この記事のポイント
- 脊髄損傷は損傷レベルによってADLの到達目標が大きく異なり、OTはそれぞれに合わせた支援を行います
- 自助具の選定・住環境整備・車椅子操作訓練など、OTの介入は生活全般に及びます
- 頸髄損傷と胸腰髄損傷では必要な支援が異なり、社会復帰に向けた段階的なアプローチが重要です
脊髄損傷とは ── まず知っておきたい基礎知識
脊髄損傷とは、交通事故・転落・スポーツ外傷などにより脊髄が損傷を受け、損傷部位以下の運動機能や感覚機能が障害される状態です。
日本では約30年ぶりの全国調査が2018年に実施されました(Miyakoshiら、Spinal Cord、2021年。全国3,771施設のうち2,804施設が回答)。それによると、外傷性脊髄損傷の推定年間発生率は人口100万人あたり49人(Frankel E を除く)、受傷時年齢の中央値は70.0歳で最多年齢層は70歳代、男女比は3:1でした。損傷部位は頸髄が88.1%を占め、重症度は Frankel D が46.3%、C が33.0%と不全損傷が大半です。
1年間に新たに受傷する人の割合
首の部分の損傷が占める割合
受傷する方の年齢の真ん中
受傷原因の最多は平地での転倒(38.6%)で、交通事故(20.1%)がこれに続きます。平地での転倒の割合は年齢とともに上昇し、10歳代ではスポーツが最多(43.2%)でした。かつての「若年男性の交通事故・転落」という像は、現在の日本には当てはまりません。
脊髄損傷は、損傷の高位(レベル)と完全損傷か不全損傷かによって、残存する機能が大きく異なります。OTは、この残存機能を最大限に活かし、「自分でできること」を一つでも増やすための支援を行う専門職です。作業療法という専門職の全体像は作業療法とは何かで詳しく解説しています。
脊髄損傷とは、事故や転倒などで背骨の中を通る脊髄が傷つき、損傷した場所より下の手足の動きや感覚が障害される状態です。
2018年の全国調査では、新たに受傷する方は人口100万人あたり1年に49人で、受傷したときの年齢はちょうど真ん中が70歳でした。原因でいちばん多いのは平らな場所での転倒(38.6%)です。「交通事故で若い方が」というイメージがありますが、いまの日本では高齢の方が転んで受傷するケースが最も多くなっています。
損傷の場所(レベル)によって、動かせる範囲が異なります。作業療法士は、残っている力を最大限に活かして「自分でできること」を一つでも増やすお手伝いをします。
損傷レベルとADL到達目標
脊髄損傷のリハビリテーションでは、損傷レベルごとにADL(日常生活動作)の到達目標の指標が示されています。以下は、ASIAの評価に基づく完全損傷の場合の一般的な到達目標です。
| 損傷レベル | 残存する主な筋機能 | ADL到達目標 |
|---|---|---|
| C4以上 | 横隔膜(呼吸)のみ | 電動車椅子操作(顎・呼気スイッチ)、環境制御装置の活用 |
| C5 | 三角筋・上腕二頭筋 | 自助具を使った食事・整容、電動車椅子または軽量手動車椅子 |
| C6 | 手関節背屈筋 | テノデーシスアクションを利用した把持、移乗動作の一部自立 |
| C7 | 上腕三頭筋 | プッシュアップ動作、車椅子上でのADLほぼ自立 |
| C8〜T1 | 手内在筋 | 上肢機能ほぼ正常、車椅子ADL自立 |
| T2〜T12 | 体幹筋(レベルに応じて) | 車椅子ADL完全自立、自動車運転(手動装置) |
| L1以下 | 下肢筋(レベルに応じて) | 装具・杖を用いた歩行、段階的な歩行自立 |
個人差があります
上記はあくまで完全損傷における一般的な目標です。不全損傷では残存機能が多く、到達目標はさらに高くなることがあります。年齢・体力・合併症・本人の意欲など個別の要因によっても大きく左右されます。
損傷の場所によって、できるようになる動作の目標が異なります。
- 首の上のほう(C4以上)の損傷:電動車椅子を顎や息で操作、家電を声で操作する装置を活用
- 首の下のほう(C5〜C7)の損傷:自助具を使った食事や身だしなみ、車椅子の操作
- 胸や腰の部分(T2以下)の損傷:車椅子での日常生活はほぼ自立、自動車の運転も可能に
これはあくまで目安で、一人ひとりの状態や意欲によって大きく変わります。担当の作業療法士と相談しながら、目標を立てていきましょう。
OTの介入内容 ── 4つの柱
OTは脊髄損傷の方に対して、以下の4つを柱としたアプローチを行います。
ADL訓練
食事・整容・更衣・入浴・排泄など基本的な日常生活動作の獲得に向けた訓練を段階的に進めます
自助具の選定と活用
