この記事のポイント
- 福祉用具の選定は「カタログから選ぶ」のではなく「評価結果から導く」プロセスであり、OTの臨床推論が問われる場面です
- 車椅子選定では座位評価(座面幅・奥行き・背もたれ高さ)と生活行為分析の両方が不可欠です
- 歩行補助具は歩行分析の結果と環境(屋内/屋外・段差・距離)から最適な種類を絞ります
- 入浴・排泄用具はADL動作分析に基づく選定が安全性と自立度の鍵を握ります
- 軽度者への例外的給付では、OTの評価所見が理由書の根拠として重要な役割を果たします
はじめに ── OTが福祉用具選定に関わる意義
福祉用具を選ぶとき、作業療法士はどんなことを考えて選んでいるのでしょうか。
じつは、カタログを見て「これがよさそう」と選んでいるわけではありません。ご本人の体の状態や、日常生活のどこで困っているかをしっかり確認したうえで、最適な用具を導き出しています。
この記事では、作業療法士がどんな視点で福祉用具を選んでいるのかをご紹介します。ご家族が知っておくと、専門家と一緒に用具を選ぶときに役立ちます。
選定の臨床フレームワーク
作業療法士はどうやって選んでいるの?
作業療法士が福祉用具を選ぶときの考え方を、4つのステップでご紹介します。
1. 何に困っているかを具体的にする「歩くのが大変」ではなく、「トイレまでの歩行で右に傾いて、壁を伝って3分かかる」というレベルまで具体的に把握します。
2. 原因を調べる困りごとの原因が、筋力の低下なのか、バランスの問題なのか、家の構造なのかを確認します。
3. 解決策を考えるリハビリで体の機能を回復させるのがよいか、福祉用具で環境を整えるのがよいか、あるいは両方を組み合わせるのがよいかを判断します。
4. 用具を選んで試す候補を2〜3点に絞り、実際の生活場面で試してもらいます。サイズや使い勝手を確認して、最終決定します。
車椅子の選定 ── 座位評価と生活行為分析
車椅子はどうやって選ぶの?
車椅子は「体に合ったサイズ」が何より大切です。作業療法士は以下のようなポイントを見ています。
座面の幅:お尻の幅より合計3〜5cm余裕があるサイズ。大きすぎると体が不安定になります。
座面の奥行き:太ももの裏を適度に支える長さ。深すぎると膝の裏が圧迫されます。
座面の高さ:足がしっかり地面(またはフットレスト)に届く高さ。
背もたれの高さ:体幹を支えつつ、ご本人が自分で車輪を回せる高さ。
ヒント
車椅子に敷くクッションも非常に大切です。長時間座るとお尻に負担がかかりますが、適切なクッションで床ずれを防ぐことができます。
また、家の中で通れるかどうかのチェックも欠かせません。廊下の幅やドアの幅を測って、車椅子が通れることを確認してから選びます。
特殊寝台(介護ベッド)の選定
介護ベッドの選び方
介護ベッドは、電動で動く部分の数で種類が分かれます。
1モーター:背もたれだけが上がります。起き上がりの補助だけで十分な方に。
2モーター:背もたれと脚部が上がります。背中を上げるときに体がずり落ちにくくなります。
3モーター:背もたれ、脚部に加えて、ベッド全体の高さが変わります。介助する方の腰痛予防にとても効果的です。
ヒント
介護する方の負担を考えると、3モーターがおすすめです。ベッドの高さを変えられるので、移乗のときやおむつ交換のときに腰を痛めにくくなります。
背もたれを上げたあと、いったんご本人の背中をベッドから少し浮かせる操作を「背抜き」といいます。これをしないと背中に余計な力がかかり、床ずれの原因になります。介護ベッドを使うときの基本動作として覚えておきましょう。
歩行補助具の選定 ── 歩行分析から導く
歩行器や杖はどう選ぶの?
