この記事のポイント
- 病院でできていたことが自宅でできなくなるのは珍しくありません。環境の違いが大きな原因です
- 病院はリハビリに最適化された環境であり、自宅環境とは大きく異なります
- 退院前に自宅環境の評価と調整を行うことで、このギャップを最小限にできます
「病院ではできていたのに」という戸惑い
「病院ではトイレも一人で行けたのに、家に帰ったらできない」「病院ではお風呂に入れていたのに、自宅の浴室では無理だった」──こんな経験をされた方は少なくありません。
これはご本人の努力が足りないのではなく、環境が違うからです。
病院と自宅の環境はこんなに違う
病院と自宅は、環境が大きく違います。
- 病院のトイレは手すり完備 → 自宅のトイレは手すりなし
- 病院の廊下は広くて平坦 → 自宅の廊下は狭くて段差がある
- 病院のベッドは電動で高さ調整できる → 自宅のベッドや布団は低い
- 病院は24時間スタッフがいる → 自宅は家族だけ
「できていたこと」が「できなくなった」のではなく、「違う環境ではやり方が変わる」のです。
退院後にできることが減る5つの理由
1. 環境の不一致
病院で練習した動作が、自宅では段差や狭さのせいでできないことがあります。環境が違えば、やり方も変える必要があるのです。
2. 家族の過剰介助
「危ないから手伝う」「かわいそうだからやってあげる」──この気持ちはわかります。でも、ご本人ができることまでやってしまうと、体がさらに弱くなってしまいます。
「見守り」と「手助け」のバランスが大切です。
3. 活動量の低下
病院では毎日決まった時間にリハビリがありました。自宅に戻ると、その時間がなくなります。テレビの前で一日中過ごしてしまい、体がさらに弱くなることがあります。
4. 心理的な変化
自宅に戻ると、「以前の自分」との差を痛感することがあります。「この家ではこんなこともできたのに」という喪失感が、やる気を奪うことがあります。
5. 在宅リハビリの不足
病院では毎日リハビリがありましたが、自宅では週に1〜2回に減ります。だからこそ、リハビリ以外の時間に自分でできる運動(自主トレーニング)を続けることが大切です。
退院前にやっておくべきこと
1. 自宅の環境を見てもらう
退院前に、OTがご自宅を訪問して環境を確認してくれます。「退院前訪問指導」と呼ばれるサービスで、手すりの設置場所や段差の解消方法をアドバイスしてもらえます。
2. 自宅を想定した練習
病院のリハビリ室で、自宅の環境を再現して練習することができます。「うちのトイレはこんな形です」と伝えると、それに合わせた練習をしてもらえます。
3. 必要な道具を準備する
- 手すり: トイレ、浴室、廊下に
- シャワーチェア: 座ったまま体を洗える
- 電動ベッド: 起き上がりが楽になる(レンタルもあります)
- 歩行器・杖
4. 退院後のリハビリを手配する
- 訪問リハビリ: OTが自宅に来てくれます
- 通所リハビリ(デイケア): 施設に通ってリハビリを受けます
ケアマネジャーに相談すれば、手配してもらえます。
トイレ、浴室、廊下、玄関、寝室の写真をスマートフォンで撮って、リハビリスタッフに見せてください。自宅の環境がわかると、退院前の練習がより実践的になります。段差の高さも定規をあてて撮ると、より正確な情報が伝わります。
退院後の生活で気をつけること
やりすぎない介助
ご本人が時間がかかっても、できることは自分でやってもらうことが大切です。危ないときだけ手を出し、それ以外は「見守り」を心がけてください。
日中の過ごし方を工夫する
テレビの前で一日中過ごさないように、1日のスケジュールを決めましょう。
- 朝: 起床、身支度、朝食
- 午前: 自主トレーニング、家事の手伝い
- 午後: 趣味活動、散歩
- 夕方: 入浴、夕食
リハビリを続ける
退院したらリハビリが終わりではありません。訪問リハビリや通所リハビリを利用して、継続的にリハビリを受けましょう。
ヒント
退院後のリハビリサービスは介護保険で利用できます。まだ介護保険の申請をしていない方は、入院中に病院のソーシャルワーカーに相談してください。退院前に申請しておくと、退院後すぐにサービスを利用できます。
ご家族の方へ ── 大切なポイントのまとめ
- 退院後にできることが減るのは珍しくありません。環境の違いが原因です
- 退院前に自宅の写真をリハビリスタッフに見せて、環境に合わせた練習をしましょう
- 手すりやシャワーチェアなどの環境調整は退院前に準備してください
- できることまでやってあげず、「見守り」を心がけましょう
- 退院後も訪問リハビリや通所リハビリを活用して、リハビリを継続しましょう
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
運営者プロフィールを見る →