この記事のポイント
- 住宅内の転倒事故の約7割は「玄関・浴室・階段」の3か所に集中しています
- 介護保険の住宅改修費支給制度を使えば、上限20万円(自己負担1〜3割)で手すり設置や段差解消が可能です
- OTは実際の生活動作を観察し、本人に合った改修プランを提案できる専門職です
- この記事では7か所のチェックリストと、制度活用の手順をまとめています
住み慣れた家が「危険な場所」に変わるとき
「まさか自分の家で転ぶとは思わなかった」──退院後のご本人やご家族から、この言葉を聞くことは少なくありません。
厚生労働省の「国民生活基礎調査」によれば、要介護状態となった原因のうち「骨折・転倒」は全体の約13%を占め、認知症・脳血管疾患に次ぐ第3位です。そして、高齢者の転倒の多くは屋外ではなく住宅内で発生しています。
転倒・骨折が要介護原因に占める割合
住宅内で発生する高齢者転倒の割合
介護保険 住宅改修費の支給上限
転倒リスクが特に高い骨粗しょう症の方の環境調整と生活習慣については、骨粗しょう症の骨折予防で詳しく解説しています。
加齢や疾患によって身体機能が変化すると、これまで問題なく使えていた段差や手すりのない廊下が、突然リスクになります。しかし、住宅改修は「何を・どこに・どの程度」行うかが重要であり、闇雲に手すりをつけるだけでは効果が限定的です。
ここで力を発揮するのが、OTによる訪問アセスメントです。
高齢のご家族が暮らすお住まいに、「危ない場所」はありませんか。
高齢者の転倒事故の多くは、自宅の中で起きています。特に玄関・浴室・階段の3か所に事故が集中しています。
この記事では、ご家族と一緒にチェックできる安全確認リストと、介護保険を使った住宅改修の方法をお伝えします。住まいの見直しとあわせて、日々の習慣でできる対策は自宅でできる転倒予防の7つの習慣で紹介しています。
場所別・住宅内危険箇所チェックリスト
以下のチェックリストは、OTが訪問評価で確認する代表的な項目をまとめたものです。ご家族でも確認できる内容になっていますので、気になる箇所にチェックを入れてみてください。
1. 玄関
玄関は「上がりかまち」の段差が最大のリスクポイントです。
上がりかまちの段差が高い
段差が15cm以上ある場合は踏み台や式台の設置を検討します
靴の着脱時に身体を支える場所がない
壁に手すりがないと、片足立ちでバランスを崩しやすくなります
照明が暗い
足元が見えにくいと、段差の認識が遅れて転倒リスクが高まります
靴が散乱している
動線上の障害物は転倒の直接的な原因になります
玄関の段差は転倒が起きやすい場所です。以下の点を確認してみましょう。
段差が高くないですか?
上がりかまちの段差が高い場合は、踏み台を置くと安全です
靴を履くとき体を支える場所はありますか?
手すりや壁に手をつける場所があると安心です
照明は十分明るいですか?
足元が暗いと段差が見えにくくなります
靴や荷物が通り道に散らばっていませんか?
つまずきの原因になるので、整理しておきましょう
2. 廊下
幅が狭く、歩行補助具が通りにくい
車いすは最低78cm、歩行器は最低70cmの幅が必要です
手すりがない、または片側だけ
麻痺側に手すりがない場合、移動時の安全が確保できません
床材が滑りやすい
靴下やスリッパで歩いたとき滑る感覚があれば要注意です
夜間の足元灯がない
トイレへの移動時が最も転倒しやすい時間帯です
手すりはありますか?
廊下に手すりがあると、歩行が安定します
夜間の足元灯はありますか?
夜中のトイレの移動時に転びやすくなります。センサー式の足元灯がおすすめです
床は滑りやすくないですか?
靴下で歩いて滑る感じがあれば注意が必要です
3. 浴室
浴室は住宅内で最も転倒事故が多い場所の一つです。濡れた床面・裸足・温度変化という三重のリスクが重なります。
脱衣所と浴室の間に段差がある
わずか2〜3cmの段差でも、濡れた足では躓きやすくなります
浴槽のまたぎ高さが高い
浴槽縁が40cm以上の場合、出入り時のバランス崩壊リスクが高くなります
浴室内に手すりがない
立ち座り用(縦手すり)と移動用(横手すり)の両方が理想的です
床が滑りやすいタイルである
滑り止めマットや滑りにくい床材への変更を検討してください
シャワーチェアがない
立位での洗体が不安定な場合、座って行える環境が必要です
ヒートショックにも注意
浴室の安全対策では転倒予防だけでなく、脱衣所と浴室の温度差によるヒートショックにも注意が必要です。脱衣所に暖房器具を設置し、温度差を5度以内に抑えることが推奨されています。
浴室は最も転倒しやすい場所です。濡れた床、裸足、温度変化が重なります。
浴槽のまたぎは高すぎませんか?
