この記事のポイント
- 栄養不良の状態でリハビリを行っても効果は限定的。「リハビリ栄養」の視点が不可欠
- サルコペニアの予防・改善には、適切なタンパク質摂取と運動の組み合わせが重要
- アルブミンは「低栄養の指標」ではなく「炎症の代替指標」。単独で栄養状態を判断しない
- OTは食事場面の評価を通じて栄養リスクを発見し、管理栄養士と連携する役割を担う
なぜOTが栄養を考えるのか
リハビリテーション栄養(Rehabilitation Nutrition)は、若林秀隆らが「リハビリテーションと栄養管理を組み合わせて機能を最大化する」概念として提唱し、国際誌でも整理されてきた分野です。「栄養管理なくしてリハビリなし」という言い方が広まりつつあります。
しかし、リハビリ専門職が栄養状態を十分にアセスメントしているかというと、必ずしもそうとは言えません。OTは食事場面を直接観察する機会を持つ唯一のリハビリ職種であり、栄養リスクの早期発見において重要な役割を果たせます。
リハビリを頑張っていても、しっかり食べていなければ効果は出にくいのです。
筋力訓練をしても、筋肉をつくるための栄養(特にタンパク質)が足りなければ、筋肉はつきません。体力をつけたくても、カロリーが足りなければエネルギーが出ません。
「食べること」もリハビリの大切な一部です。
低栄養がリハビリに与える影響
入院患者の低栄養は、世界的に有病率20〜50%と見積もられています。ただし、この幅の大きさは実態のばらつきだけでは説明できません。どの評価ツールを使うかによって、判定される割合が大きく変わるからです。たとえばアフリカの病院を対象としたスコーピングレビュー(28研究)では、使われたスクリーニングツールの違いによって「低栄養リスクあり」が23〜74%、診断基準の違いによって「低栄養」が8〜85%とばらついていました。したがって「◯%が低栄養」という数字は、必ずツールとセットで読む必要があります。
より現場に近い数字としては、リハビリテーション栄養の概念を整理した2014年の総説報告で、リハビリテーションを受けている高齢入院患者の低栄養は49〜67%、サルコペニアは40〜46.5%と示されています。低栄養がリハビリに与える影響は深刻です。
- 筋力低下: タンパク質の異化が亢進し、筋肉量が減少
- 免疫力低下: 感染症リスクの増大
- 創傷治癒の遅延: 褥瘡の治癒が遅れる
- 疲労感の増大: リハビリへの参加意欲が低下
- 認知機能への影響: 集中力・注意力の低下
- ADL回復の遅延: 退院が長期化
低栄養とサルコペニアは、リハビリテーションの予後や身体機能の悪さと繰り返し関連づけられています。そのため実務では、訓練による消費エネルギーも見込んだうえで摂取量を設定するという考え方が取られます(これは臨床上の原則であり、介入試験で検証された数値があるわけではありません)。「低栄養のままリハビリを行うと必ず筋肉が分解される」と断定できるだけの介入研究は確認できませんでしたが、摂取量を確認せずに強度だけを上げないという原則は守るべきです。
栄養が足りていないと、リハビリの効果が出にくくなります。
- 筋肉がつかない: いくら運動しても、材料(タンパク質)がなければ筋肉はつきません
- 疲れやすい: エネルギー不足でリハビリに集中できません
- 傷の治りが遅い: 床ずれや手術の傷の回復が遅れます
- 病気にかかりやすい: 免疫力が下がります
注意
栄養が足りていない状態で激しいリハビリを行うと、逆に筋肉が減ってしまうことがあります。食事量が減っている場合は、リハビリの強度を調整する必要があります。
サルコペニアと栄養
サルコペニアは、加齢に伴う筋肉量の減少と筋力低下を特徴とする状態で、ADLの自立度に直結します。
サルコペニアの分類
- 一次性サルコペニア: 加齢のみが原因
- 二次性サルコペニア: 活動低下、疾患、栄養不良が原因
栄養面からの介入
- タンパク質: PROT-AGE study group は、65歳を超える高齢者に体重1kgあたり1.0〜1.2g/日、運動習慣のある人には1.2g/日以上、急性・慢性疾患のある人には1.2〜1.5g/日を推奨しています
- ロイシン: 分岐鎖アミノ酸の一つで、筋タンパク合成の刺激に関与すると考えられています。ただし「1食あたり何g」という閾値は、高齢者向けの公的な推奨として確立していません
- ビタミンD: 筋力維持に関与。不足している高齢者が多い
- 十分なエネルギー摂取: エネルギーが不足すると、摂取したタンパク質が筋の合成ではなくエネルギー源に回されます
リハビリとの組み合わせ
タンパク質摂取とレジスタンス運動の組み合わせが、筋肉量・筋力の改善に有効とされています。
