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CMOP-E(カナダ作業遂行・参加モデル)とは? ― 「その人らしさ」を真ん中に置く作業療法

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#作業療法#リハビリ#cmop-e

この記事のポイント

  • CMOP-Eは「人・作業・環境」の相互作用を捉えるカナダ発のモデル。「その人らしさ(スピリチュアリティ)」を中核に据える
  • 評価ツールCOPMは40か国以上・35言語以上で使用され、世界で最も広く使われる作業療法のアウトカム測定ツールの一つ
  • 「遂行(できること)」だけでなく「参加(関わること)」まで視野に入れる点がCMOP-Eの特徴

はじめに ― 理論シリーズ第2回

前回のMOHOの記事では、人間の作業行動を「意志・習慣化・遂行能力・環境」から理解するモデルを紹介しました。

今回は、作業療法のもう一つの柱となるモデル、CMOP-E(カナダ作業遂行・参加モデル)を取り上げます。MOHOが「人の内面」を精密に分析するモデルだとすれば、CMOP-Eは「クライエント中心」という哲学を理論に昇華させたモデルです。

CMOP-Eとは何か

CMOP-Eの正式名称はCanadian Model of Occupational Performance and Engagement。日本語では「カナダ作業遂行・参加モデル」と訳されます。

カナダ作業療法士協会(CAOT)が開発した、作業療法の理論的基盤となるモデルです。

一言で言えば、CMOP-Eは「人」と「作業」と「環境」の相互作用の中心に、その人のスピリチュアリティ(存在の本質)を置くモデルです。

CMOP-Eの歴史 ― 「クライエント中心」の40年

出発点 ― 1983年のガイドライン

CMOP-Eのルーツは、1980年代のカナダに遡ります。

1983年、カナダ保健福祉省とCAOTは「Guidelines for the Client-Centred Practice of Occupational Therapy」を発表しました。クライエント中心の実践という概念を作業療法に初めて体系的に導入した文書です。

心理学者カール・ロジャーズの「クライエント中心療法」から影響を受けつつ、作業療法独自の概念として発展させたものでした。

CMOPの誕生(1997年)

1997年、CAOTは「Enabling Occupation: An Occupational Therapy Perspective」を出版。ここでCMOP(Canadian Model of Occupational Performance)が正式に提示されました。エリザベス・タウンゼンド(Elizabeth Townsend)らが編集を担当しています。

このモデルは「人・作業・環境」の3要素の相互作用を、入れ子構造の図で表現しました。そして、人の中核にスピリチュアリティを据えたことが、他のモデルにない大きな特徴でした。

CMOP-Eへの拡張(2007年)

2007年、「Enabling Occupation II」(エリザベス・タウンゼンド&ヘレン・ポラタイコ編)が出版され、モデルはCMOP-Eに改称・拡張されました。

最大の変更点は、モデル名に「E(Engagement=参加)」が加わったことです。

出来事
1983年クライエント中心の実践ガイドライン発表
1991年作業遂行モデルの基礎を含むガイドライン改訂
1997年「Enabling Occupation」出版、CMOP正式提示
2002年改訂版出版
2007年「Enabling Occupation II」出版、CMOP-Eに拡張

なぜ「参加(Engagement)」が加わったのか

2001年にWHOが採択したICF(国際生活機能分類)で、「参加(participation)」が重要概念として位置づけられました。CMOP-Eの拡張はこの流れと呼応しています。

「遂行(Performance)」は作業を実際に「行う」ことに焦点を当てます。しかし、作業との関わり方はそれだけではありません。

料理ができなくなった高齢者が、レシピを考えたり、家族に作り方を教えたりすることで料理に「参加」している。直接作業を遂行できなくても、計画する、思い描く、関心を持つ、意味を見出す。こうした関わりの形も含めて「参加(Engagement)」です。

CMOP-Eの理論構造 ― 3つの輪とその中心

CMOP-Eは、視覚的には入れ子構造の図で表現されます。最も内側にスピリチュアリティ、それを囲む人の構成要素、その外側に作業、最外側に環境が位置します。

中核 ― スピリチュアリティ(Spirituality)

