この記事のポイント
- 作業療法は古代の「活動による癒し」に起源を持ち、18世紀の道徳療法を経て1917年にアメリカで専門職として確立、日本では1965年の「理学療法士及び作業療法士法」で国家資格になりました
- 1952年に世界作業療法士連盟(WFOT)が設立され、現在は117の協会・約68万人の作業療法士が世界で活動しています
- 日本では1966年に第1回国家試験と日本作業療法士協会設立、1972年にWFOT加盟。有資格者は11万人を超えています
作業療法の歴史を知る意義
作業療法は、20世紀初頭にアメリカで専門職として確立された比較的新しい職種です。しかし「活動を通じて人を癒す」という考え方そのものは、はるか古代にまで遡ることができます。
作業療法の歴史を学ぶことは、この専門職の本質を理解する上で欠かせません。なぜ「作業」が治療に用いられるのか、その根拠と変遷を知ることで、現代の臨床実践をより深く捉えることができます。
「作業療法」という言葉は、リハビリの場面で耳にすることが多いと思います。では、この仕事はいつ、どのように生まれたのでしょうか。
実は「好きな活動や仕事には、人を元気にする力がある」という考え方は、大昔からありました。このページでは、作業療法士という専門職が歩んできた道のりを、やさしくご紹介します。歴史を知ると、リハビリで「活動」を大切にする理由が見えてきます。
古代 ― 活動による癒しの原点
作業療法という名称が生まれる遥か以前から、人類は「活動」に治療的な意味を見出していました。
古代エジプト・ギリシャ
古代エジプトでは、精神的な不調を抱える人に対してゲームや散歩などの活動を処方していたという記録が残っています。また、古代ギリシャの医師ガレノス(Galen、129年頃〜200年頃)は、「仕事は自然の最善の医者である(Employment is nature's best physician)」という言葉を残しており、活動と健康の関係が古くから認識されていたことがわかります。
中世ヨーロッパ
中世ヨーロッパでは、修道院において労働と祈りを組み合わせた生活が精神的な安定をもたらすと考えられていました。しかしこの時期、精神疾患を持つ人々への処遇は概して厳しく、「活動による治療」という考え方が広く実践されていたわけではありません。
人類は大昔から、「何かに取り組むこと」に心を癒す力があると気づいていました。
古代エジプトでは、心の不調がある人にゲームや散歩をすすめていたという記録が残っています。また、古代ギリシャの医師ガレノスは「仕事は自然の最善の医者である」という言葉を残しました。
楽しみや役割のある暮らしが健康につながる――この気づきが、作業療法の原点です。
近代 ― 道徳療法から専門職の確立へ
18世紀: 道徳療法(Moral Treatment)の登場
1700年代後半、ヨーロッパで道徳療法(Moral Treatment)と呼ばれる運動が起こります。フランスのフィリップ・ピネル(Philippe Pinel)やイギリスのウィリアム・テューク(William Tuke)らが、精神疾患を持つ人々を鎖から解放し、園芸・工芸・動物の世話といった活動に従事させることで回復を促しました。
この道徳療法の考え方は、作業療法の直接的な先駆けといえます。
19世紀: アメリカへの波及
道徳療法の理念はアメリカにも伝わり、トーマス・エディ(Thomas Eddy)らによって実践されました。しかし19世紀後半になると、精神病院の大規模化や過密化に伴い、道徳療法は次第に衰退していきます。
20世紀初頭: 専門職としての誕生
1910年代、アメリカで作業療法が専門職として確立されます。建築家のジョージ・バートン(George Edward Barton)は、自身の結核療養中の経験から「活動による治療」の価値を確信し、1917年に全米作業療法協会(National Society for the Promotion of Occupational Therapy)を設立しました(出典: AOTA百周年記念サイト「1917: Important Events in OT's History」, 1917年3月にニューヨーク州クリフトンスプリングスで設立総会)。これが現在のアメリカ作業療法士協会(AOTA)の前身です。
同時期、ソーシャルワーカーのエレノア・クラーク・スラグル(Eleanor Clarke Slagle)は、精神科患者に対する体系的な活動プログラムを開発し、「作業療法の母」と呼ばれるようになりました。
第一次・第二次世界大戦の影響
二度の世界大戦は、作業療法の発展に大きな影響を与えました。戦傷者のリハビリテーション需要が急増し、身体障害領域への作業療法の適用が本格化します。特に第二次世界大戦後は、復員軍人の社会復帰支援として作業療法の需要が飛躍的に高まりました。
今から200年ほど前のヨーロッパで、大きな転機が訪れます。
当時、心の病気を抱える人々は、鎖につながれるなど、つらい扱いを受けることが少なくありませんでした。フランスやイギリスの医師たちはそうした人々を解放し、園芸や手工芸、動物の世話といった活動を通じて回復を助けました。この取り組みは道徳療法と呼ばれ、作業療法の直接のルーツになりました。
その後、この考え方はアメリカに渡り、1917年に作業療法の専門職団体が誕生します。「作業療法の母」と呼ばれるスラグルさんをはじめ、多くの先人が土台を築きました。さらに二度の世界大戦では、けがをした兵士の回復と社会復帰を支える仕事として、作業療法は大きく発展しました。
作業療法の世界的な広がり
世界作業療法士連盟(WFOT)の設立
1952年、世界作業療法士連盟(World Federation of Occupational Therapists: WFOT)が設立されました。これにより、作業療法の国際的な基準策定や教育の質の保証が進められるようになります。
