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脊髄損傷のご家族へ ── 退院後の暮らしと「できること」の広げ方

脊髄損傷を受けたご家族を支えるために知っておきたい、日常生活の工夫・自助具・住環境の整え方・社会復帰支援について、やさしく解説します。

📅 2026年5月7日 更新読了目安 23分

この記事のポイント

  • 脊髄損傷は損傷レベルによってADLの到達目標が大きく異なり、OTはそれぞれに合わせた支援を行います
  • 自助具の選定・住環境整備・車椅子操作訓練など、OTの介入は生活全般に及びます
  • 頸髄損傷と胸腰髄損傷では必要な支援が異なり、社会復帰に向けた段階的なアプローチが重要です

脊髄損傷とは ── まず知っておきたい基礎知識

脊髄損傷とは、事故や転倒などで背骨の中を通る脊髄が傷つき、損傷した場所より下の手足の動きや感覚が障害される状態です。日本では年間約5,000人が新たに受傷しています。

損傷の場所(レベル)によって、動かせる範囲が異なります。作業療法士は、残っている力を最大限に活かして「自分でできること」を一つでも増やすお手伝いをします。

損傷レベルとADL到達目標

損傷の場所によって、できるようになる動作の目標が異なります。

  • 首の上のほう(C4以上)の損傷:電動車椅子を顎や息で操作、家電を声で操作する装置を活用
  • 首の下のほう(C5〜C7)の損傷:自助具を使った食事や身だしなみ、車椅子の操作
  • 胸や腰の部分(T2以下)の損傷:車椅子での日常生活はほぼ自立、自動車の運転も可能に

これはあくまで目安で、一人ひとりの状態や意欲によって大きく変わります。担当の作業療法士と相談しながら、目標を立てていきましょう。

OTの介入内容 ── 4つの柱

作業療法士は、4つの柱でサポートします。

1. 日常生活の動作練習 食事、着替え、入浴、トイレなど、毎日の動作を一つひとつ練習します。残っている力を活かした新しいやり方を身につけていきます。

2. 自助具の活用 自助具とは、日常の動作をしやすくするための道具です。太い柄のスプーン、電動歯ブラシ、ボタンを留める道具など、ご本人に合ったものを選びます。

3. 自宅の環境整備 退院前に自宅を評価し、車椅子が通れる幅の確保、段差の解消、トイレ・浴室の改修などを提案します。介護保険や障害者向けの助成制度が利用できます。

4. 車椅子の操作練習 車椅子の選定から基本操作、外出時の段差対応まで、段階的に練習します。ご本人の体に合った車椅子を選ぶことがとても大切です。

頸髄損傷と胸腰髄損傷 ── 支援の違い

損傷の場所によって、必要なサポートが異なります。

首の部分の損傷(頸髄損傷)では、手の動きにも制限が出るため、自助具や環境制御装置(声やスイッチで照明やテレビを操作する装置)の活用が重要になります。

胸や腰の部分の損傷(胸腰髄損傷)では、手は通常どおり使えるため、車椅子での日常生活はほぼ自立できます。仕事への復帰や車の運転など、社会参加に向けた支援が中心になります。

社会復帰支援 ── 「暮らし」から「社会」へ

日常生活の自立だけがゴールではありません。作業療法士は、仕事への復帰やスポーツ、趣味活動など、ご本人がやりたいことに向けた支援も行います。

  • 仕事への復帰:職場環境の評価、パソコン操作の練習、通勤手段の検討
  • スポーツ・趣味:車椅子バスケットボールやテニスなど、参加できる活動は広がっています
  • 心のケア:受傷後は気持ちが落ち込むことがあります。「できること」を一つずつ増やしていくプロセスが、心の回復にもつながります

ご家族としては、ご本人の「やりたい」を否定せず、一緒に可能性を探っていただけると大きな支えになります。

まとめ

ポイント
  • 脊髄損傷は損傷の場所によってできることが異なりますが、自助具や環境の工夫で「できること」は大きく広がります
  • 作業療法士は日常生活の動作練習、自助具の選定、自宅の改修、車椅子の操作練習を支援します
  • 仕事への復帰やスポーツなど、社会参加への道も開けています
  • ご本人の「やりたい」を大切に、担当の作業療法士に希望を伝えてみてください
ご家庭でできること
  • 退院前に作業療法士と一緒に自宅を見てもらい、必要な改修を相談しましょう。助成制度が利用できます
  • ご本人が「やりたいこと」を口にしたら、否定せずに一緒に方法を考えてみてください
  • 同じ経験をした方の体験談や当事者団体の情報を探してみると、今後の見通しが立てやすくなります

参考文献
  • 日本リハビリテーション医学会(編)『脊髄損傷リハビリテーションガイドライン』医学書院
  • Kirshblum, S. et al. (2011). International standards for neurological classification of spinal cord injury. The Journal of Spinal Cord Medicine, 34(6), 535–546.
  • Craig, A. et al. (2009). Psychological morbidity and spinal cord injury: a systematic review. Spinal Cord, 47(2), 108–114.
  • 日本脊髄障害医学会『脊髄損傷の疫学に関する報告書』
  • 総合リハビリテーション学テキスト(医歯薬出版)

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