この記事のポイント
- アカウンタビリティとは「説明する責任」ではなく「結果に応答する責任」です
- 作業療法士の説明責任は、患者・社会制度・社会の3層に及びます
- 「科学」として実践するならば、仮説と結果を開示する義務があります── これがアカウンタビリティの本質です
はじめに── 「科学」の実践には、説明がついてくる
前稿「リハビリテーションにおける『宗教』と『科学』」で、臨床を「科学」にするとは仮説を立て、検証し、再現性を高めることだと論じました。
しかし、科学にはもうひとつ不可欠な要素があります。開示です。
科学者は仮説を立て、実験を行い、結果を報告します。その報告は他者によって検証され、再現性が確かめられます。実験の手続きも結果も開示されなければ、それは科学ではなく「個人の信念」のままです。
臨床においてこの「開示」に相当するのが、アカウンタビリティ(説明責任)です。
本稿では、作業療法士のアカウンタビリティを「目の前の患者」だけでなく、「社会制度」そして「社会そのもの」との関係において解説します。
第1章:アカウンタビリティとは何か
「説明する」だけでは足りない
アカウンタビリティを「説明責任」と訳すと、「説明すればよい」という誤解が生じます。
英語の accountability は、account(報告・会計)に由来します。会計とは、預かった資源をどのように使い、どのような結果を生んだかを報告することです。つまりアカウンタビリティとは、預かった資源に対して結果を示す責任です。
作業療法士は何を「預かって」いるのでしょうか。
患者から
医療保険から
介護保険から
社会から
これらすべてに対して「結果を報告する責任」がアカウンタビリティです。
3つの層
作業療法士のアカウンタビリティには3つの層があります。
- 患者・利用者への説明責任:何を、なぜ、どのように行い、結果がどうだったかを伝える
- 社会制度への説明責任:保険制度の中で成果を数値で示す
- 社会への説明責任:作業療法という専門職がなぜ必要なのかを社会に示す
多くの作業療法士は第1層を意識しています。しかし、第2層・第3層まで射程に入れている臨床家は多くありません。
第2章:患者への説明責任── 仮説の開示
「何をしているのか」が伝わらない問題
作業療法は「ブラックボックス」だと言われることがあります。
2020年にPhysical Therapy誌に掲載された論文は、リハビリテーション介入が「ブラックボックス」として特徴づけられ、特定の介入が特定のアウトカムに与える効果の意味ある検証を妨げていると指摘しました。
これは研究の問題であると同時に、臨床の問題でもあります。「今日のリハビリは何をしたのですか」と聞かれたとき、「上肢の訓練をしました」とだけ答えるセラピストは少なくありません。
前稿の定義に照らせば、科学的実践とは仮説を立てて検証する過程です。であれば、患者に対するアカウンタビリティとは、仮説を開示することに他なりません。
「食事動作の改善を妨げている原因は、肩関節の可動域よりも手指の巧緻性の問題だと考えています。今日はその仮説を確かめるために、つまみ動作の評価と練習を行いました。結果として〇〇がわかりました」
この説明は、インフォームド・コンセントを超えています。仮説→検証→結果という科学の構造そのものを患者と共有しています。これが「科学としての臨床」におけるアカウンタビリティです。
「曖昧さを引き受ける」ということ
齋藤佑樹・上江洲聖は『作業療法の曖昧さを引き受けるということ』(医学書院)の中で、作業療法の実践を言語化することの重要性を論じています。「答えがほしい」という学生に対し「いつも迷っている」と答える臨床家の姿は、実は不誠実ではなく誠実です。
仮説は「確定した答え」ではありません。「現時点での最善の推測」です。その推測を患者と共有し、共に検証していく過程こそが、作業療法のアカウンタビリティの核心ではないでしょうか。
作業療法の曖昧さを引き受けるということ
齋藤佑樹・上江洲聖 著(医学書院、2023年)。漫画と解説で、作業療法の「答えのなさ」に向き合う姿勢を学ぶ一冊。
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第3章:社会制度への説明責任── 数値で語る
FIM利得と実績指数── 回復期リハ病棟の現実
2016年度の診療報酬改定で、回復期リハビリテーション病棟にアウトカム評価が導入されました。
リハビリテーション実績指数は、各患者のFIM運動項目(91点満点)の在棟中の改善量を、在棟日数と疾患別算定上限日数の比で割って算出します。実績指数が27未満の病棟では、1日6単位を超えるリハビリ費用が入院料に包括されます。つまり、成果を出せない病棟は経済的に不利益を被る仕組みです。