CMOP-Eの最も特徴的な概念です。モデル図のまさに中心に位置します。

ここでいうスピリチュアリティは、宗教的な意味に限定されません。CAOTは次のように定義しています。

「人の内的な本質であり、意味のある作業への従事によって形づくられ、表出されるもの」

具体的には、意味(meaning)、目的(purpose)、意志(volition)、自己決定(self-determination)です。「何に価値を見出すか」「何が自分らしいと感じるか」「人生で何を大切にしているか」。

なぜこれが中核なのか。

ある脳卒中後の方が「自分で料理を作りたい」と言ったとします。その願いの奥にあるのは何でしょうか。「家族に手料理を食べさせるのが自分の存在意義だから」かもしれません。その「存在の本質」に触れなければ、本当の意味でクライエント中心の支援はできないというのがCMOP-Eの立場です。

人(Person) ― 3つの遂行要素

スピリチュアリティを中核に、人は3つの要素で構成されます。

身体的要素(Physical)

感覚機能、運動機能。身体を使って作業を遂行する能力です。

認知的要素(Cognitive)

思考、記憶、判断、理解、集中。作業の計画・実行に必要な知的機能です。

情動的要素(Affective)

感情、対人関係能力、動機づけ。人との関わりや、作業に向かう気持ちに関連します。

MOHOの「意志・習慣化・遂行能力」がより詳細な概念分析であるのに対し、CMOP-Eの人の構成要素はシンプルです。その分、スピリチュアリティという上位概念で統合している点が特徴です。

作業(Occupation) ― 3つの領域

CMOP-Eは作業を3つの領域に分類します。

セルフケア(Self-care)

身辺処理、入浴、食事、移動、健康管理など。自分自身のケアに関わる活動です。

生産活動(Productivity)

仕事、家事、育児、学業、ボランティア。社会的・経済的に貢献する活動です。「生産」とありますが、家事や育児、ボランティアも含む広い概念です。

レジャー(Leisure)

余暇活動、趣味、遊び、スポーツ、社会参加。楽しみのための活動です。

この3分類は直感的でわかりやすく、クライエントとの会話の中で「セルフケアで困っていることは?」「お仕事や家事では?」「趣味や楽しみの時間は?」と聞いていく評価の入口として機能します。

環境(Environment) ― 4つの側面

CMOP-Eは環境を4つに分けて捉えます。ICFの環境因子と重なる部分もありますが、文化的環境と制度的環境を明確に分離している点が特徴です。

物理的環境(Physical): 住環境、建物、道具、自然環境、技術。

社会的環境(Social): 家族、友人、コミュニティ、社会的ネットワーク。

文化的環境(Cultural): 民族、価値観、信念体系、慣習。「お年寄りは家で看るべき」といった文化的規範も含まれます。

制度的環境(Institutional): 法律、政策、経済制度、医療・介護サービス。介護保険制度や障害者総合支援法は制度的環境の一部です。

COPM ― クライエントの声を聴く評価ツール

CMOP-Eと切り離せないのが、COPM(カナダ作業遂行測定)です。

COPMとは

Canadian Occupational Performance Measure。メアリー・ロー(Mary Law)、スー・バティスト(Sue Baptiste)、ヘレン・ポラタイコ(Helene Polatajko)らが1991年に開発し、現在は第5版(2014年)です。

COPMは「クライエント自身が、自分にとって重要な作業の問題を特定し、その変化を測定する」ツール。世界で40か国以上、35言語以上に翻訳され、作業療法のアウトカム測定ツールとして最も広く使われているものの一つです。

評価の流れ

COPMは半構造化面接の形式で行われます。

ステップ1: 問題の特定

セラピストがクライエントと対話し、セルフケア・生産活動・レジャーの3領域で「困っていること」「もっとうまくやりたいこと」を聴き出します。

ステップ2: 重要度の評定

挙がった問題それぞれについて、クライエントが「自分にとってどれくらい大切か」を1~10で評定します。

ステップ3: 優先課題の選択

重要度の高い問題から、通常上位5つ程度を選択します。

ステップ4: 遂行度と満足度の評定

選択した問題について、現在の遂行度(どれくらいできているか)満足度(その出来具合にどれくらい満足しているか)をそれぞれ1~10で自己評価します。

ステップ5: 再評価

介入後に同じ問題について再度評定。2点以上の変化が「臨床的に意味のある変化」とされています。

COPMの力 ― なぜ「本人に聞く」のか

COPMの核心は、セラピストが問題を決めるのではなく、クライエント自身が決めるという点にあります。

セラピストが見て「この人は着替えに問題がある」と評価しても、本人にとって着替えより「友人と外出すること」のほうがはるかに重要かもしれません。COPMは「専門家が見た問題」ではなく「本人が感じている問題」を出発点にします。

