この記事のポイント
- 肩の痛みの代表的な原因(四十肩・五十肩、腱板損傷、脳卒中後)ごとに特徴と対処の方向性が異なる
- リハビリは急性期・回復期・維持期の3段階で内容が変わる。無理な自己判断は悪化のもと
- 着替え・洗髪・高い所の物を取る動作など、日常生活の工夫で痛みを減らしながら「できる」を守れる
肩の痛みは「生活の痛み」
朝、シャツに腕を通そうとして激痛が走る。頭を洗おうとすると腕が上がらない。棚の上の物に手が届かない。
肩の痛みは、日常生活のあらゆる場面に影響を及ぼします。厚生労働省「令和4年(2022年)国民生活基礎調査」では、有訴者率の高い症状は男女とも「腰痛」「肩こり」の順で、肩こりは男女ともに第2位でした。また、関節の痛みや運動制限を伴う肩関節周囲炎(いわゆる四十肩・五十肩)の有病率は一般人口の約2〜5%と推定され、40〜65歳に最も多いとされています。
OTは、関節や筋肉の回復だけでなく、痛みがあっても日常生活を維持・改善する方法を一緒に考える専門職です。作業療法という仕事の全体像については作業療法とは何かで詳しく解説しています。この記事では、肩の痛みの主な原因、時期に応じたリハビリの考え方、そして今日から試せる生活の工夫をお伝えします。
シャツに腕を通せない、頭が洗えない、棚の上の物に手が届かない──肩の痛みは日常生活のあらゆる場面に影響します。
作業療法士は、痛みがあっても日常生活を続けるための工夫を一緒に考えてくれる専門家です。
肩の痛みの主な3つの原因
1. 肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)
肩関節を包む関節包や周囲の腱・靭帯に炎症が起き、痛みと可動域制限が生じる疾患です。明確な外傷がなくても発症し、40〜60代に多いことから「四十肩・五十肩」と呼ばれます。
炎症期(急性期)
安静時にもズキズキと痛み、夜間痛で睡眠が妨げられることが多い。通常2〜9か月続く
拘縮期(凍結期)
痛みはやや落ち着くが、関節が硬くなり腕が上がらなくなる。3〜12か月続くことがある
回復期(解凍期)
徐々に可動域が戻ってくる。完全回復まで1〜3年かかる場合もある
自然治癒を過信しない
四十肩・五十肩は「放っておけば治る」と言われることがありますが、一次性の凍結肩223名(269肩)を平均4.4年追跡した研究では、59%が正常またはほぼ正常まで回復した一方、41%に何らかの症状が残存していました(うち94%は軽度、6%は痛みと機能障害を伴う重度)。発症時の症状が重い人ほど長期予後が不良でした(Hand et al., 2008, J Shoulder Elbow Surg)。
四十肩・五十肩は、特にケガがなくても肩に炎症が起き、痛みと動きの制限が出る病気です。40〜60代に多くみられます。
経過には3つの段階があります。
- 炎症期(2〜9か月):安静時にもズキズキ痛み、夜中に目が覚めることも
- 拘縮期(3〜12か月):痛みは落ち着くが、腕が上がらなくなる
- 回復期:徐々に動きが戻る。完全回復まで1〜3年かかることも
「放っておけば治る」と言われますが、適切なリハビリをしないと動きの制限が残ることがあります。
2. 腱板損傷
肩関節を安定させる4つの筋腱(棘上筋・棘下筋・肩甲下筋・小円筋)の一部が断裂・損傷する状態です。転倒や重い物の持ち上げで急性に起こる場合と、加齢による変性で徐々に進行する場合があります。
地域住民の腱板断裂の割合
腱板を構成する筋
手術をせずに済んだ方の割合(2年間)
腱板損傷では、腕を横に上げる途中(60〜120度付近)で痛みが出る「有痛弧サイン」が特徴的です。完全断裂であっても、残存する腱板の機能を強化する保存療法で日常生活レベルまで改善することが多いとされています。
腱板損傷は、肩を安定させる筋肉の腱が傷つく状態です。転倒で起こることもあれば、加齢で徐々に傷むこともあります。日本の山村で住民683名(1,366肩)を調べた研究(Yamamoto ら, 2010年)では、20.7%に腱板の断裂がみられ、年齢が上がるほど多くなっていました。痛みなどの症状がない方でも16.9%にみつかっています。
手術をせずリハビリを続けた研究(Kuhn ら, 2013年)では、2年間のうちに手術を選ばなかった方が約75%でした。