注意
「運動後30分以内に摂らないと効果がない」という、いわゆるアナボリック・ウィンドウの考え方は見直されています。RCTを統合したメタ回帰分析(筋力20研究・筋肥大23研究)では、共変量を調整すると摂取タイミングによる筋力・筋肥大の差は認められず、筋肥大の効果量を最もよく説明したのは1日の総タンパク質摂取量でした。臨床ではタイミングの厳密さより、1日の総摂取量を確保することを優先してください。
サルコペニアは、筋肉が減って体の力が弱くなる状態です。高齢者に多く、立ち上がりや歩行が困難になる原因の一つです。
筋肉を守る食事のポイント
- タンパク質を毎食とる: 肉、魚、卵、大豆製品、乳製品を毎食1品は取り入れる
- 3食きちんと食べる: 朝食を抜くと筋肉が減りやすくなります
- ビタミンDを意識する: 魚(鮭、さんまなど)やきのこ類に含まれます
目安は毎食、手のひらサイズのおかず1品。卵1個、納豆1パック、魚の切り身1切れ、肉60〜80g程度です。食が細い方は、牛乳やヨーグルトを間食に取り入れるのも効果的です。
OTが見るべき栄養指標
OTが日常的にチェックすべき栄養関連の指標を以下に示します。
身体計測
GLIM基準(低栄養診断の国際コンセンサス)に沿って整理すると、次のようになります。
- BMI: アジア人では70歳未満で18.5未満、70歳以上で20未満が低BMIの基準(アジア以外では20未満/22未満)
- 体重変化: 過去6か月で5%超、または6か月を超える期間で10%超の意図しない減少が診断基準。うち6か月で10%超、または6か月超で20%超は重度(Stage 2)に相当します
- 下腿周囲長: 男性34cm未満、女性33cm未満。これはAWGS 2019 が示すサルコペニアのスクリーニング用のカットオフで、これ単独で診断するものではありません
- 上腕周囲長: 筋肉量の簡便な指標
なお、GLIM基準では低栄養の診断に表現型の基準(体重減少・低BMI・筋肉量減少)と病因の基準(摂取量減少・炎症/疾患負荷)の両方が必要です。体重減少だけ、BMIだけでは診断になりません。
血液検査データ
重要
アルブミンを「低栄養の指標」として単独で読むのは、現在の国際コンセンサスとずれています。GLIM基準では、CRP・アルブミン・プレアルブミンはいずれも「炎症を支持する代替指標」として位置づけられており、低栄養そのものの診断基準には入っていません。アルブミンが低いことは、栄養が足りていないことよりも炎症が起きていることを示している場合が多いのです。
- 血清アルブミン: 低値は炎症の存在を示唆する。栄養状態の指標として単独で解釈しない
- プレアルブミン(トランスサイレチン): 半減期が短く変化が早く出るが、これも炎症の影響を強く受ける
- リンパ球数: 免疫・栄養状態の参考値。同じく単独では判断しない
これらの値は「栄養が足りているか」ではなく「炎症があるか」を教えてくれる指標として読み、判断は体重変化・摂取量・筋肉量と組み合わせて行ってください。
食事場面の観察
OTが最もアドバンテージを持つ評価です。
- 食事摂取量: 主食・副食のどれくらいを残しているか
- 食事にかかる時間: 30分以上かかる場合は疲労や嚥下の問題を疑う
- 食欲・嗜好の変化
- 義歯の適合: 咀嚼に影響する
- 食事姿勢: 不適切な姿勢は摂取量低下の原因
ご家族が注意すべきサインがあります。
- 体重が減っている: 半年のあいだに体重の5%以上(体重60kgの方なら約3kg以上)減っていたら要注意です
- 食事を残すことが増えた: 以前より食べる量が減った
- 食事に時間がかかる: 30分以上かかるようになった
- ベルトがゆるくなった: 知らないうちにやせている可能性
- 疲れやすい・ぼーっとする: エネルギー不足のサイン
これらのサインに気づいたら、OTや主治医、管理栄養士に相談してください。
管理栄養士との連携
OTと管理栄養士の連携ポイントは以下の通りです。
OTから管理栄養士への情報提供
- 食事場面での摂取量・食べ方の観察結果
- 食事動作の自立度(自助具の使用状況を含む)
- リハビリの強度と消費エネルギーの見込み
- 嚥下機能の評価結果(必要に応じてSTとも連携)
管理栄養士からOTへの情報提供
- 必要エネルギー量とタンパク質量
- 栄養補助食品の選定
- 食形態の推奨
- リハビリ前後の補食のタイミング
カンファレンスでの共有
栄養サポートチーム(NST)がある施設では、定期的なカンファレンスで情報を共有します。NSTがない場合でも、管理栄養士との日常的なコミュニケーションを心がけましょう。
栄養について心配なことがあれば、管理栄養士に相談できます。