浴槽の縁が高いと、出入りのときにバランスを崩しやすくなります
浴室に手すりはありますか?
立ち上がりや移動のとき、体を支える手すりがあると安全です
床は滑りやすくないですか?
滑り止めマットを敷くだけでも効果があります
座って体を洗える椅子はありますか?
シャワーチェアがあると、立って洗うより安全です
ヒートショックにも注意
冬場は脱衣所と浴室の温度差で体に大きな負担がかかります。脱衣所に暖房器具を置いて、温度差を5度以内に抑えましょう。
4. トイレ
便座が低すぎる
膝が股関節より高い位置にくると、立ち上がりが困難になります。補高便座で調整可能です
手すりがない
立ち上がり補助の手すり(L字型)が最も効果的です
ドアが内開きである
中で倒れた場合にドアが開けられなくなるため、外開きか引き戸への変更が望まれます
スリッパの履き替えがある
履き替え動作でバランスを崩すリスクがあります
便座の高さは合っていますか?
低すぎると立ち上がりが大変です。補高便座で高さを調整できます
手すりはありますか?
L字型の手すりがあると立ち上がりが楽になります
ドアは外開きか引き戸ですか?
内開きだと、中で倒れたときにドアが開けられなくなる危険があります
5. 寝室
ベッドの高さが合っていない
端座位で足底が床にしっかり着く高さ(概ね40cm前後)が理想的です
ベッドから手の届く位置に照明スイッチがない
暗闇での移動は転倒リスクを大幅に高めます
ベッド周囲にコード類がある
電源コードや延長コードは足に引っかかる原因になります
ベッドからトイレまでの動線に障害物がある
夜間頻尿がある場合、動線の安全確保は最優先事項です
ベッドの高さは合っていますか?
座ったとき足が床にしっかりつく高さがちょうどよいです
ベッドのそばに照明のスイッチはありますか?
暗い中で動くと転倒の危険が高まります
ベッドからトイレまでの通り道に物はありませんか?
夜中にトイレに行くときの安全を確保しましょう
6. キッチン
高い棚に日常使いの食器がある
踏み台に乗る動作は転倒リスクが高く、手の届く範囲への配置換えが基本です
床に油はねや水はねが残りやすい
キッチンマットの固定や、こまめな拭き取りの習慣化が有効です
ガスコンロの消し忘れがある
認知機能の低下がある場合、IHへの変更も選択肢の一つです
よく使う食器は手の届く場所にありますか?
高い棚にある食器を取ろうとして転倒する事故があります
床が滑りやすくないですか?
油はねや水はねはこまめに拭きましょう
火の消し忘れはありませんか?
心配な場合は、IHコンロへの変更も検討してみてください
7. 階段
手すりが片側にしかない
上り下りの両方で身体を支えるには、両側設置が望ましいです
段鼻(だんばな)が見えにくい
段の先端に色の違うテープを貼るだけで視認性が大幅に向上します
照明が不十分
階段の上下両方にスイッチがある3路スイッチが理想的です
勾配が急である
勾配の変更は大規模工事になるため、まずは手すりの設置と照明改善から始めます
手すりは両側にありますか?
片側だけだと、体の状態によって使いにくいことがあります
段の先端が見えやすいですか?
色の違うテープを貼るだけで、段差がわかりやすくなります
照明は十分ですか?
階段の上と下の両方にスイッチがあると便利です
OTが行う訪問アセスメントとは
住宅改修で最も大切なのは、「本人がその家でどう暮らしたいか」を起点に考えることです。OTの訪問アセスメントでは、単に危険箇所を指摘するだけでなく、本人の身体機能・認知機能・生活習慣・将来の変化を総合的に評価します。
事前情報の収集
- 1医療情報(疾患名・障害の程度・服薬状況)の確認
- 2本人・家族の希望と困りごとのヒアリング
- 3現在のADL・IADL能力の把握
実際の動作観察
- 4玄関の出入り動作の確認
- 5トイレ・浴室での一連の動作を実際に行ってもらう
- 6階段昇降・廊下歩行の安全性を評価
- 7家事動作(調理・洗濯など)の確認
環境評価と改修提案
- 8各居室の段差・幅員・手すり位置を計測
- 9本人の動作パターンに合わせた改修プランを作成
- 10優先順位をつけて段階的な改修を提案
- 11福祉用具との組み合わせも検討
施工後のフォローアップ
- 12改修後に再訪問し、使い勝手を確認
- 13必要に応じて福祉用具の追加・調整
- 14本人・家族への使用方法の指導
住宅改修は、手すりを付けることが目的ではありません。その人がその家で、その人らしい暮らしを続けられることが目的です。
— 訪問リハビリテーション実践ガイド(日本作業療法士協会)
OTのアセスメントが特に重要になるのは、以下のようなケースです。
- 退院直後で、自宅での生活動作に不安がある場合
- 疾患の進行により、今後さらに身体機能の低下が予測される場合
- 認知症があり、環境の変化に対する適応力を考慮する必要がある場合
- 家屋の構造上、標準的な改修では対応しにくい場合
作業療法士に相談するとどうなるの?
