この記事のポイント
- 65歳以上の約3人に1人が年に1回以上転倒しており、転倒は要介護状態の大きな原因です
- 転倒リスクには「内的要因」と「外的要因」があり、両方への対策が必要です
- OTが提案する7つの習慣で、自宅での転倒リスクを大幅に減らせます
- 「転ばない」だけでなく「転んでも大丈夫な環境」をつくる視点が大切です
高齢者の転倒 ── 数字で見る実態
「まさかうちの親が転ぶなんて」── そう思っていた方も多いのではないでしょうか。実は、65歳以上の方のうち約3人に1人が年に1回以上転倒しています。しかも、その約85%は自宅の中で起きています。
転倒による骨折は、寝たきりや介護が必要になる大きな原因の一つです。「気をつけてね」と声をかけるだけでは不十分で、家の環境や日々の習慣を見直すことが大切です。
転倒のリスク要因を理解する
転倒には大きく2つの原因があります。
からだの変化(内的要因)としては、足の筋力の低下、バランス感覚の衰え、視力の低下、お薬の影響(ふらつきなど)が挙げられます。過去に転んだことがある方は、再び転ぶリスクが2〜3倍に高まるとされています。
家の中の環境(外的要因)としては、段差・滑りやすい床・暗い廊下・スリッパ・手すりの不備・床に置いた物などがあります。
この2つが重なると転倒リスクが急上昇するため、からだのケアと家の環境整備の両方に取り組むことが重要です。
作業療法士が提案する ── 転倒予防の7つの習慣
作業療法士がおすすめする、自宅で取り組める7つの転倒予防の習慣をご紹介します。
習慣1: 毎日の「ちょこっと運動」を続ける
転倒予防に最も効果があるのは毎日の軽い運動です。激しい運動は必要ありません。
おすすめの「ちょこっと運動」をご紹介します。
- 朝:椅子の背もたれにつかまって、つま先立ち10回、片足立ち左右各10秒
- 日中:テレビを見ながらかかと上げ、椅子からの立ち座り5回
- 夕方:ふくらはぎのストレッチ、足首回し
続けるコツは、歯磨きやお茶の時間など、すでにある習慣とセットにすることです。「歯磨きの後につま先立ち」のように決めておくと忘れにくくなります。
習慣2: 家の中の「つまずきスポット」を定期点検する
ご自宅の中に「つまずきやすい場所」がないか、月に1回チェックしてみましょう。確認するポイントは次のとおりです。
- 玄関:段差に手すりはありますか? 靴を履くための椅子はありますか?
- 廊下・階段:手すりはありますか? 夜間の足元灯はありますか?
- トイレ:立ち上がり用の手すりはありますか?
- 浴室:滑り止めマットや手すりはありますか?
- 寝室:トイレまでの通り道に物が置いてありませんか?
- 居間・台所:電源コードが足元にありませんか? カーペットがめくれていませんか?
