この記事のポイント
- 肩の痛みの代表的な原因(四十肩・五十肩、腱板損傷、脳卒中後)ごとに特徴と対処の方向性が異なる
- リハビリは急性期・回復期・維持期の3段階で内容が変わる。無理な自己判断は悪化のもと
- 着替え・洗髪・高い所の物を取る動作など、日常生活の工夫で痛みを減らしながら「できる」を守れる
肩の痛みは「生活の痛み」
シャツに腕を通せない、頭が洗えない、棚の上の物に手が届かない──肩の痛みは日常生活のあらゆる場面に影響します。
作業療法士は、痛みがあっても日常生活を続けるための工夫を一緒に考えてくれる専門家です。
肩の痛みの主な3つの原因
1. 肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)
四十肩・五十肩は、特にケガがなくても肩に炎症が起き、痛みと動きの制限が出る病気です。40〜60代に多くみられます。
経過には3つの段階があります。
- 炎症期(2〜9か月):安静時にもズキズキ痛み、夜中に目が覚めることも
- 拘縮期(3〜12か月):痛みは落ち着くが、腕が上がらなくなる
- 回復期:徐々に動きが戻る。完全回復まで1〜3年かかることも
「放っておけば治る」と言われますが、適切なリハビリをしないと動きの制限が残ることがあります。
2. 腱板損傷
腱板損傷は、肩を安定させる筋肉の腱が傷つく状態です。転倒で起こることもあれば、加齢で徐々に傷むこともあります。60歳以上の方の半数以上に何らかの腱板の損傷がみられるとされています。
手術なしのリハビリで約70%の方が改善するという報告があります。
3. 脳卒中後の肩の痛み
脳卒中で片麻痺になった方の30〜65%に肩の痛みが出るとされています。痛みが強いとリハビリへの意欲も下がるため、早い段階からの対応が大切です。
時期別のリハビリ ── 急性期・回復期・維持期
肩のリハビリは3つの段階で進みます。
- 急性期:痛みを抑えることが中心。クッションで肩を楽な位置に保ち、痛みのない範囲で軽く動かします
- 回復期:少しずつ動かせる範囲を広げ、筋力もつけていきます
- 維持期:自主トレーニングを習慣にし、再発を防ぎます
大切なのは、「痛みを我慢して動かす」のではなく、「痛みの出ない範囲で少しずつ広げる」ことです。
日常生活での3つの工夫
工夫1: 着替え
着替えの基本は「痛い側から着て、痛くない側から脱ぐ」です。
- Tシャツ:痛い側の腕から先に袖を通す→頭を通す→反対側の腕
- 前開きシャツ:痛い側から先に袖を通す
- ボタンが難しければ、マグネットボタンに交換する方法もあります
伸縮性のある素材やゆとりのあるサイズを選ぶと、さらに楽になります。
工夫2: 洗髪
洗髪は腕を上げ続ける動作なので、肩が痛いと大変です。
- 片手洗い:痛い側は添えるだけ、反対の手で主に洗う。シャンプーブラシが便利
- 前かがみで洗う:シャワーチェアに座って頭を下げると、腕を高く上げなくて済みます
- 洗面台で洗う:頭を前に倒して洗えば、腕をほとんど上げずに済みます
工夫3: 高い所の物を取る
高い所の物を取るのは肩への負担が大きいです。環境を変えるのが一番の対策です。
- よく使う物は肩より低い位置に移す
- 高い棚にはリーチャー(マジックハンド)を使う
- ご家族に配置換えを手伝ってもらう
痛みを我慢して無理に腕を上げると、変なクセがつくことがあります。環境を変える発想が大切です。
作業療法士の評価と介入
受診とリハビリのタイミング
次のような症状がある場合は、早めに整形外科を受診してください。
- 夜間に痛みで目が覚める
- 2週間以上痛みが続いている
- 腕が上がらない、途中で引っかかる
- 転倒やケガの後に痛みが出た
- 着替えや洗髪など日常生活に支障がある
- 肩の痛みの原因はさまざま。まずは整形外科で正確な診断を受けることが大切です
- リハビリは「痛みを我慢して動かす」のではなく、痛みの出ない範囲で少しずつ進めます
- 着替え・洗髪・高い所の物を取る動作は工夫で痛みを減らせます
- 2週間以上痛みが続くなら、早めに受診しましょう
- 着替えは「痛い側から着て、痛くない側から脱ぐ」を意識してみてください
- よく使う物を肩より低い位置に移すだけで、日常の負担がぐっと減ります
- 痛みが2週間以上続いたら、「そのうち治る」と思わず整形外科を受診してください
参考文献
- Kelley MJ, et al. "Shoulder Pain and Mobility Deficits: Adhesive Capsulitis." Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy. 2013;43(5):A1-A31.
- Hand C, et al. "Long-term outcome of frozen shoulder." Journal of Shoulder and Elbow Surgery. 2008;17(2):231-236.
- Yamamoto A, et al. "Prevalence and risk factors of a rotator cuff tear in the general population." Journal of Shoulder and Elbow Surgery. 2010;19(1):116-120.
- Kuhn JE, et al. "Effectiveness of physical therapy in treating atraumatic full-thickness rotator cuff tears." Journal of Shoulder and Elbow Surgery. 2013;22(10):1371-1379.
- Lindgren I, et al. "Shoulder pain after stroke." European Journal of Neurology. 2007;14(2):170-175.
- 日本整形外科学会. 肩関節周囲炎診療ガイドライン. 2019.
- 日本作業療法士協会. 作業療法ガイドライン 実践指針. 2024.