この記事のポイント
- 介護保険の住宅改修費支給は上限20万円(自己負担1〜3割)で、手すり設置・段差解消など6種類の工事が対象です
- 福祉用具レンタルとは別枠の制度であり、併用することでより安全な住環境を実現できます
- 事前申請が必須です。工事を始めてから申請しても給付されません
- 20万円の枠は原則1回限りですが、要介護度が3段階以上上がった場合や転居した場合にリセットされます
- 作業療法士は住環境評価と動線分析に基づいて、優先度の高い改修箇所を提案できます
はじめに ── 福祉用具だけでは解決できないこと
前回の記事で、介護保険を使って福祉用具を借りたり買ったりできる制度をご紹介しました。しかし、福祉用具だけでは解決しにくいこともあります。
たとえば、壁にしっかりした手すりをつけたい、玄関の段差をなくしたい、浴室の床を滑りにくくしたい──こうした工事が必要なものは、「住宅改修」という別の制度で対応できます。
介護保険を使えば、上限20万円(自己負担は1割なら最大2万円)でこうした改修ができます。福祉用具のレンタル費用とは別枠なので、両方を組み合わせて使えます。
住宅改修の対象となる6種類の工事
介護保険の住宅改修で対象になる工事は、6種類です。
1. 手すりの取り付け
廊下、トイレ、浴室、玄関、階段などに手すりを設置する工事です。1か所あたり3〜8万円程度です。
ヒント
手すりは転倒予防の基本です。特にトイレ・浴室・玄関の3か所は優先度が高い場所です。
2. 段差の解消
玄関の段差をなくすスロープの設置や、部屋の間の敷居の撤去などです。1〜15万円程度です。
3. 床材の変更
浴室の床を滑りにくい素材に変えたり、畳をフローリングに変えたり(車椅子が使いやすくなります)する工事です。3〜10万円程度です。
4. 扉の交換
開き戸(押す/引くドア)を引き戸(横にスライドするドア)に変える工事です。車椅子の方や、片手が使いにくい方に便利です。5〜15万円程度です。ドアの取っ手をレバー式に変えるだけの工事(1〜3万円)もあります。
5. 洋式便器への交換
和式トイレを洋式トイレに変える工事です。ただし15〜30万円と高額になりやすく、20万円の枠をほとんど使ってしまいます。
注意
トイレの交換は高額です。他にも手すりや段差解消が必要な場合は、先に手すりと段差解消をして、トイレはポータブルトイレで対応するという方法もあります。ケアマネジャーに相談してみてください。
6. 上記に伴う工事
手すりをつけるための壁の補強工事や、便器交換に伴う給排水工事など、上の5つの工事に付随して必要になる工事も対象になります。
福祉用具との使い分け ── 迷ったときの判断基準
福祉用具と住宅改修、どっちを使えばいいの?
迷ったときの目安をご紹介します。
住宅改修がおすすめなのは- 壁にしっかり固定した手すりが必要なとき
- 段差そのものをなくしたいとき
- 車椅子生活のために床をフローリングにしたいとき
- 体の状態がこの先大きく変わらないと思われるとき
- 退院直後で、体の状態がまだ変わりそうなとき
- 引っ越す可能性があるとき
- まずは試してみたいとき
ヒント
「まずは福祉用具で試して、よければ住宅改修に切り替える」という方法がおすすめです。たとえば、まずは置くだけの手すりを借りてみて、場所が決まったら壁に固定する手すりに変える、というステップを踏めば失敗が少なくなります。
費用と上限額のルール
いくらまで使えるの?
- 上限は20万円です(介護度にかかわらず同じ)
- 自己負担は工事費の1割(所得に応じて2〜3割)
- 20万円の工事なら、自己負担はたった2万円(1割の場合)
一度に全部使わなくてOK
20万円を一度に使い切る必要はありません。たとえば、まず手すりの設置に8万円を使い、半年後に段差解消で6万円を使う、というように分けて使うことができます。
20万円が「もう一度使える」ケース
原則として20万円は1回きりですが、次の場合には改めて20万円が使えます。
- 介護度が大幅に上がった場合(3段階以上の上昇)
- 引っ越した場合(新しい家での改修として)
ヒント
「今は手すりだけで十分だけど、将来もっと必要になるかも」という場合は、20万円を使い切らずに残しておくのも賢い方法です。
申請の流れ ── 事前申請が絶対条件
手続きの流れ ── 「工事の前に」申請が必要です
住宅改修で最も大切なルールがあります。それは、工事を始める前に申請しなければならないということです。先に工事をしてしまうと、お金が戻ってきません。
ステップ1: ケアマネジャーに相談する「手すりをつけたい」「段差をなくしたい」とケアマネジャーに伝えます。ケアマネジャーがご自宅を見に来てくれます。
ステップ2: 理由書を作ってもらうケアマネジャーが「なぜこの改修が必要か」を書いた書類(理由書)を作成してくれます。
ステップ3: 市区町村に事前申請する理由書、工事の見積書、改修箇所の写真を市区町村に提出します。承認が下りるまで工事は始めません。
ステップ4: 工事をする承認が下りたら工事を行います。業者は一般の工務店でもOKです。複数の業者に見積もりを取るのがおすすめです。
ステップ5: 完了報告をする工事が終わったら、領収書と改修後の写真を市区町村に提出します。確認後、保険給付分(7〜9割)が振り込まれます。
注意
繰り返しになりますが、工事の前に必ず申請してください。先に工事をしてしまうと、介護保険からお金が出ません。「急いでいる」場合でも、まずケアマネジャーに電話して段取りを確認しましょう。
場所別 ── 改修の優先順位と費用シミュレーション
どこから改修すればいい?