カレンダーに「安全点検の日」を書き込んでおくと、忘れずに続けられます。
習慣3: 「履き物」を見直す
室内でスリッパや裸足で過ごしていませんか? スリッパは脱げやすく滑りやすいため、転倒の原因になります。
かかとがしっかりあり、滑り止めが付いた室内履きに変えるだけで、転倒リスクがぐっと下がります。軽くて足にフィットするものを選んでみてください。
習慣4: 夜間の動線を「光の道」にする
夜中にトイレに行くときの転倒はとても多いです。寝室からトイレまでの通り道を明るくするだけで、リスクを大きく減らせます。
- コンセントに差し込む人感センサー付きの足元灯が便利です(数百円から購入できます)
- 必要に応じて、寝室にポータブルトイレを置くのも効果的です
- ベッドのそばに手すりがあると、起き上がるときの支えになります
習慣5: 服薬内容を定期的に見直す
睡眠薬、血圧の薬、抗不安薬などは、ふらつきやめまいの原因になることがあります。薬をやめるということではなく、かかりつけ医や薬剤師に「転倒が心配です」と伝えることが大切です。
お薬の内容を見直してもらうだけで、ふらつきが改善することもあります。
習慣6: 「二重課題トレーニング」を取り入れる
実は、転倒は「ただ歩いているとき」よりも、「何かをしながら歩いているとき」に多く起きます。お盆を運んだり、話しながら歩いたりする場面です。これを二重課題と呼びます。
ご家庭でできる練習として、以下がおすすめです。
- 初級:足踏みをしながらしりとりをする
- 中級:ゆっくり歩きながら簡単な計算をする
- 上級:お盆にコップを載せて廊下を往復する
必ず安全な場所で、壁や手すりの近くで行ってください。ふらつきを感じたらすぐにやめましょう。
習慣7: 「転倒日記」をつける
転びそうになった経験(ヒヤリ・ハット)を簡単にメモしておくと、どこが危ないかが見えてきます。
記録する内容はシンプルでかまいません。「いつ」「どこで」「何をしていたか」「履いていたもの」の4つです。1か月ほど続けると、「夜のトイレが多い」「台所の段差が危ない」などのパターンがわかります。
このメモをかかりつけ医やリハビリの先生に見せると、具体的なアドバイスがもらえます。
転倒してしまったときの対応
万が一転んでしまったときの対応を、ご家族で確認しておきましょう。
- まず慌てずにその場で動かない。痛みのある場所を確認します
- 起き上がるときは、横向き→四つ這い→椅子に手をかけて立ち上がるの順番で
- 立ち上がれない場合は無理せず、助けを呼んでください
- 頭を打った場合は必ず受診してください
- 一人暮らしの場合は、携帯電話を常に身につけるか緊急通報装置の導入を検討しましょう
「転んでも大丈夫な環境」をつくる
転倒を恐れるあまり動かなくなると、筋力がさらに落ちて、かえって転びやすくなるという悪循環に陥ります。大切なのは「転んでも大丈夫な環境」をつくることです。
- ベッドのそばや浴室の前に衝撃吸収マットを敷く
- 骨折予防のためのヒッププロテクター付き下着を検討する
- 「転ぶのが怖い」という気持ちがある場合は、作業療法士に相談すると、安心して動ける方法を一緒に考えてもらえます
介護保険を活用した転倒予防
手すりの設置や段差の解消には、介護保険が使えます。
- 住宅改修(手すり設置・段差解消など):上限20万円の1〜3割負担
- 福祉用具のレンタル(歩行器・手すりなど):月額の1〜3割負担
- 福祉用具の購入(シャワーチェア・ポータブルトイレなど):上限10万円の1〜3割負担
まだ介護保険を申請していない場合は、お住まいの地域包括支援センターに相談してみてください。無料で相談でき、要支援の段階でもサービスを利用できます。
転倒予防は、特別なことではありません。毎日の小さな習慣の積み重ねです。
- 毎日のちょこっと運動で足腰を維持する
- 月1回の家の安全チェックで危険箇所をなくす
- 履き物・照明・お薬を見直す
- 転倒日記で気づきを記録する
ご家族が一つでも「これならできそう」と思えることがあれば、今日から始めてみてください。
- 玄関・トイレ・浴室の手すりを確認し、足りなければ介護保険で設置を検討しましょう
- 夜間の足元灯をコンセントに1つ追加するだけで、夜中の転倒リスクが大きく下がります
- 帰省のたびに「冷蔵庫の中」「履き物」「部屋の明るさ」をさりげなくチェックしてみてください
参考文献
- Sherrington C, et al. Exercise for preventing falls in older people living in the community. Cochrane Database Syst Rev. 2019;1(1):CD012424.
- Santesso N, et al. Hip protectors for preventing hip fractures in older people. Cochrane Database Syst Rev. 2014;(3):CD001255.
- 厚生労働省「国民生活基礎調査」
- 厚生労働省「介護保険事業状況報告」
- 日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015」
- 東京消防庁「救急搬送データからみる日常生活事故の実態」
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