2024年度の改定では、FIMの定期測定が全入院料区分で義務化されました。さらにリハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算(1日80点)が新設され、多職種連携によるアウトカム改善が制度的に求められるようになっています。
これは制度が作業療法士に突きつけている問いです。「あなたの介入は、患者のADLをどれだけ改善させたのか」。
LIFE── 介護保険の「科学化」
介護保険の領域では、2021年にVISITとCHASEが統合されLIFE(科学的介護情報システム)が稼働しました。
科学的介護推進体制加算の算定には、利用者ごとのADL値・栄養状態・口腔機能・認知症の状況等をLIFEに提出し、フィードバックを活用してPDCAサイクルを構築することが要件です。2024年度の改定では、データ提出頻度が6ヶ月に1度から3ヶ月に1度に引き上げられました。
LIFEの本質は「介護を科学にする」試みです。前稿の定義に照らせば、これは介護の領域における「宗教から科学への転換」を制度が推進していることに他なりません。
しかしここで問うべきことがあります。制度が求める数値を報告することが、本当のアカウンタビリティでしょうか。
数値を語る責任、数値の限界を語る責任
FIM利得やLIFEデータは、アカウンタビリティの重要な手段です。しかし、数値は常に部分でしかありません。
FIM運動項目が10点改善したとしても、それが患者の「家に帰りたい」という願いにどれだけ近づいたのかは、FIMだけではわかりません。LIFEのADLスコアが向上しても、その人の「生きがい」が回復したかどうかは、データベースには記録されません。
社会制度へのアカウンタビリティとは、制度が求める数値を提出するだけでは不十分です。数値が示していることと、数値では示せないことの両方を理解し、制度の設計者や政策立案者に対して「この指標だけでは作業療法の成果を十分に捉えられない」と発信することもまた、アカウンタビリティの一部です。
第4章:社会への説明責任── 「なぜ作業療法が必要なのか」
作業療法のアイデンティティ・クライシス
作業療法の専門職アイデンティティに関する議論は、日本では1965年の導入期から1991年まで継続的に行われてきました。「作業療法とは何か」を明確に説明できないという問題は、半世紀以上にわたって未解決です。
海外でも同様の議論があります。2021年のスコーピングレビューでは、作業療法士の専門職アイデンティティが「多次元的構築物」であることが示され、「自分の専門性を明確に説明できない」問題が人材定着や社会的評価に直接影響すると指摘されています。
自分が何者であるかを説明できない専門職が、社会に対してアカウンタビリティを果たすことは不可能です。費用対効果という言語
社会への説明責任を果たすためには、社会が理解する言語で語る必要があります。その言語のひとつが費用対効果です。
米国の研究(Rogers et al., 2016)は、病院の全支出カテゴリの中で、作業療法への追加支出が再入院率の統計的に有意な低下と唯一関連している項目であることを示しました。心不全・肺炎・急性心筋梗塞の3疾患すべてで確認されています。
2022年のシステマティックレビュー(Wales et al.)は、脳卒中・外傷性脳損傷・退院計画・股関節置換術前後における作業療法介入の費用対効果を確認しています。
2023年のシステマティックレビューでは、精神疾患からの復職支援においてIPS(Individual Placement and Support)が費用対効果に優れることが示され、重症うつ病への作業療法介入は費用便益的であると報告されています。
これらのエビデンスは、「作業療法は社会的に見て投資に値する」という主張の根拠となります。しかし、Freeman et al.(2025)のラピッドレビューが135研究を分析した結果、作業療法の経済評価研究は23カ国で確認されたものの、日本国内のOT特化の経済評価研究は極めて少ないという現実があります。
社会に対するアカウンタビリティは、エビデンスの「消費者」としてだけでなく「生産者」としての責任も含んでいます。
WFOTのQUEST── グローバルな枠組み
世界作業療法士連盟(WFOT)は、QUEST(Quality Evaluation Strategy Tool)を通じて、作業療法の価値をデータで示すための包括的な戦略を提唱しています。QUESTは「作業療法がいかに健康アウトカムを向上させ、満足度を高め、限られた資源を最適化するか」のエビデンスとアカウンタビリティを提供するツールです。
