この記事のポイント
- フレイルには身体的・精神的・社会的の3つの側面があり、それぞれが相互に影響し合う
- 「運動しましょう」だけでは続かない――「やりたいこと(作業)」を起点にするとフレイル予防が自然に生活に組み込まれる
- 作業療法士(OT)は、その人の「したいこと」を一緒に見つけ、介護予防を個別にデザインする専門家
- 自宅でできる具体的な予防策を、3つの側面ごとに紹介
フレイルとは何か ── 「歳のせい」では片づけられない状態
「最近、疲れやすくなった」「外に出るのがおっくうになった」「食欲が落ちた」――こうした変化を「歳だから仕方ない」と片づけていませんか。
フレイルとは、加齢に伴い心身の活力が低下し、要介護状態になるリスクが高まっている状態のことです。健康な状態と要介護状態の中間にあり、適切な介入によって健康な状態に戻れる可能性がある段階とされています。
65歳以上のフレイル有病率
フレイルの構成要素
適切な介入で改善可能
2020年に改訂された日本版フレイル診断基準(J-CHS基準)では、体重減少・筋力低下・疲労感・歩行速度の低下・身体活動量の低下の5項目のうち3項目以上該当するとフレイルと判定されます。ただし、フレイルの本質は身体面だけにとどまりません。
「最近、お父さん(お母さん)が疲れやすくなった」「出かけるのをおっくうがるようになった」「食欲が落ちた」──こうした変化に気づいたことはありませんか。
フレイルとは、健康な状態と介護が必要な状態の中間にある段階のことです。「歳のせい」と見過ごしがちですが、早めに気づいて対策をすれば元気を取り戻せる可能性があります。
フレイルの3つの側面 ── 身体・精神・社会
フレイルを理解するうえで重要なのは、身体的フレイル・精神的(認知的)フレイル・社会的フレイルの3側面が相互に影響し合っているという点です。
身体的フレイル
筋力低下、歩行速度の低下、易疲労性、体重減少など。サルコペニアとの関連が深い
精神的フレイル
認知機能の低下、意欲の低下、うつ傾向。閉じこもりによる刺激不足が一因となる
社会的フレイル
独居、外出頻度の減少、社会的な交流の減少。孤立が身体的・精神的フレイルを加速させる
たとえば、足腰が弱くなって外出しなくなる(身体的フレイル)と、人との交流が減り(社会的フレイル)、意欲が低下して認知機能にも影響が出る(精神的フレイル)。この悪循環を「フレイルサイクル」と呼びます。
つまり、フレイル予防は筋力トレーニングだけでは不十分であり、3つの側面すべてに働きかけるアプローチが求められます。ここにOTの専門性が活きてきます。
3つのサインに気をつけましょう
フレイルには3つの側面があり、それぞれが影響し合っています。
体の面:体力や筋力が落ちた
疲れやすくなった、歩くのが遅くなった、体重が減ったなどの変化
心の面:意欲が低下した
「何もしたくない」が増えた、物忘れが気になる、気分が沈むことが多い
人とのつながりの面:外に出なくなった
外出が減った、人と会わなくなった、1人で過ごす時間が増えた
たとえば足腰が弱くなって外出が減ると、人と会わなくなり、意欲も下がる──という悪循環が起きやすくなります。どれか一つでも気になったら、早めに対策を始めることが大切です。
なぜ「運動しましょう」だけでは続かないのか
介護予防の現場では「運動しましょう」「栄養をしっかり摂りましょう」という声かけが繰り返されています。もちろん、これらは正しいアドバイスです。しかし、多くの高齢者にとって「正しいこと」と「やりたいこと」は必ずしも一致しません。
やりたいことがあるから体を動かす。会いたい人がいるから外に出る。それが結果としてフレイル予防になる。それが作業療法の考え方です。
2022年に公表されたコクランレビュー(Oliveira et al., 2022)では、地域在住高齢者に対する運動プログラムの継続率が課題として指摘されました。一方、意味のある活動(meaningful activity)に基づく介入は参加率と継続率が高い傾向にあるとする報告が複数あります(Levasseur et al., 2015; Clark et al., 2012)。
OTが「作業」と呼ぶのは、その人にとって意味のある活動すべてを指します。趣味の園芸、孫との散歩、近所の集まりへの参加、料理――その人が「したい」「する必要がある」「期待されている」活動を起点にすることで、フレイル予防は自然と生活に組み込まれていきます。こうした作業療法の基本的な考え方は作業療法とはで詳しく解説しています。
「運動しましょう」と言うだけでは難しい理由
ご家族に「体を動かしたほうがいいよ」と伝えても、なかなか続かないことがありませんか。
それは、「正しいこと」と「やりたいこと」が一致しないからかもしれません。
大切なのは、ご本人が「やりたい」と思えることを見つけることです。
- 孫と一緒に散歩に行きたい
- 好きな料理をまた作りたい
- 近所のサロンに参加したい
こうした「やりたいこと」があるから体を動かす、という流れをつくると、フレイル予防が自然に生活に組み込まれます。
作業療法士が行うフレイル予防のプロセス
OTがフレイル予防に関わる際は、画一的なプログラムを提供するのではなく、その人の生活と価値観に基づいた個別のアプローチを行います。
聞き取り ── やりたいことを一緒に見つける
- 1生活の中で困っていること・あきらめていることを聞く
- 2以前楽しんでいた活動、今もやりたいことを確認する
- 3本人の価値観や生活歴を理解する
評価 ── 3側面から現在の状態を把握する
- 4身体機能(筋力・バランス・持久力など)を評価する
- 5認知機能・意欲・気分の状態を把握する
- 6社会参加の状況と環境を確認する
計画 ── やりたいことに向けた具体策を立てる
- 7目標となる活動に必要な身体的・認知的能力を分析する
- 8段階的に取り組める計画をつくる
- 9環境調整や福祉用具の活用も検討する
実行と見直し ── 生活の中で実践する
- 10計画に基づき、生活の中で活動を実践する
- 11定期的に進捗を確認し、必要に応じて計画を調整する
- 12成功体験を積み重ね、自己効力感を高める
このプロセスの特徴は、「運動処方」ではなく「活動の再構築」がゴールである点です。結果として身体活動量が増え、社会参加が促進され、精神的な充実感が得られる――つまり、フレイルの3側面すべてに同時にアプローチできます。
作業療法士はどうやってフレイル予防を手伝ってくれるの?
