この記事のポイント
- 記憶障害には種類があり、それぞれに合った代償戦略(補う工夫)があります
- メモ・カレンダー・アラームなどの「外的代償手段」と、チャンキング・ルーティン化などの「内的代償手段」を組み合わせることが効果的です
- 家族は「答えを教える」より「ヒントを出す」関わり方が、ご本人の自立を支えます
「忘れてしまう」は珍しいことではありません
脳卒中や事故の後遺症、認知症などで「忘れっぽくなった」と困っているご家族はいませんか。
記憶の問題は「すべてを忘れる」わけではありません。記憶にはいくつかの種類があり、どの記憶が苦手になっているかによって、サポートの方法が変わります。
作業療法士(OT)は、暮らしの中の「困りごと」に注目し、実生活で使える工夫を一緒に考えてくれる専門家です。
知っておきたい記憶の3つの種類
記憶にはいくつかの種類があります。どれが苦手になっているかを知ると、サポートの仕方が見えてきます。
- 短期記憶: さっき聞いたことをすぐ忘れてしまう(例: 電話番号を聞いてもすぐ忘れる)
- 展望記憶: 未来の予定を覚えておけない(例: 薬の飲み忘れ、約束を忘れる)
- 手続き記憶: 体で覚えた動作の記憶(例: 自転車の乗り方)。これは比較的保たれやすいのが特徴です
展望記憶の障害は、薬の飲み忘れやゴミ出しの忘れなど、日常生活への影響がとくに大きいものです。
外的代償手段 ── 「道具の力」で記憶を補う
記憶を「鍛えて治す」ことが難しい場合でも、道具の力で補うことができます。
メモ・ノートを活用する
- 書く場所は1冊のノートに決めるのがコツです
- 「日付」「内容」「いつまでに」をセットで書く習慣をつけましょう
- メモ帳は持ち運びやすいサイズがおすすめです
カレンダーを活用する
- リビングなど目につく場所に壁掛けカレンダーを掲示しましょう
- 色分けすると見やすくなります(通院=赤、ゴミ出し=青 など)
- 毎朝一緒にカレンダーを確認する習慣をつくると効果的です
スマホのアラーム・リマインダー
- 薬の時間にアラームを設定する
- 繰り返し機能で毎日のルーティンを管理する
- お使いのスマホのカレンダーアプリも活用してみてください
写真で手順を残す
洗濯機や電子レンジなどの操作手順を写真に撮って近くに貼っておくと、一人でも操作しやすくなります。
メモを書くことは覚えても、「メモを見返す」ことを忘れてしまうことがあります。玄関のドアや冷蔵庫など、必ず目に入る場所にメモ帳の置き場所を決めたり、食事の前にメモを確認するルーティンにしたりすると効果的です。
内的代償手段 ── 「覚え方の工夫」で記憶を助ける
道具だけでなく、「覚え方の工夫」も効果的です。
- 情報をまとめる: 買い物リストを「野菜」「肉」「調味料」とカテゴリ分けすると覚えやすくなります
- イメージと結びつける: 人の名前を覚えるとき、その人の特徴と名前をセットでイメージすると記憶に残りやすくなります
- 毎日の流れを決める: 「起きたら→顔を洗う→薬を飲む→朝ごはん」のように、毎日同じ順番で行動する習慣をつくると、体が覚えてくれます
ルーティン化は、記憶障害のある方にとってとくに有効な方法です。一つの行動が次の行動のきっかけになるため、「次に何をするか」を考えなくても自然に動けるようになります。
環境調整 ── 「探さなくてよい」暮らしをつくる
「ものを探す」ことは記憶障害のある方にとって大きなストレスです。「探さなくてよい」暮らしをつくる工夫を紹介します。
- ものの定位置を決める: 鍵・財布・携帯は玄関の決まった場所に置く。家族全員でルールを共有しましょう
- ラベルを貼る: 引き出しや収納ボックスに「何が入っているか」を書いたラベルを貼りましょう。写真付きだとさらにわかりやすくなります
- よく使うものは見える場所に: 引き出しの中に隠すと見つけられないことがあります。見える場所に出しておくのが基本です
玄関に小さなトレーを一つ置いて、帰宅したら鍵・財布・携帯をそこに入れるルールをつくってみてください。家族全員で同じルールにすると、自然に習慣化しやすくなります。100円ショップのトレーで十分です。
家族の関わり方 ── 「答えを教える」より「ヒントを出す」
ご家族の関わり方一つで、ご本人の自立度は大きく変わります。
「答え」ではなく「ヒント」を出しましょう
「昨日何を食べた?」と聞いて答えられないとき、すぐに「カレーだよ」と教えるのではなく、段階的にヒントを出してみてください。
- 「ご飯ものだったよ」(カテゴリのヒント)
- 「スーパーで材料を買ったよね」(状況のヒント)
- 「"カ"から始まるよ」(最初の文字のヒント)
ご本人が自分で思い出す体験が、自信の回復につながります。
「何度も同じことを聞く」ときは
同じ質問を繰り返されるとイライラしてしまうのは自然なことです。でも、ご本人は「聞いたこと自体を覚えていない」のです。
- 「さっき言ったでしょ」と責めない
- 毎回初めて聞かれたように答える
- メモに書いて渡し、「ここに書いてあるよ」と促す
叱責は逆効果です
「何回言えばわかるの」という叱責は、ご本人の自尊心を傷つけ、不安やうつを悪化させてしまいます。忘れてしまうのは本人の努力不足ではなく、脳の機能の問題です。
ご家族自身も休んでください
同じことを何度も聞かれる毎日は、ご家族にとっても大きなストレスです。介護者の会で気持ちを共有したり、レスパイトサービスを利用したりして、ご自身の休息も大切にしてください。
作業療法士に相談してみませんか
OTは記憶障害のある方の暮らしを総合的にサポートできます。
- ご本人に合ったメモやアラームの使い方を一緒に練習します
- 自宅の環境を「探さなくてよい暮らし」に調整する提案をします
- ご家族への声かけや関わり方のアドバイスも行います
「忘れてしまう」ことで困っていたら、お近くのリハビリテーション施設や地域包括支援センターに相談してみてください。
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。