残存機能に合わせた自助具を選定し、使い方の練習を通じて動作の自立度を高めます
住環境整備
退院後の自宅環境を評価し、手すり設置・段差解消・動線確保などの環境調整を提案します
車椅子操作訓練
車椅子の選定から基本操作、屋外走行、段差乗り越えまで、移動能力の向上を支援します
ADL訓練の実際
ADL訓練は、残存機能に応じた代償動作の獲得が中心となります。
C6レベルの方を例に挙げると、手指の随意運動は困難ですが、手関節の背屈(手首を反らす動き)は可能です。OTは、この手関節背屈を利用したテノデーシスアクション(腱固定作用)を訓練します。手首を反らすと指が自然に屈曲し、物をつかむ動作が可能になる仕組みです。
テノデーシスアクションの獲得は、C6レベルの方にとってADL自立の鍵になります。繰り返しの練習によって、食事・書字・整容など幅広い場面で使えるようになっていきます。ただし握力そのものが戻るわけではないため、力の入れ加減(把持力の調整)まで含めた練習が必要になる場面もあります。
具体的な訓練場面としては、以下のようなものがあります。
- 食事動作: ユニバーサルカフを用いたスプーン・フォーク操作、すくいやすい皿の活用
- 整容動作: 電動歯ブラシや柄付きブラシの使用、洗面台の高さ調整
- 更衣動作: 座位でのかぶり式衣服の着脱手順、ボタンエイドやマジックテープへの改造
- 入浴動作: シャワーチェア・浴室用手すりの設置、長柄スポンジの活用
- 排泄管理: 自己導尿の手技獲得、排泄用具の選定
入浴動作の安全な工夫と環境調整の詳細は入浴の自立支援ガイドで詳しく解説しています。
自助具の活用
脊髄損傷者のADL自立において、自助具は欠かせない存在です。残存する筋機能に応じて適切な自助具を選定することが重要です。
| 場面 | 自助具の例 | 対象レベルの目安 |
|---|---|---|
| 食事 | ユニバーサルカフ、太柄スプーン、すくいやすい皿 | C5〜C6 |
| 書字 | 書字用スプリント、太軸ペン、タブレット端末 | C5〜C7 |
| 整容 | 電動歯ブラシ、柄付きブラシ、ループ付きタオル | C5〜C6 |
| 更衣 | ボタンエイド、ソックスエイド、リーチャー | C6〜C7 |
| 入浴 | 長柄スポンジ、シャワーチェア、浴槽台 | C6〜T1 |
| 調理 | 片手用まな板(釘付き)、電動缶切り、レバー式水栓 | C7以下 |
自助具選定のポイント
自助具は「あれば便利」ではなく「その人に合ったものを選ぶ」ことが大切です。OTは実際の生活場面を想定しながら試用を重ね、本人にとって最適な道具を見つけていきます。使いこなせない道具は結局使われなくなるため、段階的な導入と練習が重要です。
住環境整備
退院後の生活を見据え、OTは自宅の住環境評価と整備の提案を行います。脊髄損傷者の住環境整備においては、車椅子での生活を前提とした大幅な改修が必要になることも少なくありません。
退院前評価
- 1自宅の間取り・寸法の確認
- 2動線と段差の把握
- 3トイレ・浴室の構造確認
改修計画の立案
- 4車椅子の通行幅(850mm以上)の確保
- 5段差解消(スロープ・リフト設置)
- 6水回りのバリアフリー化
試験外泊と調整
- 7改修後の自宅で実際に生活動作を試行
- 8問題点の洗い出しと追加調整
- 9家族への介助方法の指導
退院後フォローアップ
- 10生活状況の確認と再評価
- 11追加の環境調整や福祉用具の見直し
住環境整備にあたっては、介護保険の住宅改修費(上限20万円)や障害者総合支援法に基づく日常生活用具給付制度を活用できます。自治体によっては独自の助成制度もあるため、MSWと連携して情報提供を行うこともOTの重要な役割です。
車椅子操作訓練
車椅子は脊髄損傷者の「足」となる移動手段です。OTは、車椅子の適合(フィッティング)から操作訓練まで一貫して関わります。
車椅子操作訓練では、以下の内容を段階的に進めます。
- 基本駆動: 平地での直進・旋回・停止の基本操作
- 移乗動作: ベッド・トイレ・自動車へのトランスファー技術
- 段差乗り越え: キャスター上げ(ウィリー)を用いた段差対応
- 屋外走行: 不整地・坂道・横断歩道の安全な走行方法
- 褥瘡予防: プッシュアップによる除圧動作、クッション選定
車椅子の選定においては、身体寸法・残存機能・使用環境・本人の活動レベルを総合的に評価し、最適な車種・サイズを決定します。近年はオーダーメイドのアクティブ車椅子やチタンフレームの超軽量モデルなど選択肢が広がっており、活動的な生活を送る脊髄損傷者が増えています。
作業療法士は、4つの柱でサポートします。