- 入院中は病院の管理栄養士に相談
- 在宅では訪問栄養指導というサービスがあります(医師の指示が必要)
- ケアマネジャーに「栄養のことを相談したい」と伝えてください
OTと管理栄養士が連携することで、リハビリに合わせた最適な食事プランを立てることができます。
食事摂取量を増やす工夫
食欲がない方の食事量を増やす工夫です。
- 少量・高カロリー: 量を減らしてカロリーを上げる(バター、オリーブオイル、チーズの活用)
- 好きなものを優先: 完璧な栄養バランスより、まず食べることが大切
- 間食の活用: ヨーグルト、プリン、栄養補助飲料を間食に
- 食事の回数を増やす: 3食にこだわらず、5〜6回に分けて少量ずつ
- 食事の環境: 一緒に食べる、食卓の雰囲気を整える
食事量が少ない方には、市販の栄養補助飲料が便利です。少量でエネルギーとタンパク質を補えるように作られていますが、含まれる量は製品によって異なります。パッケージの栄養成分表示を確認するか、管理栄養士に相談して選んでください。間食やおやつ代わりに取り入れるのが続けやすい方法です。
食事摂取量の改善には、OTとしての食事環境調整が重要です。姿勢、自助具、食事のペース、環境の快適さなど、総合的にアプローチすることで摂取量の改善につながります。
まとめ ── リハビリと栄養のポイント
- 栄養が足りない状態でリハビリをしても効果は限定的。食事とリハビリはセットです
- タンパク質は1日の総量の確保が最優先。「運動後30分以内」というタイミング神話にとらわれる必要はありません
- 半年で体重の5%以上減っていたら、低栄養を疑って評価を進めましょう
- アルブミンは炎症の指標です。栄養状態は体重変化・摂取量・筋肉量と合わせて判断します
- OTは食事場面を観察できる唯一のリハビリ職種。栄養リスクの発見に貢献できます
- Wakabayashi H, Sakuma K. Rehabilitation nutrition for sarcopenia with disability. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2014;5(4):269-277(リハビリテーション栄養の概念、リハ対象高齢入院患者の低栄養49〜67%・サルコペニア40〜46.5%)
- Visser J, Cederholm T, Philips L, Blaauw R. Prevalence and related assessment practices of adult hospital malnutrition in Africa: A scoping review. Clin Nutr ESPEN. 2024;62:121-132(アフリカの病院28研究のスコーピングレビュー。入院患者の低栄養は世界的に20〜50%と推定、リスク23〜74%・低栄養8〜85%とツールにより変動)
- Cederholm T, et al. GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2019;10(1):207-217(体重減少・低BMIの基準、重症度分類、アルブミンの位置づけ)
- Bauer J, et al. Evidence-based recommendations for optimal dietary protein intake in older people: a position paper from the PROT-AGE Study Group. J Am Med Dir Assoc. 2013;14(8):542-559
- Chen LK, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc. 2020;21(3):300-307.e2(下腿周囲長 男性34cm未満・女性33cm未満はスクリーニング基準)
- Schoenfeld BJ, Aragon AA, Krieger JW. The effect of protein timing on muscle strength and hypertrophy: a meta-analysis. J Int Soc Sports Nutr. 2013;10:53
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この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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