作業療法士は、実際に歩いている様子を見て、最適な杖や歩行器を選びます。
脳卒中で片方の手足にまひがある方:まひの程度に応じて、一般的な杖(T字杖)か、先端が4つに分かれた多点杖かを選びます。
両足の筋力が弱い方:歩行器で体を支えます。屋外用は車輪が大きくて安定性が高いもの、室内用はコンパクトなものを選びます。
高さの調整が大切杖や歩行器のグリップの高さは、手首の位置に合わせるのが基本です。高すぎると肩が疲れ、低すぎると腰が曲がってしまいます。作業療法士が正確に調整してくれます。
手すり・スロープの選定 ── 動線分析から配置を決める
手すりやスロープの選び方
作業療法士は、家の中でどこをどう歩いているかを確認して、手すりを置く場所を決めます。
よく手すりが必要になる場所は以下のとおりです。
- トイレの横:立ち座りの補助に
- 廊下:移動中の安全のために
- 玄関:靴の脱ぎ履きや段差の上り下りに
- ベッドの横:起き上がりの補助に
スロープは、玄関の段差や室内の敷居をなくすために使います。車椅子や歩行器を使っている方に特に重要です。
ヒント
手すりは握りやすい太さ(直径約3cm)のものが使いやすいです。お店で実物を握ってみてから選ぶのがおすすめです。
入浴・排泄用具の選定 ── ADL動作分析に基づくアプローチ
お風呂の用具の選び方
シャワーチェア(お風呂の椅子)作業療法士が見るポイントは、座ったときの安定性です。
- 背もたれが必要か:座っているときにふらつく方は背もたれ付きを
- 肘掛けが必要か:横に傾きやすい方は肘掛け付きを
- 高さは合っているか:足がしっかり床につく高さが安全です
浴槽をまたぐ動作は、家の中で最も転倒しやすい場面のひとつです。浴槽のふちにつける手すりや、浴槽の中に置く台(浴槽台)で安全性を高められます。
トイレの用具の選び方
ポータブルトイレは、夜間にトイレまで歩くのが不安な方に特に役立ちます。ベッドのすぐ横に置けるので、転倒のリスクが減ります。
選ぶときのポイントは、座ったときの高さ(足がしっかり床につくこと)と、立ち上がりやすさ(肘掛けがしっかりしていること)です。
軽度者への例外的給付 ── OTの評価所見が鍵
軽度の認定でも借りられる場合があります
要支援や要介護1の認定では、車椅子や介護ベッドが原則として借りられません。しかし、例外が認められるケースがあります。
たとえば以下のような場合です。
- 病気の影響で日によって体の状態が大きく変わる方
- 病状が急速に悪化する見込みがある方(がんの末期など)
- 転倒で骨折する危険性が高い方
こうした場合、ケアマネジャーが理由書を作成し、市区町村に申請することで例外的にレンタルが認められることがあります。作業療法士の評価結果が、理由書の大切な根拠になります。
「うちの場合はどうだろう」と思ったら、まずケアマネジャーに相談してください。
モニタリングと再評価の視点
選んだ後も見直しが大切です
福祉用具は、一度選んだらずっとそのままではありません。体の状態は変わりますし、生活の様子も変わります。
こんなときは見直しのサインです。
- 用具を使わなくなった(面倒、合っていない可能性)
- 用具を使っているのに転びそうになることがある
- お尻や背中に赤みが出てきた(用具が合っていない可能性)
- 介助する方が腰を痛めている(ベッドの高さが合っていない可能性)
こうしたときは、担当のケアマネジャーや作業療法士に相談してください。用具の交換や調整で改善できることが多くあります。
まとめ
- 作業療法士は体の状態や生活の様子を細かく確認したうえで福祉用具を選んでいます
- 車椅子は体のサイズに合ったものを選ぶことが大切。大きすぎも小さすぎもよくありません
- 介護ベッドは背上げ後の「背抜き」を忘れずに。床ずれの予防になります
- 歩行器や杖は高さの調整がポイント。手首の位置に合わせるのが基本です
- 選んだ後も定期的に見直すことで、ずっと安全に使い続けられます
「なんとなく不安」「もっと楽になる方法はないかな」と感じたら、ケアマネジャーや作業療法士にいつでも相談してください。
- 作業療法士に来てもらいましょう:訪問リハビリを利用すると、自宅の環境を見ながら最適な用具を選んでもらえます
- 「困っていること」を具体的にメモしましょう:「いつ」「どこで」「どんなとき」に困っているかをメモしておくと、専門家がより正確にアドバイスできます
- 使わなくなった用具は相談のサイン:「使いにくいから」「面倒だから」使わなくなった用具があれば、別の用具に変えたほうがよいかもしれません。遠慮なく相談しましょう