作業療法における「作業」とは?日常のすべてが治療になる理由
「作業」という言葉の誤解
「作業療法」と聞いて、多くの方が思い浮かべるのは、工場での単純作業や手作業のようなイメージではないでしょうか。実は、作業療法における「作業」は、日本語の辞書的な意味とはまったく異なります。
作業療法でいう「作業」とは、英語の「occupation(オキュペイション)」の訳語です。occupationには「従事すること」「時間を満たすもの」という広い意味があり、人が日常の中で行うあらゆる営みを指します。
作業療法における「作業」の定義
国際的な定義
世界各国の作業療法士協会は、「作業(occupation)」を以下のように定義しています。
カナダ作業療法士協会(CAOT, 1997)は、作業を次の3つの領域に分類しました。
- セルフケア(self-care): 食事、入浴、着替えなど自分自身の世話をする活動
- 生産活動(productivity): 仕事、家事、学業など社会的・経済的に貢献する活動
- レジャー(leisure): 趣味、遊び、スポーツなど楽しみのための活動
アメリカ作業療法士協会(AOTA, 2020)は、さらに詳細な分類として「作業療法実践枠組み(OTPF)」の中で以下の領域を定めています。
- 日常生活活動(ADL)
- 手段的日常生活活動(IADL)
- 健康管理
- 休息と睡眠
- 教育
- 仕事
- 遊び
- レジャー
- 社会参加
作業科学による定義
1991年に確立された作業科学(Occupational Science)では、作業を「文化的・個人的に意味を持つ活動の一群」と定義しています。ここで重要なのは、何が「作業」に該当するかは客観的な基準ではなく、その人自身がどう感じるかによって決まるという点です。
日本語の「作業」との決定的な違い
日本語で「作業」というと、手仕事や単純労働を連想しがちです。この言葉のイメージが、作業療法の理解を妨げている面は否定できません。
作業療法における「作業」は、以下のすべてを含みます。
- 朝起きて顔を洗う
- 家族と食事をする
- 子どもと遊ぶ
- 仕事に行く
- 趣味の園芸を楽しむ
- 友人とおしゃべりする
- ペットの世話をする
- 季節の行事に参加する
つまり、人が生活の中で行うすべての活動が「作業」に含まれるのです。
なぜ「作業」が治療になるのか
作業と健康の関係
人は意味のある作業に従事することで、心身の健康を維持・向上させることができます。逆に、病気やけが、障害、加齢などによって大切な作業が行えなくなると、身体機能の低下だけでなく、意欲の減退や社会的孤立にもつながります。
作業療法では、この「作業と健康の密接な関係」を治療の基盤としています。
「その人にとって意味のある作業」がカギ
作業療法が他のリハビリテーションと異なる大きな特徴は、「その人にとって意味のある作業」を中心に据える点です。
例えば、脳卒中で手の機能が低下した方がいたとします。作業療法では、単に握力を鍛える訓練を繰り返すのではなく、その方にとって大切な活動(例えば「自分でコーヒーを淹れること」「孫に手紙を書くこと」)を目標に設定し、その達成に向けた支援を行います。
本人にとって意味のある活動を目標にすることで、リハビリテーションへの意欲が高まり、結果的に回復も促進されるのです。
対象者によって「作業」は変わる
作業療法における「作業」は、対象者の年齢、立場、価値観によって大きく異なります。
| 対象者 | 大切な「作業」の例 |
|---|---|
| 子ども | 遊び、学校生活、友達との交流 |
| 働き盛りの方 | 仕事、育児、地域活動 |
| 主婦・主夫 | 家事、買い物、家族の世話 |
| 高齢者 | 日常生活動作、趣味活動、社会参加 |
作業療法士は、対象者との対話を通じて「その人にとって何が大切な作業なのか」を丁寧に把握し、その実現を支援します。
作業についてもっと知る
作業療法における「作業」の概念は、一見シンプルですが、実は非常に奥深いものです。「人は作業をすることで健康になれる」というこの考え方が、作業療法という専門職の根幹を成しています。
- 作業療法の全体像: 「作業療法とは?わかりやすく解説」
- 作業療法士の仕事: 「作業療法士ってどんな仕事?」
- 作業療法の歴史: 「作業療法の歴史」