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カルテは誰のために書くのか ── 記録の基本と「伝わる文章」

記録の目的は法的根拠・情報共有・思考整理の3つ。書式は施設ごとに異なりますが、代表例としてSOAP形式の書き方を紹介します。

📅 2026年3月23日 更新読了目安 6分

新卒OTスタートアップコラム「4月1日までに知っておきたいこと」── 第3回

この記事のポイント

  • カルテの目的は「法的な記録」「多職種との情報共有」「自分の臨床推論の整理」の3つです
  • 記録の書式は施設ごとに異なります。大切なのは書式ではなく「伝わる記録の考え方」です
  • 学生時代のレポートとの最大の違いは「簡潔さ」と「次のアクションが見えること」です

記録の3つの目的

「カルテを書く」と聞いて、何を思い浮かべますか。多くの新人は「義務」や「面倒な作業」を連想するかもしれません。

しかし記録には、明確な3つの目的があります。

1. 法的な記録

診療録は法律で保存が義務づけられた公文書です。「何を、いつ、なぜ行ったか」が記録されていなければ、法的には「行っていない」と見なされる可能性があります。万が一の医療事故や訴訟の際、カルテはあなたを守る盾にもなります。

2. 多職種との情報共有

あなたが書いた記録は、医師、看護師、PT、STなど多くの専門職が読みます。あなたが帰宅した後の夜間に、看護師がその記録を見て患者さんのケアを判断することもあります。記録は「未来の誰か」へのメッセージです。

3. 自分の臨床推論の整理

記録を書く過程で、自分の頭の中が整理されます。「なぜこの介入を選んだのか」「結果はどうだったか」「次回はどうするか」── 書くことで、漠然とした臨床判断が言語化されます。これは臨床推論のトレーニングそのものです。

書式はあくまで「器」── どの書式でも共通する原則

ここで大切なことをお伝えします。記録の書式は施設ごとに異なります。

SOAP形式を採用している施設もあれば、経時記録、フォーカスチャーティング、クリニカルパスに沿った記録など、さまざまです。入職先でどの書式を使うかは、4月になってから教わります。

しかし、書式が違っても「伝わる記録」の原則は共通です。

伝わる記録の3原則
原則1
  • 事実と解釈を分ける:「元気そうだった」は解釈。「笑顔で挨拶し、自ら歩行器を取りに行った」が事実。事実を先に書き、解釈は明確に区別する
原則2
  • 数値で書けるものは数値で書く:「可動域が改善した」ではなく「肩関節屈曲が120°→135°に改善」。数値は誰が読んでも同じ意味になる
原則3
  • 次のアクションが見えるように書く:記録を読んだ人が「で、次はどうするの?」と思わないように今後の方針を明記する。臨床の記録は未来のアクションに向かって書く

SOAP形式の一例

代表的な記録書式のひとつとして、SOAP形式を紹介します。あくまで多くの書式の中のひとつの例として参考にしてください。

SSubjective:主観的情報

「右手でお箸を使うと疲れて途中で諦めてしまいます」

OObjective:客観的情報

右手指巧緻性テスト:ペグ移動 60秒/10本(前回 72秒)。箸操作訓練15分実施。小さな食材(枝豆大)のつまみ上げ成功率 6/10。訓練後半に右手内在筋の疲労による把持力低下を認めました。

AAssessment:評価・解釈

巧緻性は改善傾向にありますが、持久力の問題が食事動作の自立を妨げています。筋疲労への対策が課題です。

PPlan:計画

筋持久力向上を目的に、低負荷・高頻度の内在筋トレーニングを追加します。食事場面では、疲労が出る前に自助具(太柄スプーン)への切り替えを提案します。

ポイントは、SからPへと論理的につながっていることです。患者さんの訴え(S)→ 客観的な裏づけ(O)→ 臨床判断(A)→ 具体的な次のアクション(P)。この流れは、SOAP以外の書式でも応用できます。

学生時代の記録との違い

実習記録では、「考察」に多くの紙面を割いたのではないでしょうか。文献を引用し、理論的な裏づけを長文で書く。それは学びの過程として正しいことでした。

しかし臨床の記録は「忙しい多職種が30秒で読んで理解できること」が求められます。

長文の考察は不要です。要点を絞り、簡潔に、次のアクションが見える形で書く。これが臨床記録のスタイルです。

受け入れ側へ── 書式を教える前に「目的」を伝える

新人に記録の書き方を教えるとき、いきなり書式のテンプレートを渡すケースが多いのではないでしょうか。

しかし「なぜ記録を書くのか」を理解していない状態で書式だけ教えても、形だけ整った中身のない記録になりがちです。

まず「誰が読むのか」「何のために書くのか」を伝えてから、書式の説明に入ることをおすすめします。

また、新人の記録に対するフィードバックも重要です。赤ペンで修正するだけでなく、「この部分は看護師にも伝わりやすくて良かった」「ここはもう少し数値があると客観性が上がるよ」と、良い点と改善点の両方を具体的に伝えると、上達が早くなります。


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