1. 日常生活の動作練習 食事、着替え、入浴、トイレなど、毎日の動作を一つひとつ練習します。残っている力を活かした新しいやり方を身につけていきます。
2. 自助具の活用 自助具とは、日常の動作をしやすくするための道具です。太い柄のスプーン、電動歯ブラシ、ボタンを留める道具など、ご本人に合ったものを選びます。
3. 自宅の環境整備 退院前に自宅を評価し、車椅子が通れる幅の確保、段差の解消、トイレ・浴室の改修などを提案します。介護保険や障害者向けの助成制度が利用できます。
4. 車椅子の操作練習 車椅子の選定から基本操作、外出時の段差対応まで、段階的に練習します。ご本人の体に合った車椅子を選ぶことがとても大切です。
頸髄損傷と胸腰髄損傷 ── 支援の違い
脊髄損傷は、損傷部位によって頸髄損傷(四肢麻痺)と胸腰髄損傷(対麻痺)に大別されます。それぞれの特徴とOTの介入の違いを整理します。
| 項目 | 頸髄損傷(四肢麻痺) | 胸腰髄損傷(対麻痺) |
|---|---|---|
| 麻痺の範囲 | 両上肢・両下肢・体幹 | 両下肢(体幹の一部含む場合あり) |
| 上肢機能 | 損傷レベルに応じて制限あり | 正常(手指の巧緻動作も可能) |
| ADL自立度 | 自助具や介助が必要な場面が多い | 車椅子上でのADLはほぼ自立 |
| OTの重点 | 上肢機能の最大化、自助具訓練 | 移乗・車椅子技術、社会復帰支援 |
| 呼吸機能 | C4以上で人工呼吸器が必要な場合あり | 通常は問題なし |
| 自律神経障害 | 起立性低血圧・体温調節障害あり | 高位損傷以外は軽度 |
頸髄損傷では、上肢機能が制限されるためOTの役割がとりわけ大きくなります。残存する筋の一つひとつを丁寧に評価し、その機能を最大限に引き出す訓練プログラムを組み立てます。また、ECSを活用して照明・エアコン・テレビなどを操作できるようにすることも、頸髄損傷者の生活の質を大きく向上させる介入です。環境制御装置や意思伝達支援の活用例はALSと暮らす方への作業療法支援でも紹介しています。
一方、胸腰髄損傷では上肢機能が保たれているため、ADL訓練よりも移乗技術の洗練や社会参加の拡大に重点が移ります。自動車の手動装置による運転訓練や、就労に向けた環境調整が主要な支援内容となります。
損傷の場所によって、必要なサポートが異なります。
首の部分の損傷(頸髄損傷)では、手の動きにも制限が出るため、自助具や環境制御装置(声やスイッチで照明やテレビを操作する装置)の活用が重要になります。
胸や腰の部分の損傷(胸腰髄損傷)では、手は通常どおり使えるため、車椅子での日常生活はほぼ自立できます。仕事への復帰や車の運転など、社会参加に向けた支援が中心になります。
社会復帰支援 ── 「暮らし」から「社会」へ
脊髄損傷のリハビリテーションは、ADLの自立がゴールではありません。OTは、復職・復学・地域活動への参加など、その人らしい社会生活の再構築を支援します。
復職支援
日本の就労年齢の脊髄損傷者を対象とした調査(Hayashiら、Spinal Cord、2025年)では、回答した134名のうち調査時点で就労していたのは61名(46%)でした。多変量解析では麻痺が軽いことと受傷後にスポーツや趣味を楽しんでいることが就労と有意に関連し、就労者の27%は知人の紹介で職を得ていました。回答者134名の横断調査であり全国を代表する値ではありませんが、社会参加そのものが復職を後押ししうることを示唆する所見です。復職に向けてOTが行う支援には以下が含まれます。
- 職場環境の評価と改修提案(机の高さ調整、車椅子対応トイレの設置など)
- パソコン操作の訓練(入力デバイスの選定、音声入力ソフトの導入)
- 通勤手段の検討(福祉車両・公共交通機関の利用訓練)
- 職場との調整(合理的配慮の内容について助言)
障害者雇用に関する制度の活用
障害者雇用促進法に基づく各種支援制度(ジョブコーチ支援、職場適応援助など)の活用も重要です。OTは医療の視点から本人の能力と職務内容のマッチングを評価し、就労支援機関と連携して復職を後押しします。
余暇活動・スポーツ
車椅子バスケットボール、車椅子テニス、ハンドサイクルなど、脊髄損傷者が参加できるスポーツは年々広がっています。OTは、本人の興味と身体機能に合わせてスポーツや余暇活動への参加を後押しします。前述のHayashiらの調査でスポーツや趣味を楽しんでいることが就労と関連していたように、余暇は「余った時間の話」ではなく、社会参加の土台になりうる領域です。
心理的サポート
