この記事のポイント
膝裏に手を当ててまたぐ場面は、申し送りでは「一部介助」と「全介助」を添えているか抱えているかで分けます。介護保険の調査に浴槽の項目はなく、調査員は特記事項に手間と頻度を書きます。
この記事の位置づけ
この記事は、介助の言葉が書類ごとにどう対応するかを整理するものです。判定するのは、介護保険では認定調査員と介護認定審査会、病棟では院内研修を受けた評価者です。本文の事例と例題はすべて架空です。
膝の裏を支えている途中でやめるとき、入浴をやめるとき
湯船をまたぐ途中で膝が折れた、手すりを持つ手が離れた、本人が「無理」と言ったときは、上げかけた足を床に戻して縁や椅子に座ってもらい、看護師に伝えてください。膝の裏を支えるやり方から足を抱えて入れるやり方に変えるかは、その場でひとりで決めず、リハビリの担当者や看護師と決めます。入浴の前後に測る血圧や体温がいつもと違うとき、顔色が悪いとき、めまい・気分の悪さ・胸の苦しさがあるときは入浴をやめて看護師に伝え、再開してよいかは医師に確かめます。
この言葉、誰がどう使っている?
「一部介助」を、それぞれの立場がどう言っているかを並べます。
5つの立場の言い方と定義を見る
| 誰の言葉か | 「一部介助」の言い方 | 決まった定義 |
|---|---|---|
| 本人・家族 | 「膝を持ってもらえば入れる」「少し支えてもらう」 | なし |
| 介護職・看護師(現場の口語) | 「またぎ一部介助」「膝裏介助」「軽介助」「軽く支えて」。持ち上げているかどうかは言わないことが多いです | なし(施設・地域で割れる) |
| リハ職(OT・PT・ST) | 「部分介助」「軽介助」「中等度介助」「下肢の挙上介助」。段階の切り方は施設・流派で割れています | なし(職種・流派で割れる) |
| 制度(認定調査・看護必要度など) | 該当語なし。認定調査に浴槽の項目はなく、「一部介助」「全介助」は他の項目の選択肢の名です | なし(近い項目: 1-10 洗身は洗身のみで入浴行為を含まない/2-1 移乗は浴槽を列挙しない。手続き: 類似する能力の項目の特記事項に手間と頻度→二次判定、p.22)/看護必要度(令和8年版 別紙7): 入浴の項目なし |
| 論文・尺度 | 「浴槽移乗」(FIM。日本語版の正式な項目名は未確認)「minimal assistance」「moderate assistance」 | あり(訳語は複数) |
なぜ食い違うのか
「膝裏を支える」は、湯船をまたぐ本人の膝の裏に職員が手を当てる介助を指す現場の口語で、「一部介助」「軽介助」とも呼ばれます。本人が脚を上げて職員の手がついていく場面と、職員が両脚を抱えて入れる場面は、横から見ればどちらも「膝の裏に手がある」だけです。
食い違いの元は、送り手が脚を上げた主体を、受け手が手の位置を根拠にしていることです。たとえば、申し送った職員は「脚を上げるのは本人で、手は添えているだけ」のつもりで「一部介助」と言い、受けた職員は「膝の裏を持っている、つまり持ち上げている」のつもりで聞きます。「軽い」「重い」で分けても、切れ目は読む人ごとにずれます。
認定調査には、湯船をまたぐ工程を選ぶ項目がありません。1-10 洗身は入浴行為を含まず(p.57)、2-1 移乗にも浴槽はないため、調査員は類似する能力の項目の特記事項に手間と頻度を書き、審査会に委ねます(p.22)。現場の「一部介助」と「全介助」の観察点は、添えているか抱えているかです。
事例で見る: 当てはまる・当てはまらない・微妙
「一部介助」に当てはまる例: 本人が脚を上げ、職員は膝裏に添えて動きに合わせる
状況:80代の女性、特別養護老人ホーム。入浴は週2回です。縁に腰掛け、右手で手すりを握って左脚を上げました。
職員は左膝の裏に手を添え、脚が上がる動きに合わせて補助し、縁を越えたところで手を離しました。
判定:当てはまります。脚を上げたのは本人で、職員の手は添えているだけだからです。
根拠:認定調査では特記事項に「またぐ間、職員が膝裏に手を添える介助が週2回の入浴のたびに必要」と書く(p.22 の手続き)