20万円で全部をやるのは難しいこともあります。優先順位をご紹介します。
1番目: トイレ ── 1日に何度も使う場所です。手すりがあると立ち座りが安全になります。
2番目: 浴室 ── 家の中で最も滑りやすい場所です。段差の解消と手すりの設置が効果的です。
3番目: 玄関 ── 外出するための入り口です。手すりと段差対策で、外出が怖くなくなります。
4番目: 廊下 ── 特に寝室からトイレへの夜間の動線に手すりがあると安心です。
20万円でできることの例
例1: 手すりを4か所に設置- トイレ: 5万円
- 浴室: 7万円
- 玄関: 4万円
- 廊下: 4万円
- 合計20万円 → 自己負担2万円
- 浴室の段差解消: 6万円
- 浴室の手すり: 7万円
- トイレの手すり: 5万円
- 玄関の手すり: 2万円
- 合計20万円 → 自己負担2万円
ヒント
「20万円で足りるかな」と心配な方は、まず優先度の高い場所だけ改修して、残りの枠は後のために取っておくこともできます。
賃貸住宅での住宅改修
賃貸住宅でもできるの?
賃貸住宅でも介護保険の住宅改修は利用できます。ただし、大家さんの許可が必要です。
また、退去時に元に戻す費用(原状回復費用)は介護保険の対象外です。そのため、賃貸では次のような対応がおすすめです。
- 工事不要の福祉用具(置くだけの手すり、取り外せるスロープ)を中心にする
- 壁に固定する手すりは、本当に必要な場所だけに絞る
- 事前に大家さんに相談し、書面で許可をもらう
よくある疑問 Q&A
よくある疑問にお答えします
Q: どの業者に頼めばいいの?介護リフォームの経験がある工務店がおすすめですが、特に指定はありません。複数の業者に見積もりを取るのがよいでしょう。ケアマネジャーに紹介してもらうこともできます。
Q: あとから「もう1か所追加したい」と思ったら?20万円の枠が残っていれば、あとから追加の工事ができます。同じ手続き(事前申請→承認→工事→報告)を行います。
Q: 申請してから工事が終わるまで、どのくらいかかりますか?承認まで1〜2週間、工事の日程調整に1〜2週間、工事は1〜3日程度です。合計で約1か月を見ておくとよいでしょう。
Q: 福祉用具のレンタルや購入と一緒に使える?はい、使えます。住宅改修(20万円)と福祉用具購入(年間10万円)は別枠です。レンタルもまた別枠です。すべてを組み合わせて使えます。
まとめ
- 介護保険で手すり設置・段差解消・床材変更・扉交換・便器交換などの住宅改修ができます
- 上限は20万円。1割負担なら自己負担は最大2万円です
- 工事の前に必ず申請が必要です。先に工事をするとお金が出ません
- 20万円は分けて使えます。まずは優先度の高い場所だけ改修して、残りは後に取っておくこともできます
- 福祉用具のレンタル・購入とは別枠なので、組み合わせて使えます
住まいの安全は、ご本人の自信と、ご家族の安心につながります。「どこから手をつければいいかわからない」というときは、ケアマネジャーや作業療法士に相談してください。一緒に最善の方法を考えてくれます。
- まずケアマネジャーに電話:「住宅改修を考えている」と伝えるだけでOKです。ケアマネジャーがいない場合は、地域包括支援センターに相談しましょう
- 改修前の写真を撮っておきましょう:申請に必要です。改修したい場所の「今の状態」をスマートフォンで撮影しておくとスムーズです
- 複数の業者に見積もりを:同じ工事でも業者によって費用が異なります。「相見積もり」は遠慮なくお願いしましょう
- 「まず試してから」のアプローチ:置くだけの手すり(レンタル)で場所を試してから、壁付け手すり(住宅改修)に切り替えると失敗が少ないです