受傷後は喪失感や抑うつを経験する方が少なくありません。Craigらの系統的レビュー(Spinal Cord、2009年)は、リハビリテーション期にある脊髄損傷者の約30%がうつ病性障害のリスクを有し、地域生活に移行した後も約27%が抑うつ症状の高値を示すと報告しています。同レビューは不安障害や無力感、QOLの低下のリスクも相対的に高いとしたうえで、研究の質や対象のばらつきが大きく、なお解明が必要だとも述べています。OTは、作業を通じた自己効力感の回復を重視し、「できること」を一つずつ積み重ねるプロセスを丁寧に支えます。小さな成功体験の積み重ねが、心理的な回復にもつながっていくのです。
日常生活の自立だけがゴールではありません。作業療法士は、仕事への復帰やスポーツ、趣味活動など、ご本人がやりたいことに向けた支援も行います。
- 仕事への復帰:職場環境の評価、パソコン操作の練習、通勤手段の検討
- スポーツ・趣味:車椅子バスケットボールやテニスなど、参加できる活動は広がっています
- 心のケア:受傷後は気持ちが落ち込むことがあります。「できること」を一つずつ増やしていくプロセスが、心の回復にもつながります
ご家族としては、ご本人の「やりたい」を否定せず、一緒に可能性を探っていただけると大きな支えになります。
まとめ
- 脊髄損傷は損傷レベルによって残存機能とADL到達目標が異なり、個別性の高い支援が必要です
- OTはADL訓練・自助具選定・住環境整備・車椅子操作訓練の4つを柱に介入します
- 頸髄損傷では上肢機能の最大化、胸腰髄損傷では社会参加の拡大が重点となります
- ADLの自立だけでなく、復職・余暇・心理的サポートを含めた社会復帰支援がOTの真価です
- 一人で悩まず、担当のOTに「こうしたい」「あれがしたい」という希望を伝えてみてください
- 脊髄損傷は損傷の場所によってできることが異なりますが、自助具や環境の工夫で「できること」は大きく広がります
- 作業療法士は日常生活の動作練習、自助具の選定、自宅の改修、車椅子の操作練習を支援します
- 仕事への復帰やスポーツなど、社会参加への道も開けています
- ご本人の「やりたい」を大切に、担当の作業療法士に希望を伝えてみてください
- 退院前に作業療法士と一緒に自宅を見てもらい、必要な改修を相談しましょう。助成制度が利用できます
- ご本人が「やりたいこと」を口にしたら、否定せずに一緒に方法を考えてみてください
- 同じ経験をした方の体験談や当事者団体の情報を探してみると、今後の見通しが立てやすくなります
- Miyakoshi N, Suda K, Kudo D, et al. A nationwide survey on the incidence and characteristics of traumatic spinal cord injury in Japan in 2018. Spinal Cord. 2021;59(6):626-634.(発生率49人/100万人、頸髄88.1%、年齢中央値70.0歳、平地転倒38.6%)
- Hayashi T, Kobayashi H, Irie M, et al. Factors affecting return to work after spinal cord injury in Japan: a cross-sectional study. Spinal Cord. 2025;63(6):279-284.(134名中61名〔46%〕が就労)
- Craig A, Tran Y, Middleton J. Psychological morbidity and spinal cord injury: a systematic review. Spinal Cord. 2009;47(2):108-114.(リハ期の約30%がうつ病性障害のリスク、地域生活者の約27%が抑うつ症状高値)
- Kirshblum SC, Burns SP, Biering-Sorensen F, et al. International standards for neurological classification of spinal cord injury (revised 2011). The Journal of Spinal Cord Medicine. 2011;34(6):535-546.(ASIA/ISNCSCI の損傷高位・重症度分類)
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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