記録ではこう書く:「浴槽またぎ: 縁に腰掛け、右手で手すり。脚を上げたのは本人。職員は膝裏に手を添えて動きに合わせ、抱え上げていない」
「一部介助」に当てはまらない例(全介助): 脚が動かず、職員が両脚を抱えて入れる
状況:90代の女性、同じ施設。縁に腰掛けたあと「足が動かない」と本人が言い、脚は上がりませんでした。
職員は両脚を抱えて湯の中へ下ろし、上体を後ろから支えて底に座らせました。
判定:当てはまりません(全介助)。脚を動かしたのは職員で、抱えて湯に入れているからです。
根拠:認定調査では特記事項に「脚が上がらず、職員が両脚を抱えて浴槽内に下ろす介助が週2回の入浴のたびに必要」と書く(p.22 の手続き)
記録ではこう書く:「浴槽またぎ: 縁に腰掛けたあと脚は本人が動かせず、職員が両脚を抱えて浴槽内に下ろし、上体を支えて着底」
「一部介助」に当てはまるか割れる例: 膝裏に手はあるが、脚は本人が全部動かしている
状況:70代の男性、同じ施設。両手で縁をつかんで左脚を上げました。
職員は左膝の裏に手を触れていましたが、ついていくだけで、「もしものため」と言っていました。
判定:割れます。手は触れているが脚を上げたのは本人で、「一部介助」とも「見守り」とも送れるからです。
根拠:認定調査員テキスト p.22(特記事項に手間と頻度を記載し、二次判定に委ねる)。語を選ばず「本人が脚を上げ、職員は膝裏に手を触れるのみ。入浴のたび」と事実で書く
記録ではこう書く:「浴槽またぎ: 両手で縁をつかみ本人が挙上。職員は膝裏に手を触れるのみ、持ち上げていない」
例題で確かめる
基準: (○: 主張のとおり ×: 違う △: 割れる)
- 認定調査員テキスト: 浴槽をまたぐ工程に認定調査の項目はない(1-10 洗身は入浴行為を含まない p.57。2-1 移乗の列挙にも浴槽はない p.70)。関連する項目の特記事項に手間と頻度を書き、二次判定に委ねる(p.22)
- 老振発0330第2号 1-6: 入浴の見守りは見守り的援助(身体介護)で、必要に応じて行う介助を含む
- 申し送り: 現場語の「一部介助」と「全介助」は、脚を上げたのは誰か、職員の手が添えているか抱えて持ち上げているかで分ける
例題1
状況:A様は通所リハビリテーションを利用しています。縁に浅く腰掛け、左手で浴槽用の手すりを握り、右脚を自分で持ち上げました。
職員は右側にしゃがんで右膝の裏に手を当て、上がっていく脚についていき、湯に入ったところで離しました。この場合、「認定調査では洗身の項目の選択肢に含めて評価する」となる。
例題2
状況:B様は介護老人保健施設に入所し、週2回入浴しています。縁に腰掛けたあと「今日は足が上がらない」と言い、脚は上がりませんでした。
職員2人のうち1人が両脚を抱えて浴槽の中へ入れ、もう1人が後ろから上体を支えて座らせました。この場合、「認定調査では特記事項に『脚が上がらず、職員2人が両脚を抱えて浴槽に入れ、上体を支える介助が週2回の入浴のたびに必要』と書く」となる。
例題3
状況:C様はショートステイの利用者です。縁に腰掛けて手すりを握り、浴槽側へ向きを変えるところまでは自分で行いますが、脚は上がらず、職員が片脚ずつ膝裏を持って持ち上げ、湯に入れます。
上体は本人が手すりで支えます。この場合、「申し送りでは『全介助』で送る」となる。
記録・書類にはこう書く
現場で起きたこと
女性は浴槽の縁に腰掛け、右手で手すりを握って上体を支えながら左脚を上げた。職員は左膝の裏に手を添え、脚が上がる動きに合わせて補助し、縁を越えたところで手を離した。右脚も同じ形で入れた
記載例(介護記録/看護記録)
介護記録: 浴槽の縁に腰掛け、右手で手すりを握って左脚、右脚の順に入れた。脚を上げたのは本人で、職員は上がる脚の膝裏に手を添えて動きに合わせ、縁を越えたところで離した。抱え上げていない。/看護記録: 入浴時の浴槽の出入りは縁に座って行い、両脚とも本人が上げた。職員は膝裏に手を添えたのみ。またぎの途中のふらつきなし
根拠