3. 脳卒中後の肩の痛み
脳卒中による片麻痺では、肩関節の亜脱臼や痙縮、肩手症候群などが原因で肩に痛みが生じることがあります。地域住民ベースの前向き研究(初発脳卒中416名、4か月後に327名を追跡)では、発症4か月以内に肩の痛みが生じた人は71名(22%)で、うち79%は中等度〜重度の痛みでした。16か月時点までに新たに発症した人を含めるとおよそ3分の1にのぼります(Lindgren et al., 2007, Stroke)。肩の痛みはリハビリの進行を妨げる大きな要因です。
脳卒中後の肩の痛みは早期対応が重要
肩の痛みが強いと、患者さんはリハビリへの意欲を失いやすくなります。ポジショニング(良肢位の保持)やアームスリングの適切な使用など、発症早期からの予防的対応が重要です。
脳卒中を起こした方を追跡した研究(Lindgren ら, 2007年)では、発症4か月以内に約5人に1人(22%)が肩の痛みを訴え、1年以上の経過でみるとおよそ3人に1人にのぼりました。脳卒中で片麻痺になると、肩の痛みは珍しくありません。痛みが強いとリハビリへの意欲も下がるため、早い段階からの対応が大切です。
時期別のリハビリ ── 急性期・回復期・維持期
肩のリハビリは、痛みや炎症の状態に合わせて段階的に進めます。どの原因疾患であっても、時期に応じた適切な負荷設定が回復の鍵です。
急性期 ── 炎症と痛みのコントロール
- 1安静と疼痛管理(医師の指示による投薬・物理療法)
- 2良肢位の保持:枕やクッションで肩を安定した位置に置く
- 3振り子運動(コッドマン体操):体を前に傾けて腕を力を抜いてぶら下げ、小さく揺らす
- 4痛みのない範囲での他動的・自動介助的な関節可動域訓練
回復期 ── 可動域と筋力の改善
- 5自動運動による可動域拡大:壁に指を這わせて腕を上げる「ウォールクライミング」など
- 6肩甲骨周囲筋のストレッチと筋力強化
- 7セラバンドなどを使った段階的な抵抗運動
- 8日常生活動作(着替え・整容・調理など)の練習をリハビリに組み込む
維持期 ── 獲得した機能の定着と再発予防
- 9自主トレーニングメニューの定着(1日10〜15分程度)
- 10生活動作の中で肩を使う機会を意識的に増やす
- 11姿勢の見直し:猫背は肩関節への負担を増やす
- 12定期的な状態確認と必要に応じたプログラム修正
リハビリは「痛みを我慢して動かす」ことではありません。痛みの出ない範囲で、少しずつ動かせる範囲を広げていくことが大切です。
肩のリハビリは3つの段階で進みます。
- 急性期:痛みを抑えることが中心。クッションで肩を楽な位置に保ち、痛みのない範囲で軽く動かします
- 回復期:少しずつ動かせる範囲を広げ、筋力もつけていきます
- 維持期:自主トレーニングを習慣にし、再発を防ぎます
大切なのは、「痛みを我慢して動かす」のではなく、「痛みの出ない範囲で少しずつ広げる」ことです。
日常生活での3つの工夫
工夫1: 着替え
肩が痛いときの着替えは、順番と衣服の選び方で大きく変わります。
基本原則は「痛い側から着て、痛くない側から脱ぐ」です。この順番を守ることで、痛い側の肩を大きく動かさずに着脱できます。
| 場面 | 工夫 |
|---|---|
| かぶり物(Tシャツなど) | 痛い側の腕から先に袖を通し、頭を通してから健側の袖に腕を入れる |
| 前開きシャツ | 痛い側の腕から先に袖を通す。ボタンが難しければマグネットボタンやスナップボタンに交換する |
| ズボン | 座った状態で履く。靴下と同様、長柄のリーチャー(マジックハンド)を活用する |
| ブラジャー | 前留めタイプに変更するか、先に留めてからかぶって着る |
衣服の選び方
伸縮性のある素材、ゆとりのあるサイズ、前開きデザインを選ぶだけで着替えの負担は大幅に軽減されます。おしゃれを諦める必要はなく、機能的でデザイン性のある衣服も増えています。
着替えの基本は「痛い側から着て、痛くない側から脱ぐ」です。
- Tシャツ:痛い側の腕から先に袖を通す→頭を通す→反対側の腕
- 前開きシャツ:痛い側から先に袖を通す
- ボタンが難しければ、マグネットボタンに交換する方法もあります