日本作業療法士協会も、第四次作業療法5ヵ年戦略(2023〜2027年度)において「人々の活動・参加を支援し、地域共生社会の構築に寄与する作業療法」をビジョンに掲げています。
しかしビジョンはビジョンに過ぎません。問題は、そのビジョンの達成度を誰に対して、どのように報告するのかという具体的なアカウンタビリティの設計です。
第5章:3つの層を統合する
臨床推論からアカウンタビリティへ
前稿で論じた臨床推論のサイクルを、アカウンタビリティの観点から再構成してみましょう。
- 仮説を立てる → 患者に仮説を開示する(第1層)
- 仮説に基づいて介入する → 介入内容を記録し、制度に報告できる形にする(第2層)
- 結果を測定する → 標準化された評価指標で定量化する(第2層)
- 仮説と結果を比較する → 比較結果を患者・チーム・制度と共有する(第1層・第2層)
- 修正して再介入する → この蓄積を研究として社会に還元する(第3層)
このように、科学的な臨床推論を行えば、アカウンタビリティは自然に発生します。仮説は開示され、介入は記録され、結果は測定され、比較は共有されます。
逆に言えば、アカウンタビリティを果たせない臨床は、科学的な実践ではない可能性が高いのです。
研究知見の14%しか臨床に実装されない現実
作業療法士の97%が「EBPは実践に必要」と回答し、92%が「意思決定に役立つ」と認めているにもかかわらず、研究知見のうち臨床に実装されるのはわずか14%であり、実装までに推定17年を要するというデータがあります。
この数字は、アカウンタビリティの構造的な問題を示しています。知識としては「必要だ」と認識されているのに、行動としては実現されていません。前稿の言葉を借りれば、「科学であるべきだ」という信仰(フレームワーク)は持っているが、実際に仮説検証のサイクルを回す(科学を実践する)段階には至っていないのです。
結論:科学を実践するなら、説明は義務である
前稿では「フレームワークを信仰の対象から仮説生成の道具へ転換せよ」と論じました。本稿はその続きです。
仮説を立て、検証し、結果を得たならば、その過程と結果を開示する義務があります。開示先は患者だけではありません。社会保険制度を通じて資源を預けた社会に対して、そして作業療法という専門職の存在意義を問う社会全体に対してです。
アカウンタビリティとは、「説明する負担」ではありません。科学的実践をしているならば、自然に発生するものです。仮説を語り、結果を報告し、誤りがあれば修正する── この循環こそが、作業療法の社会的信頼を構築します。
問われているのは、こういうことです。
あなたは今日、患者に「なぜその介入を行ったのか」を説明したでしょうか。制度が求める数値を正しく報告したでしょうか。そして、作業療法が社会にとってなぜ必要なのかを、自分の言葉で語れるでしょうか。
3つすべてに「はい」と答えられるとき、あなたの臨床は「科学」であり、同時にアカウンタビリティを果たしています。
参考文献
- Rogers AT, et al. Hospital spending on occupational therapy is associated with lower readmission rates. Med Care Res Rev. 2016;74(6):668-686.
- Wales K, et al. Occupational therapy economic evaluations: A systematic review. Aust Occup Ther J. 2022.
- Freeman C, et al. Economic evidence in occupational therapy: A rapid review. Aust Occup Ther J. 2025.
- Goligher EC, et al. Falsifiability in medicine: what clinicians can learn from Karl Popper. Intensive Care Med. 2021;47:1054-1056.
- DeJong G, et al. Opening the black box of poststroke rehabilitation. Stroke. 2005;36:e100-e108.
- 齋藤佑樹, 上江洲聖. 作業療法の曖昧さを引き受けるということ. 医学書院.
- WFOT. Quality Evaluation Strategy Tool (QUEST). https://wfot.org/our-work/professional-support/quest
- 日本作業療法士協会. 第四次作業療法5ヵ年戦略(2023-2027年度).