認定調査員テキストでは 1-10 洗身の留意点に「入浴行為は、この項目には含まない」とあり(p.57)、2-1 移乗の列挙にも浴槽はない(p.70)。適切な項目がない行為は、もっとも類似または関連する能力の項目の特記事項に具体的な介護の手間とその頻度を書いて二次判定に委ねる(p.22)。「軽い」「重い」ではなく、脚を上げた主体と手の役割(添えた/抱えて持ち上げた)と週の回数を並べて書けば、そのまま特記事項の材料になる
判定するのは誰か:認定調査では、調査員は浴槽の場面を選択肢ではなく特記事項に書き、審査会が手間として判断します。施設の記録は脚を上げた主体と手の役割を事実で書けば足ります。病棟の評価票に入浴の項目はなく、記入は院内研修を受けた評価者が観察と当日の記録から行います。
制度によって「一部介助」の枠が違います
認定調査の 2-1 移乗では「見守り等」と「一部介助」は別の選択肢ですが、1-10 洗身には見守り等の選択肢がなく(介助されていない/一部介助/全介助/行っていない)、見守り等は一部介助に含まれます。浴槽のまたぎはどちらにも列挙されていないので、調査員は選択肢を選ばず特記事項に書きます。
訪問介護では「入浴、更衣等の見守り」が見守り的援助で、必要に応じて行う介助を含みます(老振発0330第2号 1-6)。どの書類に書くかで同じ「一部介助」の読まれ方が変わるので、選択肢の名前だけで送らず、脚を上げた主体を添えます。
現場で変えられること、変えられないこと
今日から自分で変えられること
- 申し送りの「一部介助」には、脚を上げたのが誰かを足します。
- 記録には、膝裏に添えたか、脚を抱えたかまで手の形を書きます。
- 受けたときは「持ち上げていますか、添えていますか」と聞き返します。
- 記録には、観察できたことだけを書きます。
相談すれば変えられること
- 誰に: リハ職・看護師
- 伝える事実: 今週の入浴2回とも左脚は持ち上げが要り、縁に脚が当たった
- 頼むこと: 膝裏に添える介助から持ち上げる介助に変えるかの判断
- 誰に: 福祉用具専門相談員・ケアマネジャー
- 伝える事実: 週2回の入浴で、右脚を入れるとき毎回膝裏を持ち上げている
- 頼むこと: バスボード・浴槽台・手すりの導入の検討
変えられないこと
- 浴槽のまたぎに認定調査の項目がなく、特記事項でしか伝わらないのは制度の枠です。
- 股関節や膝の曲がる角度は疾患そのものに属し、現場では変えられません。
まとめ
- 縁に腰掛けて手すりを握り、本人が上げる脚の動きに合わせて膝裏を補助しているなら申し送りは「一部介助」。認定調査では特記事項に「脚を上げたのは本人、職員は膝裏に添えるのみ。週2回の入浴のたび」と書く
- 本人の脚が動かず、職員が両脚を抱えて湯に入れ、上体も支えて座らせたなら「全介助」。特記事項には「両脚を抱えて浴槽内へ下ろす介助が入浴のたびに必要」と書き、「膝裏を支えた」だけで送らない
- 膝裏に触れているが脚は本人が全部動かし、手は「もしものため」だけの場面は、「一部介助」と「見守り」のどちらの語でも送れて割れる。特記事項には「手は触れるのみ、脚は本人が挙上」と事実で書く
- 受け手は「一部介助」と聞いたら「脚を持ち上げていますか、添えているだけですか」と確かめ、送り手は脚を上げた主体を1語足す
関連する問い
- 「またぎは見守り」は、座位またぎか立位またぎか。方式で危険度が違う
- 浴槽から出るとき脇を支える。一部介助か
- ズボンを持って引き上げる。一部介助か、全介助か(抱えているか)
- もっと詳しく: 入浴動作 完全ガイド
- 定義の原文と変遷: otwiki『一部介助』(ページ作成後にリンク)
施設の面会で「湯船をまたぐところは一部介助です」と職員に言われたり、ケアマネジャーから「またぎは全介助ですね」と確かめられたりしても、家で見ている光景と結びつきにくいものです。膝の裏に手を当てているのは同じでも、足を上げているのが本人か、手を当てている人かで、言葉が変わります。
「またぎは一部介助」と言われたら、何が起きているのか