これがクライエント中心の実践の具体的な形です。

CPPF ― 実践のプロセスを示す地図

CMOP-Eには、理論を実践に落とし込むためのCPPF(カナダ実践プロセス枠組み)が用意されています。2007年の「Enabling Occupation II」で提示されました。

CPPFは8つのアクションポイントで構成されます。これは直線的ではなく循環的に進行し、必要に応じて前のステップに戻ります。

8つのアクションポイント

1. 参入/開始(Enter/Initiate)

クライエントとの出会い。紹介を受ける、依頼が来る、サービスが始まるタイミングです。

2. 舞台設定(Set the Stage)

信頼関係の構築。安心して話せる環境を整え、クライエント中心のアプローチの基盤をつくります。ここが不十分だと、後の評価で本音が引き出せません。

3. 評価(Assess/Evaluate)

作業遂行上の問題を特定・評価。COPMをはじめとする評価ツールを使用します。

4. 目標・計画の合意(Agree on Objectives and Plan)

クライエントと協働で目標を設定し、介入計画を策定します。セラピストが一方的に決めるのではなく、パートナーシップの中で合意します。

5. 計画の実行(Implement Plan)

介入を実施。作業に焦点を当てたイネーブルメント(可能化)スキルを活用します。

6. モニタリング・修正(Monitor and Modify)

介入の経過を観察し、必要に応じて計画を修正します。

7. 成果の評価(Evaluate Outcome)

介入の成果を評価。COPMの再評価で、遂行度・満足度の変化を確認します。

8. 終結/退出(Conclude/Exit)

サービスの終結、フォローアップ、他サービスへの移行。

現場でどう使う? ― 領域別の活用例

身体障害領域 ― 「何を取り戻したいか」から始める

具体的な業務フロー
  1. 舞台設定: 入院後の不安に寄り添い、信頼関係を構築
  2. 評価: COPMで面接。「自分で食事をしたい」「字を書きたい」「趣味の園芸を再開したい」など、本人が重要と感じる問題を特定。スピリチュアリティの観点から「なぜその作業が重要なのか」を理解
  3. 目標の合意: 遂行度・満足度の数値をもとに、優先課題と目標を本人と決定
  4. 介入: 環境調整(自助具の導入、住環境の改善)、身体的要素・認知的要素への働きかけ、段階的な作業遂行の練習
  5. 再評価: COPMで遂行度・満足度の変化を測定(2点以上の変化を目標)
  6. 退院支援: 制度的環境(介護保険サービス等)を活用した地域生活への移行

精神科領域 ― リカバリーを支える

精神科では、スピリチュアリティの概念が特に力を発揮します。意味のある作業への参加がリカバリー(回復)を促進するという考え方です。

具体的な業務フロー
  1. 舞台設定: 時間をかけて信頼関係を構築。急がず、本人のペースを尊重
  2. 評価: COPMで「やりたいこと」「困っていること」を丁寧に聴取。「何もしたくない」と言われたら、それ自体が重要な情報
  3. 目標の合意: 小さくても本人にとって意味のある目標を設定(例: 「午前中に散歩に出る」)
  4. 介入: 興味に基づく作業活動の段階的な導入、社会的環境の調整(グループ活動への参加など)
  5. 再評価: COPMで変化を確認。数値だけでなく、面接での語りの変化にも注目

高齢者ケア ― 「参加」の形を広げる

認知症が進行した方にCOPMの面接を直接行うのは難しい場合があります。その場合は家族や介護者を含めた評価を行います。

ここで「参加(Engagement)」の概念が活きます。

具体例
  • 調理はできなくなったが、レシピを考えることで料理に参加
  • 買い物に行けなくなったが、チラシを見て必要なものを指示することで買い物に参加
  • 掃除はできなくなったが、家族の作業を見守り、「きれいになったね」と声をかけることで家事に参加