作業療法士(OT)にお住まいの安全を見てもらうと、以下のようなことをしてくれます。
- ご本人の体の状態を確認します
- 実際に動作を見て、どこが危ないかを判断します
- ご家族の予算や希望に合わせて、改修の優先順位を提案してくれます
- 工事後に再確認して、使い勝手を調整してくれます
ケアマネジャーやかかりつけ医に「住まいの安全を見てほしい」と伝えると、OTの訪問を手配してもらえます。
介護保険を使った住宅改修制度
制度の概要
介護保険の被保険者で要支援1〜2、または要介護1〜5の認定を受けている方は、住宅改修費の支給を受けることができます。
1人あたりの支給上限額(税込)
自己負担割合(所得に応じて)
対象となる改修工事の種類
対象となる6種類の工事
手すりの取り付け
廊下・トイレ・浴室・玄関など、転倒予防と移動補助のための手すり設置
段差の解消
スロープの設置、敷居の撤去、床のかさ上げなど
滑り防止のための床材変更
浴室の床をノンスリップタイルに変更するなど
引き戸等への扉の取り替え
開き戸を引き戸やアコーディオンカーテンに変更
洋式便器等への取り替え
和式から洋式への変更、補高便座の設置
上記に付帯して必要な工事
手すり設置のための下地補強、床材変更に伴う工事など
申請の流れ
ケアマネジャーに相談
まず担当のケアマネジャーに住宅改修の希望を伝えます。OTの訪問評価を依頼することも可能です。
事前申請書類の提出
住宅改修が必要な理由書(ケアマネジャーまたはOTが作成)、見積書、改修前の写真を市区町村に提出します。
市区町村の承認
事前申請の内容が審査され、承認通知が届きます。承認前に着工すると支給対象外になるため注意が必要です。
施工・完了
承認後に工事を行います。施工業者は介護保険の指定がなくても利用できます。
事後申請・支給
工事完了後に領収書、完成後の写真などを提出し、支給を受けます。償還払い(一旦全額を支払い、後から給付分が返金)が原則です。
事前申請が必須です
住宅改修費の支給を受けるためには、工事着工前に市区町村へ事前申請を行い、承認を得る必要があります。承認前に工事を始めてしまうと、全額自己負担になる可能性がありますのでご注意ください。
「理由書」はOTに依頼できます
住宅改修の事前申請に必要な「住宅改修が必要な理由書」は、ケアマネジャーだけでなくOTやPTも作成できます。リハビリ専門職が作成することで、身体機能に基づいた具体的な改修理由を記載でき、審査がスムーズに進むことがあります。
介護保険で住宅改修ができることを知っていますか?
要支援・要介護の認定を受けている方は、介護保険を使って住宅改修ができます。
- 上限は20万円(自己負担は1〜3割なので、実質2〜6万円程度)
- 手すり設置、段差解消、滑り止め床材への変更、引き戸への変更、洋式便器への変更が対象です
- 工事前に必ず市区町村に申請が必要です(申請前に工事すると全額自己負担になります)
手順を間違えないように
住宅改修は「申請してから工事」の順番が大切です。先に工事をしてしまうと、介護保険の支給が受けられません。まずはケアマネジャーに相談してください。
介護保険の申請方法や、住宅改修以外に利用できるサービスの全体像は、介護保険で使えるサービス一覧と申請の流れで詳しく解説しています。
具体的な改修事例
事例1: 脳卒中後の片麻痺(70代男性)
状況: 右片麻痺で杖歩行。自宅は築35年の木造住宅。浴室のまたぎが高く、トイレは和式。
OTの評価: 浴室の出入りとトイレ動作に最もリスクが高いと判断。玄関の上がりかまちも段差が20cmあり、手すりなしでは危険。
改修内容:
- 浴室に縦手すり2本と横手すり1本を設置(約4万円)
- トイレを和式から洋式に変更(約10万円)
- 玄関に手すりと踏み台を設置(約3万円)
- 廊下に手すりを連続設置(約3万円)
- 合計約20万円(自己負担1割で約2万円)
事例2: パーキンソン病による歩行障害(80代女性)
状況: すくみ足があり、特に狭い場所や方向転換時に転倒リスクが高い。
OTの評価: パーキンソン病の進行を見据え、将来的な車いす使用も想定した改修を提案。
改修内容:
- 各居室間の敷居を撤去し段差を解消(約5万円)
- トイレのドアを引き戸に変更(約5万円)
- 浴室入口の段差解消と手すり設置(約6万円)
- 廊下の手すりを両側に設置(約4万円)
- 合計約20万円(自己負担1割で約2万円)
3段階の要介護度が上がった場合は再度利用可能
住宅改修費の上限20万円を使い切った場合でも、要介護度が3段階以上重くなった場合(例: 要支援1から要介護3へ)は、再度20万円の枠がリセットされます。また、転居した場合も改めて利用可能です。
実際にどんな改修ができるの?