施設の記録では、足を上げているのが本人で手は膝の裏に添えているだけなら一部介助、足が動かず抱えて湯船に入れているなら全介助と呼び分けることが多い言葉です。介護保険の認定調査には湯船をまたぐ動作そのものを選ぶ項目がなく、調査員は特記事項に、どう手を貸しているかと週に何回かを文章で残します。調査員には、湯船をまたぐときにどう手を貸しているかを具体的に伝えてください。それが特記事項に書かれ、審査会が手間として見ます。
当てはまる例: 母が自分で足を上げ、娘は膝の裏に手を添えるだけ母は浴槽の縁に腰掛け、手すりを握って右足を上げます。娘は膝の裏に手を添えて、上がっていく足についていき、縁を越えたら手を離します。足を上げているのは母なので、これは「一部介助」です。ケアマネジャーには「足を上げているのは本人」と伝えます。
当てはまらない例: 夫の足が動かず、妻が両足を抱えて湯船に入れる夫は縁に腰掛けたあと「足が動かない」と言い、妻が両足を抱えて湯船の中に下ろし、体も後ろから支えて座らせます。足を動かしているのは妻なので、これは「全介助」です。「膝の裏を支えている」ではなく「抱えて入れている」とそのまま伝えます。
介助されている方がこれを読んだときは、「全介助」は「何もできない」という意味ではなく、その日その動作で足を人が抱えて入れた、という事実を表す言葉だと受け取ってください。上がる日と上がらない日があるなら、上がらない日の回数を介助している人と数えておくと伝わります。
| 相談先 | 相談すること |
|---|---|
| ケアマネジャー | 調査で伝えた内容と日頃の入り方が違うとき。両足を抱える日が増えて、バスボードや浴槽用の手すりを借りたいとき |
| 訪問看護 | 抱えて入れる日が続いて介助している人の腰がつらいとき。またぐ途中で膝が折れることが増えたとき。入れ方を実際に見てもらいたいとき |
| かかりつけ医 | 足が上がらない日が1〜2週間で急に増えたとき。薬が変わってから足の動きが変わったとき |
| 施設の相談員 | 施設の記録に「一部介助」「全介助」とあるとき、足を上げているのは本人か、職員が持ち上げているのかを聞きたいとき |
膝の裏に手を当てる前に「上げられそう?」と一声かけ、介助されている方が足を上げ始めてから手を当ててみてください。上がらない日は無理に持ち上げず、その日はシャワーにするかを一緒に決め、上がらなかった日を数えておくと、次に会うリハビリの担当者やケアマネジャーに伝えやすくなります。
家ではこう分けて伝える
まとめ
- 縁に腰掛けた母が手すりを握って足を上げ、家族は膝の裏に手を添えて動きについていくだけなら「一部介助」。ケアマネジャーには「足を上げているのは本人」と伝える
- 本人の足が動かず、家族が両足を抱えて湯船に入れ、体も支えて座らせているなら「全介助」。「抱えて入れている」とそのまま伝える
- 膝の裏に手は当てているが足は本人が全部動かしている日は、「念のため触れているだけ」と伝え、上がらない日があればその回数も添える
- 調査員には、足を上げているのが本人か、抱えて入れているかと週の回数を伝える。それが特記事項に書かれ、審査会が手間として見る
- 家族向けの関連記事: お風呂に安全に入るための工夫/移乗介助のコツ ── ベッドから車椅子への移り方
この説明で、知りたいことは分かりましたか?
- 厚生労働省 認定調査員テキスト2009改訂版(令和6年4月改訂)p.22(適切な項目がない行為は能力の項目の特記事項に手間と頻度を記載)、p.57(1-10 洗身)、p.70(2-1 移乗の列挙)
- 厚生労働省 介護認定審査会委員テキスト2009改訂版(令和3年4月改訂)p.8(介護の手間は特記事項を根拠に判断)
- 厚生労働省 基本診療料の施設基準等(令和8年 保医発0305第7号)別添6 別紙7 重症度、医療・看護必要度 評価の手引き(一般病棟用)B項目(入浴の項目はない)
- 厚生労働省 老振発0330第2号(平成30年3月30日)訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について(1-6 自立生活支援・重度化防止のための見守り的援助)
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
運営者プロフィールを見る →