作業療法の歴史 ― 古代から現代までの歩みをわかりやすく解説
作業療法の歴史を知る意義
作業療法は、20世紀初頭にアメリカで専門職として確立された比較的新しい職種です。しかし「活動を通じて人を癒す」という考え方そのものは、はるか古代にまで遡ることができます。
作業療法の歴史を学ぶことは、この専門職の本質を理解する上で欠かせません。なぜ「作業」が治療に用いられるのか、その根拠と変遷を知ることで、現代の臨床実践をより深く捉えることができます。
古代 ― 活動による癒しの原点
作業療法という名称が生まれる遥か以前から、人類は「活動」に治療的な意味を見出していました。
古代エジプト・ギリシャ
古代エジプトでは、精神的な不調を抱える人に対してゲームや散歩などの活動を処方していたという記録が残っています。また、古代ギリシャの医師ガレノス(Galen、129年頃〜200年頃)は、「仕事は自然の最善の医者である(Employment is nature's best physician)」という言葉を残しており、活動と健康の関係が古くから認識されていたことがわかります。
中世ヨーロッパ
中世ヨーロッパでは、修道院において労働と祈りを組み合わせた生活が精神的な安定をもたらすと考えられていました。しかしこの時期、精神疾患を持つ人々への処遇は概して厳しく、「活動による治療」という考え方が広く実践されていたわけではありません。
近代 ― 道徳療法から専門職の確立へ
18世紀: 道徳療法(Moral Treatment)の登場
1700年代後半、ヨーロッパで道徳療法(Moral Treatment)と呼ばれる運動が起こります。フランスのフィリップ・ピネル(Philippe Pinel)やイギリスのウィリアム・テューク(William Tuke)らが、精神疾患を持つ人々を鎖から解放し、園芸・工芸・動物の世話といった活動に従事させることで回復を促しました。
この道徳療法の考え方は、作業療法の直接的な先駆けといえます。
19世紀: アメリカへの波及
道徳療法の理念はアメリカにも伝わり、トーマス・エディ(Thomas Eddy)らによって実践されました。しかし19世紀後半になると、精神病院の大規模化や過密化に伴い、道徳療法は次第に衰退していきます。
20世紀初頭: 専門職としての誕生
1910年代、アメリカで作業療法が専門職として確立されます。建築家のジョージ・バートン(George Edward Barton)は、自身の結核療養中の経験から「活動による治療」の価値を確信し、1917年に全米作業療法協会(National Society for the Promotion of Occupational Therapy)を設立しました。これが現在のアメリカ作業療法士協会(AOTA)の前身です。
同時期、看護師のエレノア・クラーク・スラグル(Eleanor Clarke Slagle)は、精神科患者に対する体系的な活動プログラムを開発し、「作業療法の母」と呼ばれるようになりました。
第一次・第二次世界大戦の影響
二度の世界大戦は、作業療法の発展に大きな影響を与えました。戦傷者のリハビリテーション需要が急増し、身体障害領域への作業療法の適用が本格化します。特に第二次世界大戦後は、復員軍人の社会復帰支援として作業療法の需要が飛躍的に高まりました。
作業療法の世界的な広がり
世界作業療法士連盟(WFOT)の設立
1952年、世界作業療法士連盟(World Federation of Occupational Therapists: WFOT)が設立されました。これにより、作業療法の国際的な基準策定や教育の質の保証が進められるようになります。
2026年現在、WFOTには100以上の国と地域の作業療法士協会が加盟しており、世界中で約60万人の作業療法士が活動しています。
日本における作業療法の歩み
黎明期(1960年代)
日本における近代的な作業療法の歴史は、1960年代に始まります。
- 1963年: 日本初の作業療法士養成校が設立される(国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院)
- 1965年: 「理学療法士及び作業療法士法」が制定され、作業療法士が国家資格として法的に位置づけられる
- 1966年: 第1回作業療法士国家試験が実施される(合格者20名)
成長期(1970〜1990年代)
- 1966年: 日本作業療法士協会が設立される
- 1972年: 日本がWFOTに正式加盟
- 1970〜80年代: 養成校が全国に増設され、作業療法士の数が着実に増加
- 2000年: 介護保険制度の施行により、地域リハビリテーションにおける作業療法士の活躍の場が拡大
現在(2000年代〜)
- 2010年: 厚生労働省「チーム医療の推進について」通知で、作業療法士の業務範囲が改めて明確化
- 2020年代: 作業療法士の有資格者数は約10万人を超え、医療・介護・福祉・教育など幅広い分野で活躍
- 地域包括ケアシステムの推進に伴い、訪問リハビリテーションや地域支援事業での役割が拡大
- 発達障害支援や就労支援など、従来の医療モデルを超えた領域への進出が加速
作業療法の歴史年表
| 年代 | 出来事 |
|---|---|
| 古代 | 古代エジプト・ギリシャで活動による治療の記録 |
| 1790年代 | 道徳療法(Moral Treatment)の登場 |
| 1917年 | アメリカで全米作業療法協会の前身が設立 |
| 1952年 | 世界作業療法士連盟(WFOT)設立 |
| 1963年 | 日本初の作業療法士養成校が設立 |
| 1965年 | 「理学療法士及び作業療法士法」制定 |
| 1966年 | 第1回作業療法士国家試験・日本作業療法士協会設立 |
| 1972年 | 日本がWFOTに加盟 |
| 2000年 | 介護保険制度施行、地域での活躍の場が拡大 |
| 2020年代 | 有資格者10万人超、多領域での活躍が進む |
これからの作業療法
作業療法の歴史を振り返ると、この専門職は常に社会の変化とともに発展してきたことがわかります。高齢化が進む日本社会において、作業療法士の役割はますます重要になっています。
地域包括ケアシステムの中核を担う専門職として、また予防医療や健康増進の分野でも、作業療法の可能性は広がり続けています。
作業療法の基本について詳しく知りたい方は、「作業療法とは?わかりやすく解説」もあわせてご覧ください。