「遂行」できないから終わり、ではなく関わり方を変えれば「参加」は続けられる。CMOP-Eの「E」が最も輝く場面です。

小児領域 ― 子どもと親の両方の声を聴く

具体的な業務フロー
  1. 評価: 年齢に応じてCOPMを子ども本人・保護者と実施。「学校でお友達と遊びたい」「着替えを一人でやりたい」など
  2. 環境評価: 学校の物理的環境、クラスの社会的環境、家庭の文化的背景を包括的に把握
  3. 目標の合意: 子ども・保護者・教師と共有できる目標を設定
  4. 介入: 遊びや学習活動を通じた支援、学校・家庭への環境調整
  5. 再評価: COPMで変化を確認

CMOP-EとMOHOの違い

どちらも作業療法の主要モデルですが、力点が異なります。

観点CMOP-EMOHO
開発元カナダ作業療法士協会(1997年〜)ゲイリー・キールホフナー(1980年〜)
中核概念スピリチュアリティ意志・習慣化・遂行能力
人の分析シンプル(身体・認知・情動)詳細(意志の3要素、習慣の2要素、lived body)
主要評価ツールCOPM(1種だが汎用性が高い)20種以上の専門ツール群
実践プロセスCPPFで体系化治療的推論プロセス
強みクライエント中心の哲学が明確人の内面の精密な分析、豊富なエビデンス

MOHOが「人の内面を精密に理解するための顕微鏡」だとすれば、CMOP-Eは「クライエントとの対話を導くコンパス」です。

臨床では併用されることも多く、COPMで全体像をつかみ、MOHOの評価ツールで特定の領域を深掘りする、という使い方が有効です。

CMOP-Eの強みと課題

強み

  • クライエント中心が徹底されている。スピリチュアリティを中核に据え、本人の意味・目的・価値に寄り添う
  • 理論・評価・プロセスが一体化。CMOP-E(理論)、COPM(評価)、CPPF(プロセス)のセットで、理論から実践への橋渡しが明確
  • 「参加」の概念。遂行できなくても関わりは続けられるという視点は、重度障害や終末期の方への支援にも通じる
  • ICFとの親和性。環境・参加の概念がICFと整合的

課題

  • スピリチュアリティの曖昧さ。抽象的な概念であり、臨床での具体的な評価・介入方法が確立しきっていない
  • 言語化への依存。COPMは面接が基盤のため、言語化が難しい方(重度認知症、意識障害、乳幼児)には適用が難しい
  • 文化的前提。「自己決定」「自律」を重視する北米の価値観が基盤。日本のような集団主義的文化では、家族の意向と本人の意向の調整が必要な場面がある

日本でのCMOP-E

日本へのCMOP-E・COPMの導入には、吉川ひろみ氏(県立広島大学)が中心的な役割を果たしました。日本語版COPMの翻訳・普及を主導し、「COPM・AMPSスターティングガイド」(医学書院)などの著書を通じて、臨床現場への浸透を推進しています。

日本の作業療法教育課程ではCMOP-E・COPMはほぼ必ず教授される主要モデルです。近年は「作業に焦点を当てた実践」の重要性が認識されるにつれ、COPMの使用機会は増加傾向にあります。

ただし、半構造化面接に必要な時間の確保(20~30分程度)や、日本の文化的文脈での「スピリチュアリティ」概念の理解が課題として挙げられています。

おわりに ― 「あなたにとって大切なことは何ですか?」

CMOP-Eが作業療法士に問いかけるのは、とてもシンプルなことです。

「あなたにとって大切なことは何ですか?」

この問いを本気で聞くこと。答えを尊重すること。そして、その答えに沿って支援を組み立てること。CMOP-Eはその哲学を理論として体系化し、COPMという道具とCPPFというプロセスで実践可能にしたモデルです。

次回の理論シリーズでは、西洋的な個人主義に依らないモデルとして注目される川モデル(Kawa Model)を紹介します。

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本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものです。COPMの評価用紙・マニュアルには著作権があります。実際の使用にあたっては正規のマニュアルを参照してください。

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