たとえば以下のような改修が、介護保険の20万円の範囲でできます。
- 浴室に手すりを3本設置(約4万円)
- 和式トイレを洋式に変更(約10万円)
- 玄関に手すりと踏み台を設置(約3万円)
- 廊下に手すりを設置(約3万円)
合計約20万円で、自己負担が1割の場合は約2万円で済みます。
改修だけに頼らない──福祉用具との組み合わせ
住宅改修は一度行うと元に戻しにくいという特徴があります。身体機能が変化する可能性がある場合は、福祉用具のレンタルと組み合わせることで柔軟に対応できます。
| 場所 | 住宅改修 | 福祉用具(レンタル・購入) |
|---|---|---|
| 浴室 | 手すり設置・床材変更 | シャワーチェア・浴槽台・すのこ |
| トイレ | 手すり設置・扉の変更 | 補高便座・ポータブルトイレ |
| 寝室 | ─ | 介護用ベッド・ベッド柵 |
| 玄関 | 手すり設置・段差解消 | 玄関用踏み台(据え置き型) |
| 階段 | 手すり設置 | ─ |
福祉用具のレンタルは介護保険の対象であり、月額の1〜3割負担で利用できます。OTは住宅改修と福祉用具の両方に精通しているため、最もコストパフォーマンスの高い組み合わせを提案できます。
福祉用具も活用しましょう
住宅改修のほかに、福祉用具のレンタルも介護保険で利用できます。
- シャワーチェア(浴室で座って体を洗える椅子)
- 補高便座(トイレの座面を高くする道具)
- 介護用ベッド(高さ調整ができるベッド)
工事をしなくても、福祉用具を使うだけで安全になることも多いです。担当のケアマネジャーやOTに相談してみてください。
まとめ
- 住宅内の転倒は「玄関・浴室・階段」に集中しており、チェックリストで事前に危険箇所を把握することが重要です
- 介護保険の住宅改修制度を利用すれば、上限20万円(自己負担1〜3割)で手すり設置や段差解消が可能です
- 事前申請が必須であり、承認前の着工は支給対象外になります
- OTは本人の身体機能と生活動作を評価し、真に必要な改修を見極める専門家です
- 住宅改修と福祉用具のレンタルを組み合わせることで、柔軟かつ経済的な環境整備が実現します
- 「手すりを付ける」ことが目的ではなく、「その人らしい暮らしを続ける」ことが目的であることを忘れないでください
高齢のご家族が安全に暮らし続けるために、お住まいの安全チェックはとても大切です。
- 玄関・浴室・トイレ・階段を中心にチェックリストで確認してみましょう
- 介護保険の住宅改修制度を使えば、自己負担2〜6万円程度で手すり設置や段差解消ができます
- 改修の前に、まずはケアマネジャーに相談してください。OTの訪問も依頼できます
- 「工事前に申請」の順番を必ず守りましょう
- まずは今日、この記事のチェックリストを見ながら、ご家族と一緒にお住まいの安全を確認してみてください
- 気になる箇所が見つかったら、ケアマネジャーやお住まいの市区町村の窓口に相談しましょう
- すぐにできる対策として、足元灯の設置・通り道の整理整頓・滑り止めマットの設置から始めてみてください
参考文献・ガイドライン
- 厚生労働省「国民生活基礎調査」(2022年)
- 厚生労働省「介護保険における住宅改修の手引き」
- 東京消防庁「救急搬送データからみた日常生活事故の実態」
- 日本作業療法士協会「訪問リハビリテーション実践ガイド」
- Clemson L, et al. "Environmental interventions for preventing falls in older people living in the community." Cochrane Database Syst Rev. 2023.
- 村田伸ほか「在宅高齢者の転倒予防に関する住宅改修の効果」日本作業療法研究学会雑誌, 2021.
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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