作業療法士(OT)は、「運動メニューを出す」のではなく、ご本人の「やりたいこと」を一緒に見つけて、それに向けた計画を立てる専門家です。
たとえば「庭の手入れがしたい」という希望があれば、そのために必要な体力や道具、安全に行う方法を一緒に考えてくれます。やりたいことに向かって動くことが、結果的にフレイル予防になるという考え方です。
自宅でできるフレイル予防 ── 3側面へのアプローチ
ここからは、自宅で取り組める具体的な予防策を3つの側面ごとに紹介します。いずれも「やりたいこと」と結びつけることが継続のポイントです。
身体的フレイル予防 ── 暮らしの中に負荷を組み込む
日常動作そのものがトレーニングになる
わざわざ「運動の時間」をつくらなくても、日常の動作を少し工夫するだけで筋力維持に必要な負荷を得ることができます。
- 立ち座りの回数を意識する — 椅子からの立ち座りは下肢筋力のトレーニングそのもの。テレビのCM中に3回立ち座りするだけでも効果がある
- 買い物は歩いて行く — 荷物を持って歩くことで、有酸素運動と筋力トレーニングを兼ねられる。重い場合はカートを活用する
- 料理・掃除を続ける — 立位保持、しゃがみ込み、腕の挙上など多様な動作が含まれる。できる範囲で続けることが大切
- 庭仕事・ベランダ園芸 — 屈伸、歩行、手指の巧緻動作を含む総合的な身体活動。好きな植物を育てるという動機づけが継続を支える
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、高齢者に対して座りっぱなしの時間を減らし、少しでも体を動かすことを推奨しています。完璧な運動プログラムよりも、毎日の暮らしの中で体を使い続けることが重要です。心臓病など持病があって活動量の調整に不安がある方は心臓の病気と「無理をしない暮らし」の組み立て方を、痛みで体を動かすのがつらい方は慢性疼痛への作業療法アプローチも参考にしてください。
精神的フレイル予防 ── 頭と心に刺激のある暮らし
精神的フレイルの予防には、認知的な刺激と「楽しい」「嬉しい」といったポジティブな感情体験が欠かせません。
- 日記や手紙を書く — 文章を組み立てる行為は高次の認知機能を使う。手書きであれば手指の巧緻性も維持できる
- 新しい料理に挑戦する — レシピを読む、段取りを考える、味を調整する――料理は複合的な認知活動であり、達成感も得られる
- 音楽を聴く・歌う — 記憶の想起、感情の活性化、呼吸機能の維持に寄与する。好きな曲を聴くだけでも気分が改善する
- 孫や友人との電話・ビデオ通話 — 会話は高度な認知処理を必要とする活動。社会的なつながりの維持にもなる
意欲の低下に注意してください
「何もしたくない」「面倒くさい」が長く続く場合は、うつ状態の可能性があります。かかりつけ医への相談を検討してください。意欲の低下は精神的フレイルの重要なサインです。
社会的フレイル予防 ── 人とのつながりを保つ
2017年に発表された日本老年学的評価研究(JAGES)のデータでは、社会参加が少ない高齢者はフレイルのリスクが有意に高いことが報告されています。社会的なつながりは、身体的フレイルと精神的フレイルの両方を予防する保護因子です。
- 週1回以上の外出機会をつくる — 買い物、通院、地域のサロンなど目的は何でもよい。外出そのものが社会参加の第一歩になる
- 地域の通いの場に参加する — 各市区町村が運営する介護予防教室や地域サロン。同世代の仲間づくりの場でもある
- 役割を持つ — 町内会の係、孫の世話、近所の花壇の手入れなど「自分が必要とされている」実感が社会的フレイルを防ぐ
- 趣味のグループに所属する — 囲碁、将棋、手芸、カラオケなど。共通の関心を持つ人との交流は継続しやすい
ご家庭でできるフレイル予防の工夫
体の面 ── 暮らしの中で体を動かす
特別な運動をしなくても、日常生活の中で体を使うことがフレイル予防になります。
- 料理や掃除を一緒にする: 立ったりしゃがんだりする動作が自然な運動になります
- 買い物に一緒に歩いて行く: 荷物を持って歩くのは、立派な筋力トレーニングです
- テレビのCM中に立ち座りをする: 椅子からの立ち座りは足の筋力を維持するのに効果的です
心の面 ── 楽しみや刺激のある毎日を
- 一緒に料理をする: レシピを考えたり味を調整したりすることが、頭の良い刺激になります
- 好きな音楽を聴く時間をつくる: 気分転換になり、昔の楽しい記憶がよみがえることもあります