伸縮性のある素材やゆとりのあるサイズを選ぶと、さらに楽になります。
工夫2: 洗髪
洗髪は肩を大きく動かす動作の代表です。両手を頭の高さまで上げ続ける必要があるため、肩に痛みがあると非常に困難になります。
片手洗いの活用
痛い側の手は添える程度にし、健側の手で主に洗う。シャンプーブラシを使うと片手でも頭皮全体を洗いやすい
頭を下げて洗う
シャワーチェアに座り、前かがみの姿勢で洗うと腕を高く上げなくて済む
洗面台で洗う
頭を前に倒して洗面台で洗う方法なら、腕をほとんど上げずに済む
自助具の活用
長柄ブラシやウォッシュミトンを使えば、手が届く範囲が広がる
洗髪を含む入浴動作全体の安全な工夫については入浴の自立支援ガイドで詳しく解説しています。
洗髪は腕を上げ続ける動作なので、肩が痛いと大変です。
- 片手洗い:痛い側は添えるだけ、反対の手で主に洗う。シャンプーブラシが便利
- 前かがみで洗う:シャワーチェアに座って頭を下げると、腕を高く上げなくて済みます
- 洗面台で洗う:頭を前に倒して洗えば、腕をほとんど上げずに済みます
工夫3: 高い所の物を取る
棚の上の物を取る動作は、肩を最大限に挙上する必要があり、痛みの強い時期には最も避けたい動作の一つです。
環境を整えることが最も効果的な対策です。- よく使う物は肩より低い位置(肘〜腰の高さ)に配置し直す
- 高い棚にはリーチャー(マジックハンド)を使う
- 踏み台を使って体ごと高さを合わせる(ただし転倒リスクに注意)
- 家族に配置換えを協力してもらう
無理に腕を伸ばさない
痛みを我慢して無理に腕を上げると、代償動作(体を傾ける、肩をすくめるなど)が癖になり、二次的な痛みの原因になることがあります。環境を変える発想が大切です。
高い所の物を取るのは肩への負担が大きいです。環境を変えるのが一番の対策です。
- よく使う物は肩より低い位置に移す
- 高い棚にはリーチャー(マジックハンド)を使う
- ご家族に配置換えを手伝ってもらう
痛みを我慢して無理に腕を上げると、変なクセがつくことがあります。環境を変える発想が大切です。
作業療法士の評価と介入
OTは、肩の痛みに対して以下のような評価と介入を行います。
評価
| 評価項目 | 内容 |
|---|---|
| 関節可動域(ROM) | ゴニオメーターで肩の動く範囲を測定する |
| 筋力検査(MMT) | 肩周囲の筋力を段階的に評価する |
| 疼痛評価(VAS/NRS) | 痛みの強さを数値化し、経時的な変化を追う |
| ADL評価(FIM/BIなど) | 日常生活動作の自立度を評価し、具体的な困りごとを特定する |
| 作業遂行の評価(COPM) | 患者さん自身が重要と感じている作業の遂行度と満足度を把握する |
介入の特徴
PTが関節可動域や筋力の回復に焦点を当てるのに対し、OTは「その人がやりたい・やる必要がある生活行為をどう実現するか」という視点から介入します。
動作分析と動作指導
着替えや入浴などの動作を観察し、痛みが出にくい方法を一緒に練習する
自助具の選定と適合
リーチャー、ソックスエイド、長柄ブラシなど、その人の生活に合った道具を選ぶ
環境調整
家具の配置変更、手すりの設置、収納の見直しなど、生活環境そのものを変える
自主トレーニングの指導
自宅で継続できる運動プログラムを作成し、正しいフォームを指導する
心理的サポート
痛みによる活動制限は気分の落ち込みにつながりやすい。作業を通じた自己効力感の回復を支援する
肩のリハビリにおけるOTの役割は、関節の角度を1度でも広げることではなく、その人の暮らしの中で『できること』を1つでも増やすことです。
なお、痛みが長期化した場合のペインマネジメントの考え方は慢性疼痛に対する作業療法のアプローチで詳しく解説しています。
受診とリハビリのタイミング
肩の痛みは「そのうち治る」と放置されがちですが、以下の症状がある場合は早めに整形外科を受診してください。
- 夜間に痛みで目が覚める
- 2週間以上痛みが続いている
- 腕を上げられない、または途中で引っかかる感じがある
- 転倒や外傷のあとに痛みが出た
- 日常生活(着替え・洗髪・食事)に支障が出ている
