ける道具です。費用は500円〜1,500円程度です。五本指ソックスには使えないので、普通の形の靴下を選びましょう。

リーチャー(マジックハンド)

先端でものをつかめる棒状の道具です。床に落ちた服を拾ったり、ハンガーを取ったりと、着替え以外にも使えて便利です。費用は1,000円〜3,000円程度です。

そのほかの便利グッズ

着やすい服の選び方

道具だけでなく、服そのものの選び方を変えるだけで着替えがずっと楽になります。お買い物のときに意識してみてください。

家族の見守り・介助のポイント

ご家族のサポートは、着替えの自立にとても大きな影響を与えます。いちばん大切なのは手を出しすぎないことです。

見守りの3つのポイント

時間がかかるからといって、先回りして着せてしまうと、ご本人の「自分でやる力」が育ちません。8割は自分で、残り2割だけ手伝うくらいがちょうどよいバランスです。

手伝ったほうがよい場面

次のような場面では、無理をせず手伝いましょう。

  • 首元のボタン: 見えにくく片手ではとても難しい場所です
  • 背中のめくれ: シャツの背中が丸まっているときなど
  • 靴下の位置調整: かかとがずれているときの微調整
  • 装具の装着: 足の装具などは両手が必要なことが多いです

声かけのコツ

「違う」「そうじゃない」という否定的な言葉は意欲を削いでしまいます。代わりに、「次は右手から袖を通しましょう」「頭を少し前に倒すと通りやすいですよ」のように、具体的な動作のヒントを伝えるのが効果的です。

更衣動作を練習するときの環境づくり

ご自宅で着替えの練習をするときは、環境を整えてあげることも大切です。

  • 安定した椅子を用意する: 背もたれ付きの椅子が安心です
  • 服を着る順番に並べておく: 迷わず手に取れるようにしましょう
  • 全身鏡を置く: 服のズレを自分で確認できます
  • 時間に余裕をもつ: 朝の忙しい時間ではなく、落ち着ける時間帯に練習しましょう
  • 椅子に滑り止めを敷く: お尻が滑ると体が不安定になります

まとめ

ポイント
  • 着替えの基本ルールは「着患脱健」。着るときは麻痺のある側から、脱ぐときは動く側からです
  • 前開きの服はかぶり服より着脱が楽。ゆとりのあるサイズやゴムウエストも効果的です
  • ボタンエイド・ソックスエイド・リーチャーなどの道具を使えば、片手でできることが大きく広がります
  • ご家族の見守りは「待つ・声かけ・最小限の介助」が大切。8割は本人に任せましょう
  • 着替えが自分でできると自信が生まれ、外出意欲や暮らし全体の質が上がります
  • 困ったときは担当の作業療法士地域包括支援センターに相談してください
ご家庭でできること
  • 服の「着替えセット」を作る: 翌日に着る服を前の晩に着る順番に重ねて置いておくと、朝の着替えがスムーズになります。ご本人と一緒に選ぶと意欲も上がります
  • ボタンをマグネットボタンに付け替える: お気に入りのシャツのボタンをマグネット式に交換するだけで、片手でも留め外しが簡単にできるようになります。見た目はほとんど変わりません
  • 着替えの時間に余裕をもつ: 最初は30分以上かかることもあります。朝の準備時間を多めに取り、焦らずに練習できる環境を整えてあげてください

免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。

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