- 電話やビデオ通話で話す機会をつくる: 会話は脳にとって大切な刺激です
人とのつながりの面 ── 外に出るきっかけをつくる
- 週に1回以上は外出する機会をつくる: 買い物でも散歩でも目的は何でも大丈夫です
- 地域のサロンや教室に誘ってみる: お住まいの市区町村で開催されている介護予防教室をチェックしてみましょう
- 「あなたがいると助かる」と伝える: 役割があると感じることが、外に出る大きな動機になります
「やりたいこと」が見つからないときは
「やりたいことなんて特にない」「もう歳だから新しいことは無理」と感じている方も少なくありません。しかし、やりたいことは必ずしも大きな目標である必要はありません。
OTは、こうした小さな希望を丁寧に聞き取り、それを叶えるために必要な身体的・認知的・環境的条件を分析します。「近所の桜を見に行きたい」という希望があれば、そのために必要な歩行能力、外出の段取り、付き添いの有無などを一緒に考えます。小さな「したい」を実現する過程そのものが、フレイル予防になるのです。
ご本人が「やりたいことがない」と言うときは
無理に「何かやりなさい」と言うのではなく、以前楽しんでいたことを一緒に思い出すことから始めてみてください。
「昔はよく○○してたよね」「今度一緒にやってみない?」と声をかけることで、小さなきっかけが生まれることがあります。
作業療法士に相談すると、ご本人の「やりたいこと」を見つけるお手伝いもしてくれます。
フレイル予防と作業療法の科学的根拠
OTによる介入がフレイル予防に有効であることを示す研究は増えています。
| 研究 | 対象 | 結果 |
|---|---|---|
| Clark et al., 2012(Lifestyle Redesign) | 地域在住高齢者460名 | OTによる生活再設計プログラムで身体機能・社会参加・生活満足度が有意に改善 |
| Levasseur et al., 2015 | 社会参加が低い高齢者 | 意味のある活動に基づく介入で社会参加が増加し、孤立感が減少 |
| 厚生労働省, 2023 | 通いの場の効果検証 | 多様な活動を含む介護予防プログラムで要介護認定率が低下 |
特に注目すべきは、USCのClarkらが開発したLifestyle Redesignプログラムです。これはOTが個別に生活全体を見直し、意味のある活動への参加を促進するもので、身体的健康だけでなく精神的健康や生活の質の向上にも効果があることがランダム化比較試験で示されています。
まとめ ── 介護予防は「したいこと」から始まる
フレイル予防は単なる筋力トレーニングや栄養管理にとどまりません。身体的・精神的・社会的の3側面に働きかけ、その人の生活に根ざした形で取り組むことが重要です。
作業療法士が提案するフレイル予防の核心は、「やりたいこと」を起点にすることです。やりたいことがあるから体を動かし、人と関わり、考え工夫する。その一つひとつの営みがフレイルの悪循環を断ち切ります。
「最近なんだか疲れやすい」「出かけるのがおっくう」と感じたら、それはフレイルのサインかもしれません。まずは、あなたの「したいこと」を一つ思い浮かべてみてください。そこから始める介護予防を、作業療法士は一緒に考えます。
フレイル予防で大切なのは、体・心・人とのつながりの3つの面すべてに気を配ることです。
- 「疲れやすくなった」「出かけなくなった」「意欲がない」はフレイルのサインです
- 特別な運動よりも、日常生活の中で体を使い続けることが大切です
- ご本人の「やりたいこと」を見つけて応援することが、最も効果的なフレイル予防になります
- 気になることがあれば、かかりつけ医や地域包括支援センターに相談してみてください
- 「一緒に買い物に行こう」「庭の花に水やりしない?」など、自然に体を動かすきっかけを声がけしてみましょう
- 週に1回は外出する機会をつくりましょう。目的は何でもかまいません
- ご本人が以前楽しんでいたことを一緒に思い出し、「またやってみない?」と提案してみてください
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この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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