2026年現在、WFOTには117の作業療法士協会が加盟しており、世界中で約68万人の作業療法士が活動しています(出典: WFOT公式サイト, 2026年)。
1952年には、世界中の作業療法士がつながる国際組織(WFOT)が生まれました。現在では100を超える国と地域の団体が加盟し、世界でおよそ68万人の作業療法士が活動しています。
日本における作業療法の歩み
黎明期(1960年代)
日本における近代的な作業療法の歴史は、1960年代に始まります。
1963年
- 1日本初の作業療法士養成校が設立される(国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院)
1965年
- 2「理学療法士及び作業療法士法」が制定され、作業療法士が国家資格として法的に位置づけられる(出典: 日本作業療法士協会「協会の沿革」)
1966年
- 3第1回作業療法士国家試験が実施される(合格者20名)
成長期(1970〜1990年代)
1966年
- 1日本作業療法士協会が設立される
1972年
- 2日本がWFOTに正式加盟
1970〜80年代
- 3養成校が全国に増設され、作業療法士の数が着実に増加
2000年
- 4介護保険制度の施行により、地域リハビリテーションにおける作業療法士の活躍の場が拡大
現在(2000年代〜)
2010年
- 1厚生労働省「チーム医療の推進について」通知で、作業療法士の業務範囲が改めて明確化
2020年代
- 2作業療法士の有資格者数は11万人を超え(2024年3月時点で113,649人。出典: 日本作業療法士協会 会員統計資料, 2024年)、医療・介護・福祉・教育など幅広い分野で活躍
- 3地域包括ケアシステムの推進に伴い、訪問リハビリテーションや地域支援事業での役割が拡大
- 4発達障害支援や就労支援など、従来の医療モデルを超えた領域への進出が加速
日本で作業療法士が国家資格になったのは1965年です。法律ができた翌年の1966年に最初の国家試験が行われ、このときの合格者はわずか20名でした。
その後、養成校が全国に増え、作業療法士の数は少しずつ増えていきます。2000年に介護保険の制度が始まると、病院の中だけでなく、ご自宅や地域で活躍する作業療法士が増えました。
今では資格を持つ人は11万人を超え、訪問リハビリやお子さんの発達支援、就労支援など、活躍の場はどんどん広がっています。
作業療法の歴史年表
| 年代 | 出来事 |
|---|---|
| 古代 | 古代エジプト・ギリシャで活動による治療の記録 |
| 1790年代 | 道徳療法(Moral Treatment)の登場 |
| 1917年 | アメリカで全米作業療法協会の前身が設立 |
| 1952年 | 世界作業療法士連盟(WFOT)設立 |
| 1963年 | 日本初の作業療法士養成校が設立 |
| 1965年 | 「理学療法士及び作業療法士法」制定 |
| 1966年 | 第1回作業療法士国家試験・日本作業療法士協会設立 |
| 1972年 | 日本がWFOTに加盟 |
| 2000年 | 介護保険制度施行、地域での活躍の場が拡大 |
| 2020年代 | 有資格者11万人超、多領域での活躍が進む |
主な出来事を、かんたんな年表にまとめました。
大昔
古代エジプトやギリシャで、遊びや散歩が心の癒しに使われる
約200年前
ヨーロッパで活動による治療(道徳療法)が広がる
1917年
アメリカで作業療法の専門職団体が生まれる
1952年
世界作業療法士連盟(WFOT)ができる
1965年
日本で作業療法士が国家資格になる
現在
日本の作業療法士は11万人以上に。活躍の場が広がり続けている
これからの作業療法
作業療法の歴史を振り返ると、この専門職は常に社会の変化とともに発展してきたことがわかります。高齢化が進む日本社会において、作業療法士の役割はますます重要になっています。
地域包括ケアシステムの中核を担う専門職として、また予防医療や健康増進の分野でも、作業療法の可能性は広がり続けています。
作業療法の基本について詳しく知りたい方は、「作業療法とは?わかりやすく解説」もあわせてご覧ください。
作業療法は、時代の変化に合わせて活躍の場を広げてきました。これからも、住み慣れた場所で自分らしく暮らすことを支える身近な専門職として、ますます大切な役割を担っていきます。
「そもそも作業療法では何をするの?」と思われた方は、「作業療法とは?わかりやすく解説」もあわせてご覧ください。
- ご本人が昔好きだった活動を書き出してみましょう。園芸、手芸、料理、囲碁など、慣れ親しんだ趣味はリハビリの大切なヒントになります。担当の作業療法士にぜひ伝えてください
- ご家庭の中に小さな役割を一つ用意してみましょう。花の水やりや食卓の準備など、小さな仕事が毎日の張り合いになります。活動そのものが人を元気にすることは、作業療法の歴史が教えてくれています
- リハビリで気になることは、その場で質問してみましょう。「なぜこの活動をするのですか」と聞くと目的を説明してもらえ、ご家庭での関わり方のヒントにもなります
作業療法の原点は、「好きな活動には人を元気にする力がある」という、大昔から変わらない気づきです。
ご本人が楽しいと感じる活動を大切にする姿勢は、100年以上かけて受け継がれてきた作業療法の中心的な考え方です。リハビリの内容で気になることがあれば、遠慮なく担当の作業療法士に相談してみてください。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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