医師の診断後、リハビリが必要と判断された場合はOTやPTによる専門的なリハビリテーションを受けることができます。介護保険の対象となる方は、通所リハビリテーションや訪問リハビリテーションの利用も検討できます。
次のような症状がある場合は、早めに整形外科を受診してください。
- 夜間に痛みで目が覚める
- 2週間以上痛みが続いている
- 腕が上がらない、途中で引っかかる
- 転倒やケガの後に痛みが出た
- 着替えや洗髪など日常生活に支障がある
- 肩の痛みの原因によってリハビリの進め方は異なる。まずは整形外科で正確な診断を受けることが出発点
- リハビリは急性期・回復期・維持期の3段階で段階的に進める。「痛みを我慢して動かす」のは逆効果
- 着替え・洗髪・高所動作は工夫次第で痛みを減らせる。OTは生活の中の「できる」を広げる専門家
- 痛みが2週間以上続く場合や日常生活に支障がある場合は、早めの受診とリハビリ開始が回復を早める
- 肩の痛みの原因はさまざま。まずは整形外科で正確な診断を受けることが大切です
- リハビリは「痛みを我慢して動かす」のではなく、痛みの出ない範囲で少しずつ進めます
- 着替え・洗髪・高い所の物を取る動作は工夫で痛みを減らせます
- 2週間以上痛みが続くなら、早めに受診しましょう
- 着替えは「痛い側から着て、痛くない側から脱ぐ」を意識してみてください
- よく使う物を肩より低い位置に移すだけで、日常の負担がぐっと減ります
- 痛みが2週間以上続いたら、「そのうち治る」と思わず整形外科を受診してください
- 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」III 世帯員の健康状況(性別にみた有訴者率の上位5症状)
- Kelley MJ, Shaffer MA, Kuhn JE, et al. Shoulder pain and mobility deficits: adhesive capsulitis(臨床診療ガイドライン). J Orthop Sports Phys Ther. 2013;43(5):A1-A31
- Hernigou P, Scarlat MM. The diabetic shoulder: association between diabetes mellitus and adhesive capsulitis - a systematic review and meta-analysis. Int Orthop. 2026;50(4):839-851(一般人口の有病率2〜5%・好発年齢40〜65歳の記載)
- Hand C, Clipsham K, Rees JL, Carr AJ. Long-term outcome of frozen shoulder. J Shoulder Elbow Surg. 2008;17(2):231-236
- Yamamoto A, Takagishi K, Osawa T, et al. Prevalence and risk factors of a rotator cuff tear in the general population. J Shoulder Elbow Surg. 2010;19(1):116-120
- Kuhn JE, Dunn WR, Sanders R, et al. Effectiveness of physical therapy in treating atraumatic full-thickness rotator cuff tears: a multicenter prospective cohort study. J Shoulder Elbow Surg. 2013;22(10):1371-1379
- Lindgren I, Jönsson AC, Norrving B, Lindgren A. Shoulder pain after stroke: a prospective population-based study. Stroke. 2007;38(2):343-348
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
運営者プロフィールを見る →